梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

洗濯日和、お掃除日和

2006年07月31日 | 芝居
昨日今日と、ほぼ一日自宅に籠って、たまっていた雑事を片付けておりました。
本や資料の整理、部屋の掃除、勉強会での私自身のお客様へのチケット発送、銀行の通帳記入に日用品の買い出し、料理に洗濯、もちろん結婚式・披露宴の準備…。お気に入りの音楽を聴きながら、のんびりマイペースでいたしましたから、さほど苦にもなりませんでしたが、少々疲れはいたしました。

家中が綺麗になって、心もスッキリ。いよいよはじまる勉強会の本格的なお稽古はじめ、様々な仕事へも、新たな気持ちで取り組んでゆけそうです。…八月は多数仕事がありますので、色々とお話したいことはございますが、はてさて、身のせわしさに取り紛れ、言うべきことも後や先…となりそうです。ここふた月ばかりのように、更新を怠けることがないよう気をつけます。

江戸の花、ですね

2006年07月29日 | 芝居
今日は<隅田川花火大会>。三月末に引っ越して以来、今日という日を首を長くして待っておりました。
というのも、新居のベランダから、ちょうどいいアングルで花火が見えるらしいという情報を聞いていたので、それを確かめたかったのです。上手くいけば、次回から友人達を招いての催しも企画できますしね。

さて午後七時半。ベランダに椅子を置き、冷えたビールとおつまみを並べて用意万端。地上七階から夜空を見つめておりましたが、いや~見える見える! 第一会場から打ち上げられた花火は、何にも遮られることなく綺麗な模様を描いておりました(第二会場のは下半分がビルに隠れてました)。一時間の打ち上げ時間はあっというま。ほろ酔い気分で楽しく拝見しましたが、渦巻き型やブタの顔やら、朝顔の花など、形も様々、色とりどり。久しぶりに間近に見る花火に、一昨日までの舞台の疲れも癒されました。
ビデオカメラにも収めたので、仕事で観られなかった家内にも映像で見せてあげました。意外と臨場感があって、私も面白く見られました。デジカメで撮った画像も、綺麗にとれましたでしょ?

台本を帳簿に持ちかえて

2006年07月28日 | 芝居
今日からはいわゆる<本興行>の仕事はないので、いちおうはお休みの月に入ったと申してもよいのですが、再三申し上げます通り、<宗家藤間会><小学生のための歌舞伎体験教室><稚魚の会・歌舞伎会 合同公演>、そして私どもの結婚式と、予定はぎっしりでございます。
お昼から国立劇場養成課にお邪魔して、<稚魚の会友の会>、ダイレクトメールからご注文下さったお客様への、チケット送付作業。合わせて百数十名へ、日時、枚数を確認しながら三百枚近いチケットを封筒に詰めてまいります。間違っては大変なことになるので、慎重に丁寧に。養成課の職員さんとの共同作業で、二時間半ほどで終了。とりあえず私の任務の大半はこれで終了しました。あとは本日以降のご注文の受付と、勉強会公演中の、チケットがらみの問い合わせ、トラブルの対応をすることになります。また、本年は勉強会全体の代表幹事をさせていただいておりますので、舞台のウラ、オモテにわたる庶務全般や、出演者間の連絡作業、統括もいたさねばなりません。初めての経験なので先輩方に教わってばかりですが、ご迷惑をかけないよう、気をつけて勤めてまいります。

さて、本年の合同公演、大変チケットの売れ行きがよく、一同感謝いたしております。全体的に昼の部の売れ行きが大変よく、売り切れの日もでておりますが、夜の部はまだ若干の余裕がございます。まだ予定を決めていないあなた、来るなら夜の部ですよ!

一日に二カ所で舞台

2006年07月27日 | 芝居
計四回の横浜公演を終えて、さあのんびりと後片付け…というわけにはまいりません! 本日は国立劇場大劇場にとってかえし、<宗家藤間会>で師匠が出演いたします『大望月』の舞台稽古がございました。
午後五時過ぎに『毛谷村』終了、その二十分後には、私と兄弟子が師匠よりもさきに国立劇場へと出発。みなとみらい駅から東横線、半蔵門線を乗り継いで五十分ほどで到着、楽屋の準備をいたします。師匠もしばらくして楽屋入り、もともと素踊りでの上演ですが、今日の舞台稽古は普通の稽古着で、とのことでしたので、師匠のご用意はあっというまでしたが、後見をさせて頂きます私は、小道具の確認や舞台上での場あたりなどでちょとバタバタしてしてしまいました。

師匠の楽屋入りから三十分もたたないうちに『大望月』の開幕。四十分近い踊りですが、重厚で渋い趣きの松羽目物。あまり本興行にはかからない演目ですが、ほぼ舞台にいっぱなしの後見なので、さりげなく拝見できるのが嬉しいところ。とはいえ後見の仕事も色々あって気が張ります。どのキッカケで仕事をしに出てゆくかを、伺いながら勤めましたが、膝詰めで移動することが多いので、さっきまで立ち回りで動き回っていた身にとって、ちょっとツラいものがありました。まあ本番は大丈夫でしょうが。

…でも実は、本番八月六日は私どもの結婚式、披露宴の翌日! 別の意味で疲れてるのではないかなあ…。しかし仕事は仕事です! いつも通りの仕事をするのみ、ですね!

写真はくだんのダラダラ坂<紅葉坂>です。今度ココを登るのは、何年後でしょうか…?

暑い一日でしたね

2006年07月26日 | 芝居
横浜公演の会場は、桜木町にある<神奈川県立青少年センター>内のホールです。七月の鑑賞教室ではよくお邪魔するところで、私は平成十一年、師匠初役の『石切梶原』以来、二度目の出演となります。
JR桜木町駅から徒歩十分、紅葉坂という、長く勾配のきつい坂道を登りきったところにあるので、夏場の通勤はこたえます。おりしも久々の晴天炎天、汗びっしょりで楽屋入りする人ばかりでした。

最近内装をリニューアルしたそうで、とても綺麗で使いやすい楽屋になっておりました。築年数の古い劇場でしたから、なんとなくジットリ湿った薄暗い印象ばかり残っていたのでオドロキでした。
舞台はとてもこじんまりとしたもので、国立劇場の大劇場とはおおきな違いです。『杉坂墓所』で、若干装置の変更はございましたが、『毛谷村の場』で使っていた二重屋体は、そのまま使用されました。
ただ間口は狭くなりましたし、花道も斜めについたごく短いもの。出演者みなみな、きちんとした居所合わせもせず、それまでの動きを臨機応変でこの舞台に合わせていらっしゃいましたが、毎日舞台が変わる地方巡業を経験しているからこそできることでしょうね。

舞台袖に、スタッフさん達のために<カルピス>が振る舞われていましたが、これが写真の通りプラスチックのバケツに入っているのです。蓋を開ければ、氷がぎっしりと浮かび、満々とたたえられたカルピスが。これを金柄杓ですくって飲むという、なんとも豪快で夏らしい趣向ですね。張り紙には<名物>とありましたが、いつからはじまったのでしょう?

終演後はふたたび実家に帰宅。食事をとってから以前ご紹介した<CAMDEN LOCK>で飲み直し。その味を知ってから、是非とも夏場に飲んでみたかった<ジャック・ター>を楽しみました。勉強会の宣伝もできましたが、はてさて地元からのお客様は増えるのでしょうか?

久々家族と

2006年07月25日 | 芝居
明日からは『歌舞伎鑑賞教室』の横浜公演です。桜木町にある会館での上演ですから、移動の便と通勤時間短縮のため、今日のうちに実家に帰りました。とはいえ午後八時半からの歌舞伎座地下稽古場での勉強会の稽古を終えてからの帰宅ですから、もう日付が変わろうとしております。ゆっくり休んで二日間四回の舞台を頑張ります!

曖昧にして申し訳ありませんでした。

2006年07月24日 | 芝居
お陰様で本日無事に千穐楽の舞台を勤めることができました。長かったようでもあり、あっという間だったようなひと月でした。

ひと月の公演を終え、皆様にお伝えしたいことがございます。
普段ですと、その月勤めさせて頂いているお役をお知らせして、日々反省やら苦心談やら、色々と書き連ねているところですが、今月に限りましては、私自身のお役のことは、ほとんどお話しいたしませんでした。
今月私は『毛谷村の場』での、京屋(芝雀)さん演ずるお園のクドキにからむ<忍びの浪人 直方源八>というお役を頂戴いたしました。皆様よっくご存知かと思いますが、義太夫に合わせて、京屋さんと一対一で数分間の立ち回りを演じるお役です。
数度のトンボも含め、色々な技巧を使い、また、花四天や若い者といった普通のカラミ以上に芝居心を要求される、大変なお役で、たくさんの場数を踏んできた、ベテラン方が勤めるお役。名題さんが演じたこともあるくらいのものでございます。

そのようなお役を頂戴した私ですが、実際のところ、立ち回りの経験は浅い、技巧は未熟、芝居心も満足に表現できないまったくの若造です。お役が要求する諸々の条件を、ことごとく満たしていない私が、このお役を演じてしまうということは、これまでこのお役を演じてこられた数多くの先輩方に失礼なのではないか、まだ早すぎるのではないか、それよりなにより、ひと月の公演を無事に勤めおおせることができるのか。このお役が決まった六月中旬から、今月の初日があくまで、本当に本当に悩みました。
このお役を過去何度も演じてこられた大先輩に、先月中からお稽古をお願いし、お忙しい中長時間ご指導を頂いたうえで初日を迎え、公演中は一座している他の先輩方から、連日のようにダメだしを受けました。今日の夜の部はこうしよう、明日はああしようと、挑んではしくじり、試してはやりそこなうことばかりでしたが、それでも数をこなすうちに、だんだんと過剰な気負いや緊張は和らぎ、ちょっとでもこのお役に近付こうと、前向きに考えられるようになりました。

それでも、計四十二回の舞台の出来は、皆様がご覧になったとおりの有様です。力不足の自分が情けなく、からませて頂いている京屋さんにも申し訳なく、悔しい思いばかりが残りました。
…私が今月の記事に自分のお役のことを書かなかったのは、たとえその日の反省にしろ、あるいは苦心談を語るにせよ、お役と私の技倆の差があまりにかけ離れている以上、どんなことをお話ししても、それは不遜な振る舞いであり、身の程を知らない、独りよがりの思い上がった物言いになると考えたからでございます。それくらいこのお役は、私にとりましては、<まだ手を出せない>お役だったのです。

さりながら、今月この機会を与えて下さったことには本当に感謝しております。おかげで自らのいたらなさを痛いまで感じさせられました。私の心の深く深くまで届く言葉もたくさん頂きました。結婚を機に新たな第一歩を踏み出した私にとりまして、最初で最大の試練だったかもしれません。諸先輩方、ご覧になったお客様に、こころよりお礼を申し上げます。

ともかくも、出せる力は全て出しました。
その結果がどうであろうと、ただ受け入れるのみ、です。
演ずるということが、ますます怖くなってまいりましたが、これからの舞台で、少しでも皆様に納得して頂けるよう、精一杯精進いたします。どうか末永くお見守り下さいませ。

明後日から二日間にわたる横浜公演でも、試行錯誤は続きます!

いよいよラスト!

2006年07月23日 | 芝居
国立劇場七月公演も、明日で千穐楽です。
二十六日、二十七日は横浜の会館に場所を移しての公演があり(ごく短期の移動公演は<こたび>なんて申しておりますが)、厳密にいえばまだゴールにはいたっていないのでしょうが、とりあえずの一区切り。計四十二回の舞台が、終わろうとしております。今日まで無事に勤められたことを感謝しながら、東京最後の舞台を、いつも以上に大切に、大事に演じたいと思っております。

本日は終演後、師匠のスチール撮影がございました。すでにチラシも出ておりますので、ご存知の方も多いと思いますが、国立劇場『元禄忠臣蔵』での、浅野内匠頭役の宣伝写真です。
『毛谷村』の六助から、数十分で拵えを変え、六時頃から撮影開始。立ち姿、座ったかたち、向きを変え視線を変え、幾パターンも撮りました。いずれポスターや本チラシでお目に触れると思います。お楽しみに。

仕事を終えての午後七時半からは、私どもの結婚披露宴の司会を勤めて下さる方(プロの方)との打ち合わせがございました。本当に結婚式、披露宴は、話し合うことが多いですね。当日の宴の進行の仕方、段取りを細々と確認。とっても気さくで朗らかな女性の方で、これならば当日、ご来賓の方々に、素敵なひと時を過ごして頂けそうで安心いたしました。

今日は<土用>ということで、スーパーで買った鰻を食べて明日へのエネルギー補給も完了。これから大和屋(玉三郎)さんの『アマテラス』のテレビ中継を拝見いたしましょう!

伎芸天を紋所に

2006年07月21日 | 芝居
一日の休暇を頂いて、フル充電状態で臨んだ本日の公演。お休み前の舞台より心なしか体も軽く、元気にお役を勤めることができました。東京公演は残り三日、六回公演。無事に勤め上げたいものです。

…今月出演しております国立劇場は、今年で会場四十周年。校倉造りの外観と、広くゆとりのある客席、ロビー、大規模な機構を備えた近代的な舞台が調和した立派な劇場ですが、私達が一日を過ごす楽屋も、大変使いやすいです。
楽屋は一階のみで、舞台と同じ階ですから出番ごとの行き来が簡単で時間もかかりません。廊下が広いので大勢が衣裳を着けても通行が混雑することはありませんし、二十室近い楽屋の大半には押し入れがあるので荷物の収納ができ、廊下にはみ出すことはありません。さらに部屋内についていえば、小道具や衣裳を保管できる大きな棚、テレビ、ライトつきの鏡台、衣紋掛け、ハンガーラックが全ての部屋に常備されており大変便利ですし、付き人さんのための洗濯機、物干し場ももちろんあります。
楽屋風呂も三室あり、名題、名題下俳優が使う大浴室は洗い場だけでも十畳、湯船は八畳くらいもあるでしょうか。
出演者の下足を管理するのは、歌舞伎座同様<口番>さんですが、国立劇場の場合はあくまで楽屋口での用をするのみ。歌舞伎座のように揚幕を担当したり舞台の雑務はいたしません。楽屋内の庶務は<舞台事務所>という部署がなさいます。

いわゆる<大部屋>はないので、我々は四、五人、多いときなら六~八人ずつ分かれての部屋割りになりますが、歌舞伎座とは全然違う雰囲気での日々も、時にはよいものです。基本的に一回公演中心の劇場ですし、昼から始まり夕方に終わるという、たいへん贅沢なひと月を過ごせるので、国立の芝居に出たい! と密かに願う仲間は多いのですが、こればかりは、師匠のスケジュール次第ですからね…。

私は、年に五ヶ月この国立劇場に出演したこともございましたが、だいたい毎年一、二回ぐらいです。今年は十月に、再びお邪魔いたします。

体と心をいたわって

2006年07月20日 | 芝居
本日は国立劇場の<休館日>。公演もお休みです。
日がな一日自宅でボケーっと…とゆきたいところですが、なかなかそうも参りません。昼過ぎからは私どもの結婚式、披露宴の最終打ち合わせに式場へ。私の衣装合わせやら家内のドレスチェック、披露宴会場のレイアウト、進行の確認など、五時間近くお邪魔いたしましたが、今日の話し合いで、諸々の決め事全てが決定し、とりあえず一安心です。あとは披露宴で司会を勤めて下さるプロの方との打ち合わせを残すのみ。二週間後の本番にむけて、我々二人の気持ちも大いに高まってきました!

夜は藤間の御宗家の稽古場で、師匠のお稽古。八月四日~六日開催の舞踊会『宗家藤間会』で、六日の公演で師匠が出演なさいます長唄『大望月』のお稽古です。お能の『望月』から移された、松羽目物の舞踊劇ですが、今回は<素踊り>です。私が師匠の後見をさせて頂くこととなりました。結婚式の翌日ですが、気持ちを切り替えてしっかり勤めます。

明日は再びの<社会人のための歌舞伎鑑賞教室>で、午後二時半と六時半の二回公演。朝はゆっくり通勤できるので有り難いですね。今日一日のんびりできなかった分、明日は昼前までゴロゴロさせて頂きましょう!

二十六回目の…

2006年07月18日 | 芝居
国立劇場での公演を終えてから、勉強会のチケット事務作業。前回の公演での、アンケートにお答え頂いた方のうち、希望者には今公演のダイレクトメールをお送りさせて頂き、チケットのお申し込みを受け付けております。本日はすでにお申し込み頂いた方の注文内容を確認し、すでに現金書留で送って頂いたチケット代金を集計。皆様からお預かりした大切なお金ですから、保管も計算も、間違いは許されません。養成課の方のご協力も得て慎重に計算。見事一発で帳面と現金が合いまして、ホッといたしました。今回の公演から、このダイレクトメールからのご注文分と、私達研修所出身俳優による<稚魚の会>の後援団体である<稚魚の会友の会>からのお申し込み分は、私が一括管理し、チケットの配送までの責を負うことになりました。もちろん初めてのことなので、先輩から手取り足取り教わりながらの作業なんですが、ミスは許されない仕事なので気が張りますね。

一通り作業が終わってからは、歌舞伎座地下の稽古場で、勉強会の『修禅寺物語』のお稽古。歌舞伎座夜の部終演を待っての開始ですので、夜遅くの稽古となるわけですが、指導でいらっしゃる紀伊国屋(田之助)さんが快くお出ましくださり、丁寧なご指導を下さるのが大変有難いです。実際動いてみての稽古になりますと、私が勤めさせて頂く源頼家は、座っている時間が大変長いのですが、その間を、悠揚と、そして毅然として過ごすのが大変難しく、ともすれば相手の台詞に対して動きでリアクションをとりたくなるところを、ぐっとこらえねばならず、昨年の『十種香』の勝頼と同じ課題と直面しております。<大きな>鎌倉将軍になれるよう、精一杯苦心します。

さて、本日で私も二十六歳! 新たなスタートです。結婚もいたしまして、より大きな責任を感じると申しましょうか、変わらねば、の思いも強くなっておりますが、自分のペースを保ちつつ、あせらずのんびり毎日の精進をしてまいりたいと思っておりますが、まずはこの夏を乗り切らねば! 結婚式、宗家藤間会、小学生のための歌舞伎体験教室、そして勉強会(事務作業も含めて!)。やらなければならないことは山ほどあるのですから!

恐るべき力で

2006年07月17日 | 芝居
写真の物体、六助のお家の<庭石>です。
微塵弾正にだまされたことを知り、あまりの悔しさ腹立たしさに、
?胸もはり裂く怒りの歯がみ 庭の青石三尺ばかり 思わず踏ん込む金剛力」
の浄瑠璃の通り、この石を踏みますと、踏んだところがメリメリと沈み、反対側は持ち上がってしまいます。六助の怪力ぶりを表現する見せ場の一つです。
この仕掛けはいたってシンプル。石の中心を固定軸として、シーソーのように上下に動くようにしてあり、足で踏む部分は、一定の深さに沈んだら、逆戻りしないようにストッパーがつけられています。力を入れなくても簡単に沈むようになっているのですが、舞台上での演技では、力一杯踏み込んでいるように見えますね。
このお芝居では舞台全面に<所作舞台>を敷き詰めます。この仕掛けも当然所作舞台に仕込むため、石の形に所作舞台を切らなければなりません。当国立大劇場はもとより、歌舞伎座などの大きな劇場には、この仕掛けのためだけの、「穴の開いた所作舞台」が用意されているそうです。
今回の演出では、<踏んだ部分がめりこみ、反対側は持ち上がる>という変化を見せますが、<全体がすっかり埋まってしまう>という場合もございます。演者によってかわるわけですが、当然仕掛けもかわり、予め折り癖をつけたブリキの板に石を取り付け、踏んだ力でブリキを潰すことで、それらしく見せるのだそうです。

また、庭石ではなく二重屋体の昇り降りに使う踏み段を石造りにして(普通なら丸太を組んだ形)、これを踏みつぶすという演出(というか<型>)もあるそうです。

掲載写真で、石の端からひょろっと出ているものがありますが、これはうっかり開演前に踏んでも沈まないようにするための留め具です。全ての所作舞台を敷いてから、もし誤って石を沈めてしまったら、いったん所作舞台を上げてセットし直さなくてはなりませんからね。

いつかこの石を踏んでみたいと思っているのですが…。

いざ敵討ちへ

2006年07月15日 | 芝居
『毛谷村』の終盤、善意で勝ちを譲ってやった微塵弾正こそ、許嫁お園の仇であることが判った六助は、敵討ちに出立するため、勇み勇んで装束を改めます。
この着替えの場面では、下座囃子に<物着の合方>を使います。そのものズバリ、拵え変えをする場面で使われる曲で、『吃又』や『絵本太功記』の「尼崎閑居の場」でも聞くことができます。三味線、鼓、大皷を主とした大変賑やかな節で、六助一行の華々しい門出にはピッタリですね。
さてこの曲に合わせて、六助はテキパキと着替えるわけですが、それまで着ていた<木綿紬、夜具(やぐ)縞に紺絣の肩入れ>の着流し姿から、<絹紬、薄納戸色>着付に<ねずみ地大小あられ小紋>の裃という凛々しい出で立ちになり、茶柄黒鞘の大小刀を帯びるわけです。
ストーリー上はお園や後室お幸が手伝っているということなのですが、舞台上ではあくまで迅速、円滑に作業をするため、黒衣の後見が後ろについて、着替えを手伝います。いわば、いつも衣裳さんがするような作業を、弟子の立場の者が舞台上でするわけですね。
締めている帯を解くことから始まり、脱いだ衣裳を手際よく片付ける、師匠の手の動きに合わせて帯を締める(結び方は<貝の口>です)、袴の紐を結ぶ、肩衣のヒダをとる…。口でいうのは簡単ですが、これがなかなか緊張する仕事です。後見がもたもたしてしまうと師匠もやりにくいですし、お客様もダレてしまいます。てきぱきスピーディーにこなすためには、なんといっても何回もある<結ぶ>作業を手早くやらなくてはなりませんが、普段は当たり前のようにやっていることでも、いざ舞台でやるとなると焦ってしまったり。慣れるまでは大変です。
私も初めてさせて頂いたときは汗をかきまくりの大騒ぎでしたが、二回目からは落ち着いてできるようになりました。慣れてくればこっちのもので、あとはいかにすれば師匠もやりよく、時間も詰められるか、工夫と挑戦の毎日でした。

着替えの衣裳は、二重屋体の上手側にある戸棚にしまってあり、これを六助自らが取り出す段取りです。茶色のタトウ紙に包まれた状態ですが、タトウ紙は小道具、着替えは衣裳方の管轄です。開幕前に、後見が衣裳部屋に行き着替えを預かり、自分でタトウ紙に包んで、舞台にセットいたします。着付や裃の置き方は、着替えを手伝って下さるお園役の俳優さんに伺って決めています。あくまでお園が着付をしているという場面ですから、今月でいえば京屋(芝雀)さんのなさりよいように万事用意してあるのです。

後見が目立っては何にもならないのを承知で申し上げますが、師匠と弟子の共同作業も、ちょっとお目にとめて頂ければと存じます。

社会人のための歌舞伎鑑賞教室

2006年07月14日 | 芝居
今日はいつもと上演時間が変わりまして、二時半からと六時半からの、遅めの二回公演となり、六時半からの公演は<社会人のための歌舞伎鑑賞教室>と銘打たれた公演でした。
お勤めが終わった会社員の皆様にも、手軽に歌舞伎を楽しんで頂こうということで、夕方からの上演となっているわけですが、上演する内容は、普段とまったくかわりません。ただ、無料で配布する、鑑賞の手引きとなる小冊子が、より大人向けとなり、上演台本や歌舞伎用語の注釈も収録された、なかなか濃い内容の読み物となっておりまして、これは大変行き届いた配慮かと存じます。
当然ながらお客様も皆様大人ですから、ふだんの歌舞伎公演のような落ち着いた雰囲気のなか芝居は進行いたしまして、正直なはなし大変やりやすかったです。今日の二時半からの回などは、もう賑やかな方々ばかりで、私が舞台に出るだけで笑いがおきたりヒソヒソ話しがはじまったりで、こちらも照れてしまって…。こちらがもっと集中しなくてはならないのでしょうが、お客様の反応に、演者が影響されることはしばしばです。
終演が九時を回り、いつもよりだいぶ遅い帰宅となりました。明日に疲れを残さないよう、ゆっくりお風呂に入りましょう。マッサージも忘れずに…。

残り十日となりました!

2006年07月13日 | 芝居
今日は中日でした。一日二回の公演ですから、これまでに二十二回の舞台を勤めたことになり、これは普段の興行でしたらほぼひと月分。ちょっと疲れも出てきました。まだ同じ数だけ残っているわけですが、なんとか乗り切りたいものです。

さて、先日皆様に出題した「熱が冷める釜底」の謎ですが、本日正解を発表いたしましょう。
何人か解答をお寄せ下さいましたが、皆様<手水鉢>に仕掛けありとニラんでいらっしゃいましたが、まさにその通り。手水鉢が二重底になっておりまして、中に熱が冷めた釜底が入っているのです。写真をご覧頂ければよくお分かりかと存じますが、内側は手水鉢と同じ模様を描いているので、お客様にはまず二重底とは気づかれないでしょう。では、どのようにしてこの仕掛けの釜底と、赤く塗っているお釜本体が一体となるかと申しますと、仕掛けの釜底の内側と、本体の外側に、目立たないようにマジックテープが貼付けてあり、六助がお釜を手水鉢に入れた時点で二つがピッタリくっつくので、あとの場面ではただ持ち上げるだけでよいというワケ。

この仕掛けはごく最近考えられたものですので、過去の舞台ではみられなかったものです。師匠の前回の上演(平成十五年九月)でも使われませんでした。芝居に携わる色々な方のアイディアで、まだまだ演出は変化するかもしれませんね。