梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

菊見月稽古場便り 三

2006年08月31日 | 芝居
八月最後の一日、私は『籠釣瓶』の<総ざらい>と『六歌仙』の「業平・小町」の<初日通り舞台稽古>でございました。
『業平・小町』での着付後見。やはり小道具の扱いにはてこずりました。弓や太刀という、長さのあるものを綺麗に動かすのが難しい。また限られた時間での迅速な作業。さりとて後見がアタフタと動く姿はお見せできませんし、<本当は大変な仕事ほど、大変そうに見せてはいけない>という、過去に頂いたご注意を今一度思い出し、気をつけてはみましたが…。正直今日は手探りでした。一回取り外しても、また後で使う小道具がいくつかあるのですが、その置く順番を間違うだけで、後の仕事がガチャガチャしてしまう。今日は失敗をしたというわけではございませんが、後見が座る居所も含め、もっと私自身が仕事をしやすくなれる段取りがあるハズですので、もっと研究をしなくてはなりません。
舞台を見てくださった一門の先輩からも、色々ご指導、アドバイスを頂きました。有難いお言葉に従い、決して少なくはない仕事をいかに<さりげなく>するか。ダメも頂きながら、ひと月勉強させて頂きます。

今月は、出番が師匠と全く一緒の二演目ということで、時間的にも体力的にもだいぶ楽をさせて頂いております(日が沈む前にこの記事を書けるなんて!)。
明日もお昼出勤! 有難い限りです。

菊見月稽古場便り 二

2006年08月30日 | 芝居
本日は『六歌仙容彩』の<総ざらい>と『籠釣瓶』の<附立て>。それに先立ちまして<顔寄せ>も執り行われましたが、いやはや凄い人数でした。

『六歌仙』の「業平・小町」は十五分もないようような、ごく短いものですが、ゆったりとした長唄を地に、典雅に、品よく繰り広げられる、絵巻物の一場面のような舞踊です。
とはいえ師匠が演じます在原業平役の後見には、いろいろ細かい仕事がございまして油断できません。小道具である弓の受け渡し、太刀の着脱、箙(えびら。背中にしょって矢を入れるための武具)の取り外し…という具合に、小道具の扱いが多うございまして、これらを目立たないよう、そして迅速に処理するのは大変そうです。段取りはついておりますが、やはり明日の舞台稽古で衣裳を着た上で、そして実際小道具を持った上で(お稽古では扇子で代用しますからね)やってみませんと、感じは掴めないと思っております。先輩に伺いながら、勉強させて頂きます。

一方『籠釣瓶』での新造役は、何度も演じてまいりましたので、手順もすでに体にしみ込んでおります。今回は同じ役で出る人がみな後輩なので、むしろこちらがリードしなくてはなりませんね。これも明後日の舞台稽古で様子を見たいと考えております。

夕方に私が関わる演目のお稽古はおわりましたが、それから先輩のお誘いで、新橋は烏森にございますとんかつ屋『河』へお邪魔しました。お肉の厚みといいジューシーさといい、もう満腹大満足のお店です。これからちょくちょく行こうかな。
…初日が開きましてからは、おそらく夜の上がりが早いので、久々の銀座食べ歩き(開拓を含めて)を楽しむといたしましょうか…。

菊見月稽古場便り 一

2006年08月29日 | 芝居
勉強会の余韻も感慨もさておいて、早速に始まりました歌舞伎座公演の稽古。
九月の公演は、<秀山祭 九月大歌舞伎>と銘打ちまして、本年生誕百二十年となる『大播磨』、すなわち初代中村吉右衛門さんの遺徳を称え、所縁の演目の上演、あるいは当代播磨屋(吉右衛門)さんはじめ、初代の芸脈を受け継ぐ方々がそろってご出演なさるなど、大変賑々しい興行となります。

午前十時半に楽屋入り。まずは一時間半ほどかけて師匠の楽屋作りです。それから稽古場である歌舞伎座ロビーにゆきまして、壁に掲示された<貼り出し>をチェック。以前お話いたしましたが、歌舞伎座ではこの<貼り出し>で、名題下俳優の総配役が発表されるのです。今月の私は…夜の部『籠釣瓶花街酔醒』序幕「吉原仲之町見染の場」での、<八ツ橋付き振袖新造>。そうですまたまた女形です! 私は過去四回この狂言に出演しておりますが、立役で出たのは一回だけ。五回目の今回もご多分にもれず、というところでしょうか。なんにしましても、普段からの女形さんに失礼がないよう、心して勤めさせて頂きます。

もう一つ、師匠が在原業平を演じます『六歌仙容彩』の<業平・小町>で、師匠の後見(着付後見)をさせて頂きますが、踊りにせよ芝居にせよ、後見は<役>とは見なしませんので<貼り出し>には記載されません。師匠から直接口頭でおおせつかりました。
『籠釣瓶』も『業平・小町』も今日は<附立て>でした。どちらもまだ段取りがついたわけではございませんので、各演目のお話は明日以降にさせてくださいませ。

それにしましても今月の名題下部屋は総勢六十八名と大所帯! 自分の師匠がお休みでも舞台に出るという、俗にいう<主(しゅう)なし>の方が多数いらっしゃるからでしょう。なんといっても『籠釣瓶』は大変な人数を必要とするお芝居ですからね。様々なお家のお弟子さんが集まったので、楽屋の顔ぶれもいつもと変わって多士済々、数年ぶりにご一緒する先輩、後輩もいて、ちょっと楽しいです。

勉強会稽古日誌 15頁(終)

2006年08月28日 | 芝居
今日は午後一時から国立劇場第三研修室にて、勉強会の<反省会>でした。来月の公演のお稽古がはいってしまった数名以外の全出演者が集まり、稽古開始から昨日までの二週間近い期間でおきたさまざまな問題点を、二時間ちかく討議しました。具体的には上げられませんが、つづまるところは<自分たちで作る>会なのだという自覚を、各自がしっかりと持った上で、来年の公演へ取り組んでいこうということ。今日取り上げられた課題が、次回必ず改善されるよう、私も微力ながらも努力致します。

さて…。
これで『第十二回 稚魚の会 歌舞伎会 合同公演』はすべて終了いたしました。
思えば、結婚式、宗家藤間会、歌舞伎体験教室と、色々な仕事を同時進行で片付けながらの勉強会となってしまいました。こんな八月は初めてです。精神的にも体力的にもつらいときがございましたが、なんとか全てを無事に勤めおおせまして、これでようやくホッと一息つけるという感じです。
今年の夏は、色々な意味で学ぶことが多かったです。公私にわたり諸先輩方のお世話になり、励まされながら、一つ一つの大切な仕事を勉強させて頂きました。ある意味でいえば、<学ぶ>という姿勢を学んだようにも思えます。
これからまた師匠のもとで働きながら日々のお役を演じてゆくわけですが、そこにこのひと夏の経験から得たものを活かしてゆきたい。今までとは違った何かができるのではいないか。そんな気がいたしております。

明日からは歌舞伎座九月公演のお稽古です。
気がつけば、四万六千日のほうずきも、すっかり赤くなっていました。

勉強会稽古日誌 14頁

2006年08月27日 | 芝居
(この文章は八月二十八日に書いたものです。あらかじめご了承下さい)

大入り満員で迎えた勉強会千穐楽は、記録ビデオの撮影があったり、前日(二十六日)に千穐楽をむかえた歌舞伎座公演に出演していた先輩方はじめ、多くの<同業者>がいらっしゃったりと、ついつい緊張してしまうような状況でしたが、さて三十八名の出演者は、悔いのない演技で四日間を締めくくることが出来ましたでしょうか。

私は、何度も書いたことですが、将軍としての<品格><大きさ>そして<さわやかさ>を出すことを第一に取り組んでまいりました。細かい芝居をしない、表情に頼らない、<何もしない>で何かを伝える。昨年の『十種香』の武田勝頼役の時もそうでしたが、普段でも指摘されてしまう短所を、少しでも克服したい。新しい演技の仕方を学びたい。そんな思いで、これまでのお稽古をしてまいりました。
しかしながら、この課題は本当に高いハードルです! 抑えようとすればするほど、その<抑えよう>という意識が逆に目立ってしまう。自然体で演じることは、つまりは普段からの私の生き方自体が見つめ直されるということで、そういう意味でも<役と自分の距離>をまざまざと思い知らされました。
しかし今回有難かったのは、指導でいらっしゃる紀伊国屋(田之助)さんが、私の役に限らず、全ての出演者に、<自分で演技を作る>ということをお許し下さったということです。そのおかげで、出演者同士が話し合い、一緒になって芝居を作るという作業ができました。自分の演技がどう見えているか、相手にとってやりやすい芝居をしているのかどうか、そういうことを相談しながら稽古ができましたので、一人で考え込んだり落ち込んだりすることなく、むしろ前向きな気持ちで初日までたどり着くことができました。
そして四日間の本番の舞台。日に日に緊張も和らぎ、また舞台を見に来てくださった諸先輩がたからも、連日アドバイスや励ましを頂きました。たくさんのお力に引っ張られて、どうにかこうにか演じおおせたのだと思います。

師匠も度々演じていらっしゃるお役を、自分も勉強できたことは本当に有難く、嬉しく思っております。懇切丁寧でありながら、自分で考える余地も残してくださった、ご指導の紀伊国屋さんはもとより、舞台稽古と初日の舞台をご覧頂き、多くのご注意を頂いた師匠にも、感謝の気持ちでいっぱいです。本当に、本当に有り難うございました。

また、今回の公演にご協力下さいました、幕の内外すべての方々、国立劇場養成課の皆様、そしてお暑い中大勢お出まし下さったお客様。皆様のお力をもちまして、無事四日間の公演を終えることが出来ました。心より御礼申しあげる次第でございます。

                   ◯

夜の部『引窓』終演後は参加者全員が楽屋廊下に並んでお祝いの手締め。それからはいつもの千穐楽同様の撤収作業。そして勉強会ならではの、チケット担当係数名(出演者から選ばれます)と、養成課の職員さんとによる、チケット代金清算作業が午後十時半から翌午前一時半まで。出演者が扱った、全てのチケットの売り上げをまとめて計算しますから、大変な額になるのですが、計算もいっぺんで合って一同安堵。深夜作業はできれば早く切り上げたいですからね。

勉強会での一番長い一日が、こうして終わったのでした。

勉強会稽古日誌 13頁

2006年08月26日 | 芝居
(この文章は二十八日に書いたものです。あらかじめご了承下さい)

勉強会三日目。どの出演者もだいぶリラックスして、冷静に、落ちついて課題と取り組めるようになりました。
お陰様で満員の客席。皆様からの力も頂いて、ますます気合いの入った舞台が出来てきたのではないでしょうか。

…勉強会では、主役、脇役の区別なく、<普段演じることのない>お役を勤めるわけですが、衣裳にしてもかつらにしても、あるいは化粧法でも、普段自分たちが経験しないものになる場合が多いです。
例えば『廓三番叟』傾城役での<伊達傾城>の着付や<立兵庫(たてひょうご)>のかつらなどは、まず名題下俳優が本興行で身にまとうことはございませんし、『修禅寺物語』金窪兵衛の大鎧、『引窓』濡髪長五郎の厚綿入りの着付や相撲取りらしい体格を作る<着肉(きにく。肉ブトンですね)>なども、そうそうは体験できないでしょう。
また、今回は隈取りのあるお役こそごいざいませんでしたが、立役でも女形でも、一幕の主役にふさわしい、立派に見える化粧の仕方というのは、やはり普段はできないもの(脇役が化粧で目立ってはいけませんからね)。
こういうものを学べるのも、勉強会ならではだと思いますが、衣裳にしろ化粧にしろ、教科書があるわけでなし、衣裳の着付は衣裳方さんも色々とご指導下さいますが、化粧はまず自分で描いてみて、それを指導の方をはじめとする諸先輩に見てもらうことがもっぱらです。ときには先輩自ら化粧筆をとって手直しをしてくれたりもいたしますが、仲間同士でアドバイスし合ったり、舞台での見栄えが大事ですので花道揚幕や舞台袖から見てもらったり。
最終的には自分の顔ですから、教わったことを活かしながら、自分で工夫してゆくしかないのですが、こういう勉強会でお役を演じることで、あらためて自分に合った化粧法をみつけることも多いのですよ。

私自身、今回のお役を演じるにあたり、二枚目でありながら、性急、癇癖な性格ということもあり、眉のひき方や目尻の紅の描き方を、やや強めにして初日の舞台を勤めましたら、客席からご覧になっていたとある大先輩から「(化粧法が)ちょっときついのでは」とのご意見を頂戴し、翌日からは、すっとした描き方に変えました。すると他の出演者も「今日の方がいい」「(頼家)らしく見えた」とのお言葉を頂き、なるほど化粧法で印象もがらりと変わるものなのだと痛感いたした次第です。

さて公演終了後は、麹町の居酒屋<麹村>で、一日早い打ち上げがございました。大先輩から新人、そして衣裳方さん床山さんはじめ、今回の勉強会にたずさわる様々な方たちが快く参加してくださいまして、総勢四十名! お店のワンフロアを借り切ったものの、ひしめき合うようにしての宴席。でもかえって一体感が出てよかったようにも思います。翌日の公演もありますから、短かい時間で切り上げましたが、話も弾んで大盛り上がり。皆々機嫌良く手を締め、<最後の一回>へ気持ちを新たにしてのお開きとなりました。

この打ち上げの企画者の一人として、本当に嬉しい一夜でした。

勉強会稽古日誌 12頁

2006年08月25日 | 芝居
勉強会二日目の本日は、B班が先攻です。
出番までの時間が長いと、どんどん緊張が高まったり、余計な心配事に悩まされたり、あるいは集中力が持続できなかったり。そんなわけで昼の部の出番のほうが気持ち的にはラクというのが、勉強会出演者の共通の見解。四日間八回公演で、A、Bともに公平に昼夜の出番を分けているのですが、私はじめB班は、今日明日と二日続けて昼の部なので、ちょっと得してるかな?

さて今日の『修禅寺物語』。昨日よりははるかに緊張が和らぎ、気負いも減って落ち着いた演技ができたと思いました(出来不出来、巧拙は別のはなしです)。昨日の反省点を克服すべく努力しましたが、より将軍らしくなっていたでしょうか? 何度も申し上げますが、<位取り>は本当に難しい。緊張が減った分<ゆるみ>が出ないよう、戒めながら演じたいと思います。

さて今日は『廓三番叟』『願絲縁苧環』『三社祭』の、舞踊三段返しについてお話しさせて頂きます。
三演目とも藤間宗家、勘祖師の振り付け、指導でございますが、御宗家のご意向で、三演目をいちいち幕の開け閉めをせずに、すべてお客様の目の前で道具転換をしてノンストップで上演する演出になっております。このように書くのは簡単ですが、実際は大道具の転換法、役者の登退場の仕方、あるいは長唄さん常磐津さん清元さんという演奏の方々の出入り等、ことこまかな段取りが、寸分の狂いもなく行われてはじめて成功する仕事なんですね。
舞台監督さんと舞台美術の方が、御宗家と話し合われて、まず大道具の飾り方が決まる。御宗家はそれにあわせてうまく役者が舞台から退場できる演出を考える。実際の舞台では、舞台監督さん、そして狂言作者さんの指示のもと、大道具さんが迅速かつ安全に道具を変えてゆく…。
具体的な転換の仕方は観てのお楽しみということにさせていただきますが、スタッフの皆様のお力で、本当に潤滑に、三演目が繰り広げられております。
なかでも、演奏の方が座っている、緋毛氈で包まれた<山台>。演目ごとに演奏家が変わるため、この山台に演奏家を乗せたままで、下手の舞台袖に引っ込めたり、あるいは舞台奥から全面に押し出したりして、演奏家の登退場もお見せするのですが、その移動作業は大道具方の人が勤めます。動かす姿をお客様にみせないようにするため、あらかじめ山台の裏に隠れているのですが、ひとつの演目の始めから最後までという、決して短くはない時間を、暑い舞台の上で小さくなって待っていなくてはならない。これは大変な仕事だと思います。そのおかげで綺麗な転換がスムースに進行しているのだということを、我々出演者はしっかりと認識し、心より感謝せねばなりませんよね。

踊りの三演目をはじめ、基本的にはどの演目でも、A、B同じ役の者同士で、お互いの後見、黒衣を勤めておりますので、助け合いのこころとか、気の使い方も勉強できてはおりますが、普段忘れてしまいがちな、スタッフさんたちへの感謝の気持ちも、ことこういう勉強会では、あらためて確認したいものだと思います。

勉強会稽古日誌 11頁

2006年08月24日 | 芝居
本日無事に<第十二回 稚魚の会 歌舞伎会 合同公演>の初日が開きました!
つい先ほど帰宅したばかりですが、疲れもあり、興奮もあり、なかなか落ち着いて文章を書ける状態ではございません。今日は短文にて失礼させてください。

勉強会も本興行の時と同様、いやそれ以上に、初日の楽屋は賑やかです。出演者のお師匠さん方、兄弟子弟弟子、友人知人親戚縁者が訪ねていらっしゃり、狭い楽屋廊下は幕間ごとにごったがえしておりました。
今日は昼の部がA班、夜の部がB班で、黒衣の仕事以外は出番がない私。まずはのんびり体を休めようかな…と思っていたのは大きな間違い。チケット担当、また今回の実行幹事を勤めさせて頂いておりますので、受付との連絡やお客様からの問い合わせの対応などで、かえってバタバタ動き回ってしまいました。

とはいえそれも二時過ぎには片付き、夜の部の出番に向けては、落ち着いて支度に取りかかれました。化粧をして、衣裳をつけ、かつらをかぶる…。順を追って役に近づくと申しましょうか、気持ちが高まってまいります。
花道を出れば大勢のお客様。昨日とはガラリと変わった客席の景色に、ドキドキしてしまいましたが、大きな力も頂きました。前半が硬くなってしまったのが悔しいところ。その他たくさん課題は残りましたが、まずは出演者全員が、無事にお役を勤めおおせたのがなにより有難いことでございます。
舞台稽古に引き続き、今日の舞台を見て頂いた紀伊国屋(田之助)さんはもとより、お越し下さった多くの諸先輩方から、様々なアドバイス、ご注意を頂きました。皆様のお言葉を胸に、あと三回しかない公演ですが、なんとかさらなる前進ができますよう、努力してまいります。

しぐさ、台詞、雰囲気。全てに集中! そして共演者とのイキをあわせること。
今日の初日の舞台からだけでも、得るものはたくさんありました!

勉強会稽古日誌 10頁

2006年08月23日 | 芝居
本日はB班の各演目の<初日通り舞台稽古>。
正午から、私が出演いたします『修禅寺物語』の稽古。早めに支度をして待機しておりましたが、頼家の衣裳、意外とかさがあって重たいです。平安~鎌倉時代の芝居でよくみられる<水干(すいかん)>という衣裳ですが、袖も幅広で扱いには難儀をします。水干の下にも三枚衣裳を着込んでおり、さらにその下には体型補正の肉ブトンやタオルも巻いておりますので、気候のせいもあり暑いこと暑いこと! 出番までがつらかったです。
いざ舞台で動いてみますと、あるキッカケまでにちょうどよい居所へゆくために歩く早さを考えたり、視線の位置や体の向きを改めて定め直したりと、いろいろと気にしながら演技しなくてはなりませんでしたが、過度の緊張もなく、わりと落ち着いて演じられたのは自分でも意外でした。ただ、第二場で、橋を渡るために坂道を上がってゆくのですが、そのときに履いている草履(金剛草履)が脱げそうになってしまって。思ったより傾斜がきつかったこともあり、これには慌ててしまいました。明日は気をつけよう!

今日の稽古で改めて感じましたのは、<謳う台詞>と<普通に言う台詞>の切り替え方の難しさ。それぞれテンポ、音遣いも変わりますし、一つの台詞の中で言い分けなくてはならないところもございます。
様式ばかりに気を取られて、肝心の気持ちがこもらなかったり、気持ちばかりで喋って、将軍らしい大きさ、新歌舞伎の面白さがなくなったり。そういうことがないように気をつけてはおりますが、紀伊国屋さんがお稽古当初からおっしゃっていた『頼家は<時代に>台詞を言うこと』を、もう一度意識し直して演じたいと思います。決して新劇にならないように、生な感情が出ないように。役の気持ちをあくまで歌舞伎(新歌舞伎)の様式で表現できるよう、ある意味での抑制をきかせることを最大の課題にいたします。

ついに初日の幕があがります。これからは、教わったことをしっかり守りながら、ただ無心に演じるのみです。少しでもお客様に伝わる芝居、<勉強会>にふさわしい成果を上げられればよいのですが…。ご覧頂く方々のご意見、ご指摘、ご指導を願いたく存じます。

勉強会は、日頃演じることのない大役を、四日間も演じることができます。
しかし、あくまで<勉強>会です。自分のリサイタルではありません。
単なる自己満足、お祭り騒ぎに終わらぬよう、
これからの役者人生にとって、大切ななにかをつかみ取れるよう、自覚をもって学びたい。
…明日の初日を控えての決意と申しましょうか、自戒と申しましょうか。そんなことを、今、考えております。


勉強会稽古日誌 9頁

2006年08月22日 | 芝居
本日はA班の各演目の<初日通り舞台稽古>でした。
私はA班では出番はございませんので、まず正午からの『修禅寺物語』では、同じ頼家役の中村蝶之介さんのお手伝い。衣裳の着付をいたしましたり、花道からの登場まで付き添ったり。平成十二年五月に、この役を師匠が演じられました折りに携わっておりましたから、別段支障なくサポートができました。
もちろん舞台上でのA班の皆さんの演技もしっかり拝見。改めて正面から見ることで、(なるほど、ここはこうやらなくてはいけないな)(あそこを気をつけないといけないな)と、勉強になることばかりで、明日の自分の舞台稽古に是非活かしたいと思います。
…同期の蝶之介さんと同じ役ということで、ライバル心がおきないかと聞かれれば否定はできませんが、指導である紀伊国屋(田之助)さんのご意向が、それぞれ自分で考えた演技をしてよいということでございますし、それぞれの持ち味も違いますので、彼は彼の頼家を演じ、私は私の頼家を勤めるだけだと思います。もちろん、お互いに意見を言い合ったり気づいたことを教えたりもいたしますが、つづまるところは、紀伊国屋さんのお考えになる『修禅寺物語』のありように沿ったお芝居を勉強するのが、今回の勉強会での本分だと考えております。二人の動き方や台詞回しに、違うところもございますが、双方ともに紀伊国屋さんがご了承下さったやり方です(ここにダブルキャストで上演する意義もあるのかもしれません)、是非両班ともにご覧頂きたいと存じます。

『修禅寺物語』の稽古終了後は、用意し忘れていた化粧品を買いに、いったん銀座に出かけました。せっかくですので、他の出演者にも足りないものがないか聞いて回って、数人分の買い出しとなりました。舞台化粧品は、そうそうあちこちで売っているわけではございません。国立劇場はそういう意味で不便な場所ですね(なにせ周りは官公庁ですもの!)。

次なる仕事は午後五時半からの、『廓三番叟』『願絲縁苧環』『三社祭』の舞踊三段返し。今日は稽古に先立ちまして、<舞台転換稽古>がございました。なにしろ今回の上演の特色として、三演目を幕を閉めずに、全て<明転(あかてん。お客さまの目に見える形で場面転換をすること)>で繰り広げるので、役者はもとより、演奏家の皆様の登退場、あるいは装置の移動、大道具さんの動きの段取りを、振り付けでいらっしゃる藤間の御宗家のご指示のもと、舞台監督さんや狂言作者さんも加わって、しっかりと打ち合わせました。
私は、ここでは黒衣になりまして、『廓三番叟』から『願絲縁苧環』に転換する際の、出道具(舞台備え付けの小道具)の撤収と、昨日お話しした『三社祭』での雲の操作。出道具撤収は今日決まった任務ですが、雲の操作は予め決まっておりましたので、操作のキッカケや段取りはいちおう勉強はしておいたのですが、なにせ初めてやることです。梯子をのぼって舞台の天井近くまであがり、そこからロープで雲の昇降を操るわけですが、踊っている人の動き、清元の曲、鳴物に合わせて、ちょうどいいスピードで上げ下げするのが難しかったです。今日は手探りで終わってしまいました。本番ではきちんと勤めます!

午後八時過ぎに楽屋を退出。同じB班に出演する先輩と半蔵門で夕食をとりました。いよいよ目前の本番をひかえて、改めて勉強会運営の大変さ、かぎられた時間の中で役を学ぶことの難しさを語り合いました。
明日はとうとう私の頼家の番です。気負わず演じられるよう今から精神集中です!

勉強会稽古日誌 8頁

2006年08月21日 | 芝居
本日は午後十一時よりの<総ざらい>。『引窓』、『修禅寺物語』、舞踊三題の順、昨日と同じくA、B両班で続けてお稽古をいたしました。
また今日は、各演目のお稽古が終わってから、小劇場の舞台にて<道具調べ>を行いました。本番通りに設営された大道具を、指導の先生方に確認して頂き、必要ならば手直しや作り替えも行います。今回上演するお芝居は、本興行でもたびたびかかる演目とは申せ、間口の狭い小劇場で上演するにあたりましては、いろいろと<いつも通り>のひと言ではすまない場合があるものです。
私どもの『修禅寺物語』でも、指導の紀伊国屋(田之助)さんに細かく点検して頂き、第一場の木戸口や二場の切り株(頼家が座る)などの位置を決めて頂きました。狭い小劇場を、なるべく広く見せるように、大道具さん、美術さんのご協力も頂き、今回でのベストが生まれたと思います。
あわせて役者の立ち位置や出入りの段取りも決めて頂きましたので、明日の<舞台稽古>では、みなスムースに演技ができるのではないでしょうか。

話が前後しましたが、<道具調べ>に先立つお稽古では、稽古場での稽古がこれで最後になるだけあって、皆々、より熱のはいった演技となりました。今日悔いを残すと、あとは舞台上で解決するしかないのですからね。
私自身は、昨日も書きましたように落ち着きとさわやかさを課題としておりますので、そうそう熱っぽくもなってはいられませんが、気持ちを込めるという意味では、皆と同じくらい一生懸命です。昨日よりは緊張も減りました。眉間のシワもなくなったと思います(今日のお稽古をビデオで撮ったので、これからの一人反省会でチェックします)。夜叉王が彫った面に見入るところや、ご存知の名台詞『温かき湯の湧くところ…』の間の取り方に、まだこなれないものを感じましたので、今一度稽古しなおさねばならないと思っています。

明日はA班の<初日通り舞台稽古>です。私はもう一人の頼家役、同期の中村蝶之介さんの手伝いと、『三社祭』で、空から降りてくる雲の操作をいたしますが、それ以外はフリーですので、今日忙しさに取り紛れてできなかった楽屋作りと、あと少しの事務作業もしておかねばなりません。ああ、体があと二つは欲しい…。


勉強会稽古日誌 7頁

2006年08月20日 | 芝居
さあいよいよ本稽古の始まりです。
午前十一時より、国立劇場大稽古場にて、本興行通りの<顔寄せ>。三十八人の出演者と、舞台実習の研修生六人、あわせて四十四人の参加者と、国立劇場の方々とで、賑々しく手締め。あらためて、全員一丸となって勉強会にとりくんでゆく気持ちを一つにいたしました。
引き続いて、『引窓』、『修禅寺物語』、舞踊三題の順で、各演目ごとにA、B両班続けて稽古してまいりましたが、当然ながら二度ずつの稽古は時間がかかります。二度目の『三社祭』が終わりましたのが、午後八時半頃でしたでしょうか。踊りの出演者は朝の顔寄せに出席してから、お稽古の出番まで、ほぼ七時間近い空き時間ができてしまったわけで、さぞ待ちくたびれたことと察せられます。とはいえその空き時間を無駄にはせず、開いている稽古場で自主稽古をいたしましたり、他の演目の稽古を見学する、チケット事務などの諸作業をするなど、こういう公演ならではの過ごし方はございます。私も、昼食等で中座することはございましたが、『引窓』や舞踊三題のお稽古を拝見することができました。
改めて人のお稽古を拝見いたしますと、勉強になることばかりです。『引窓』は研修生時代からなにかと縁の深い演目ですが、新たな発見もございましたし、ご指導なさる方によって変わる<型>、段取りの違いに、学ぶことばかりでした。やっぱりこの演目、魅力的ですね。老母お幸役、もう一度挑戦したくなってきました!

さて私自身の『修禅寺物語』のお稽古ですが、やはり少々緊張してしまいました。花道からの第一歩を踏み出すまでのドキドキ感はたまりませんでした。まあ動き出してしまえば、あとはやるしかないのですけれど、今日はちょっと表情もキツくなっていたのではないかなあ…。台詞回しだけは早くならないよう、始終気をつけましたが、頼家の台詞には、いくつか私が言いにくい音並びの単語があるので、一つ一つクリアしてゆくのが大変です。ちょっと気を許すとロレロレになってしまいますし。
明日はもっともっと落ち着きを! そしてもっともっと凛々しくさわやかに!

…全ての稽古が終わりましてからは、引き続いて今年度二回目の<全体会議>。稽古割りの変更連絡、お借りしている小道具の保管方法などについて討議しましたが、公演中おこりがちな、お客さまとのチケットを巡るトラブルを防ぐための、出演者側の注意事項も改めて確認いたしました。

いや~今日は疲れました。稽古前に用事がありましたので、午前九時半から劇場に来て、会議が終了したのが午後九時半ですからね。十二時間一歩も表に出ず。少し頭痛がしております。
明日はもう少し早く終了するかな? でも楽屋作りもあるし、舞台にて<道具調べ>(装置の仕上がり、居所を確認すること)もございます。どんなお稽古日誌になりますでしょうか?

勉強会稽古日誌 6頁

2006年08月19日 | 芝居
いよいよ明日から正式なお稽古。<顔寄せ>に引き続いての<附立て>です。
これまで各研修室、あるいは松濤の藤間御宗家のお稽古場をお借りして、バラバラにお稽古をしてきた五演目が、国立劇場大稽古場におきまして、通してお稽古いたします。
もうジタバタしてはいられません。これまで教わったことをしっかり守って、落ち着いて、丁寧に演じるだけです。
幸い本稽古にはいりますと、他の演目の出演者も、こちらの演技を脇から見てくださいますから、色々なアドバイス、ご注意を頂くこととなり、これが大変有難い薬となっております。勉強会の参加者みんなが、お互いを助け合うという気持ち。演ずるお芝居のことはもとより、事務的な作業でも、全員の協力がなくては何一つ成立しないのです。

私どもの公演を支えてくださる、舞台監督(国立劇場にはこの職務があるのです)さん、音響さんをはじめとする舞台スタッフの皆様、また、お囃子さん方音曲の皆様、狂言作者さん、ツケ打ちさん…。全ての関係者に感謝の気持ちを込めて、今一度「勉強させて頂く」という気持ちをしっかりもって、これからの日々を過ごしてゆきたいです。
今夜は早く寝たいものですが、さあ緊張して寝付けないかもしれません…。

勉強会稽古日誌 5頁

2006年08月18日 | 芝居
<稽古日誌>と題しながら、今日は紀伊国屋(田之助)さんのご都合でお稽古がお休みとなりました。
別の用事があったので国立劇場には参りましたが、<附立て><総ざらい>と、正式なお稽古を目前に控えて、この休講はちょっと不安にもなります。とはいえ、気持ちが煮詰まらないための休息時間と思って、のんびりすることにいたしました。

今日はチケットのお話をいたします。とはいっても、連日お知らせしている売れ行きのことではございません。
ここ何年か、勉強会のチケットは<自由席>になっておりましたが、昨年から<指定席>になりました。
<自由席>はお客様がお好みで場所を選べますし、出演する役者自身がお売りする際も、並びや席の良し悪し(どうしても後方や花道の外側は見にくいものですからね)を気遣うことがなくなりますので、ある意味では便利な方法かもしれません。
しかし、公演当日になりますと、いい席で観たい! というお客様が開場の随分前から劇場前にお並びになり、真夏の炎天下の下、大変な混雑を招いてしまっておりました。
主催者側や、我々出演者も出番の合間をぬって劇場前に立ち、少しでも状況を緩和できるよう入場整理券を配布したり、整理券を受け取られた方の休憩室を用意したりと対策をいたしました。
幸いにも、これまで重大なトラブルや事故がおこることはございませんでしたが、何かが起きてからでは手遅れでございます。お客様のためにも、また円滑な受付作業をするためにも、やはり本興行同様の<指定席>にした方が良いのではいないかとの意見が強くなりまして、昨年ついに実現したというわけです。ご覧になるお客様には、<開演前にクタクタ>ということがなくなり、良い結果となったと考えております。

改めてお客様にご案内申し上げますが、お手持ちのチケットの席番号を、手帳などに控えておくことをおすすめします。万一当日紛失しても、席番号がわかっていれば、受付、およびチケットセンターでなんらかの対策をとることができます。
皆様が楽しい気分でご観劇できますよう、私どもも精一杯の注意を払い、誠意をもって対応いたしますので、なにとぞご理解ご協力のほど、宜しくお願い申し上げます。

勉強会稽古日誌 4頁

2006年08月17日 | 芝居
本番初日まで、とうとう一週間となりました。思えば五月の<本読み>からはじまりまして、総勢十六名の出演者がそれぞれの舞台スケジュールの合間をぬって、できる限りのお稽古を重ねてまいりましたが、初めて台本を手離して動いてみた時からくらべれば、<まとまり>とか<落ち着き>というものは、確かにできてきたと申し上げることができます。これからの集中的なお稽古では、個々の技術の向上と、この<物語>自体をお客様に楽しんで観て頂けるように、全員で一つの空気、新歌舞伎らしい魅力を出せるよう、努力してまいりたいものです。

これまで書くのを忘れておりましたが、一日のお稽古では、A班、B班の両方が通しで一回ずつ演じるのが基本パターンです。紀伊国屋さんには、いっぺんに二回の『修禅寺物語』をご覧頂いているわけです。
片方の班が演じている最中は、もう片方の班は見学です。自分と同じ役を、どう演じるのか見比べたり、あるいは芝居にあわせて自分の台詞を小声でくちずさんだり。色々な過ごし方はございますが、お互いの演技を見ての感想を言い合ったり、ここはこうしたら、とアドバイスをしあったりすることで、よりよい演技ができるよう協力しあえるというのも、勉強会ならではだと思います。

今日の頼家の演技では、将軍としての<大きさ>を出すよう心がけました。せせこましくならず、悠揚に振る舞うべく、顔の動きなども極力細かくならないようにし、表情の作り過ぎも戒めました。昨日とどこまで変わったかはわかりませんが、どっしりと演じようと気をつけたおかげか、落ち着いて演じることはできました。加えて、つかの間の恋の相手であるかつらのことを、本当に、本当に愛すること。第二場ではこれを一番に考え、結果として優しさを出せるよう頑張ってましたが、なかなか上手くいきませんね。でも「昨日よりさわやかだった」との、A班の出演者からの感想をもらって、やっぱり演技というものは、意識して変えてみないと、観ている側には変化は伝わらないものだなと思いました。
ただ気をつけたいのは、今日は意識してやったことを、明日からは自然にできるようこなさなくてはなりません。こういうことをしてますよ、みんな判ってくださいよ、というようなお芝居に陥らないように、これまでの舞台からの反省もこめて、もっともっと自然に舞台に立てるようになりたいものです。