梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

稲苗月稽古場便り・終

2007年04月30日 | 芝居
稽古の仕上げは『め組の喧嘩』の<初日通り舞台稽古>。
私が出る序幕<島崎楼の場>は、高島屋(右之助)さん、橘屋(家橘)さんのお武家と成田屋(團十郎)さん演じる相撲取り四ツ車大八の酒宴の場。芝居の合間合間に、めいめいが酒を飲んだり煙草を呑んだり扇であおいだりいたしますが、酌婦としてはべる私ども女郎も、そうした各人が自由になさる動きに受けこたえしながら、なおかつ自分の演技もしなくてはなりません。こういうお役は初めてといってもいいくらいですので、稽古場ではなかなか感じが掴めませんでしたが、実際、お銚子やお膳、タバコ盆など小道具がならび、自分も緋の長襦袢に縞の打掛という拵えになってみますと、なんとはなしに(こんな感じかな)という手がかりは掴めました。出しゃばってはいけませんが、こういうお役で芝居の雰囲気を作らなければそこにいる意味がなくなってしまいますので、行儀よく、そしてしっかりとお芝居に参加したいものです。

出番を終えた後は黒衣に着替えて師匠の用事。師匠演じます<炊き出し喜三郎>は、ご存知の通り大詰めの鳶と相撲の喧嘩を仲裁する役。押し合いへし合いする群衆の上から、大梯子にぶらさがって割って入るというスゴい場面がございますが、この段取りも含め、鳶や相撲役の方々の立廻りの段取り稽古も、時間を割いて入念に行われました。
本当にこの立廻りはすごい! まさに体を張った演技。ひとつ間違えば怪我しかねない技を集団で見せるわけですが、皆様真剣なのは申すまでもなく、それをもう一つ突き詰めて、<鳶>としての威勢、粋を見せていらっしゃる。これなればこそ、この喧嘩場が大きな見せ場になるのでしょうね。

いよいよ明日は初日。皐月興行らしい爽やかで意気のいいお芝居が並んだ<團菊祭>に、是非是非お越し下さいませ。

稲苗月稽古場便り・参

2007年04月29日 | 芝居
本日は『め組の喧嘩』の<総ざらい>に、『勧進帳』『女暫』の<初日通り舞台稽古>。
『勧進帳』は昨日はじめてお稽古したばかりですので緊張いたしました。いくら先輩方にお話を伺っていても、実際に<動いて>みなくてはわからないことばかりです。話を聞くだけで上手にできるほど、舞台は甘くはございません。
案の定、演者との距離のとりかた、動きのキッカケ、細かい用事等々、やってみて初めてわかることばかりで、いやはや、富樫の後見を3度ばかりやったくらいでは、まだまだ『勧進帳』をわかったことにはなりません。本当に今日の稽古は勉強になりました! 初日からは各仕事を練り上げてゆくこと、より無駄を省くことを気をつけ、歌舞伎十八番らしい後見になれるよう努力します。

『女暫』は昨日も申しました通り<揃える>ことを第一に演じましたが、こればっかりは、ひとりだけがアタフタしても仕様がないもの。全員の気を揃えるためには、何を気をつければよいか。各々が意識をもって動かなくてはなりますまい。そういう意味で、課題は残りました。
50分近く舞台におりますが、鬘が頭に当たって、だんだんと痛くなってくるのです。ずれないように締める<合引>のためかもしれません。痛みをこらえて出る舞台ほどつらいものはございません。初日からはもう少し緩めてみましょうか…。

前後しましたが、『め組の喧嘩』では、昨日はまだおおまかな段取りしか決まっていなかった鳶と相撲の立廻り部分が完成され、通して稽古されました。いや~、その迫力、面白さといったらございません! 舞台ではさらに激しくなるでしょう。今回からの新工夫もあるようですから、これは観なきゃソン! ですよ。


稲苗月稽古場便り・弐

2007年04月28日 | 芝居
2日目のお稽古は『女暫』の<総ざらい>と、『め組の喧嘩』の<附立>、そして『勧進帳』の<附総>でした。
『女暫』。昨日は台詞回しに気をつけましたが、今日は女奴同士の動きを揃えることを意識しました。昨日で段取りが定まったので、それを8人が滞りなく演じること。とりわけこのお役は、花槍を持っての花道の出、あるいは巴御前を追い返そうとする<引っ立て>など、全員が同じ動きを見せる場面が多いので、ある意味、立廻りのときと同じような気の遣い方をしなくてはいけないのです。名題の先輩方は何度もなすってこられた方ばかりですから、自然に演じておいでですが、こちら名題下メンバーは、皆々初めてでございます。足の踏み出し、袖の扱い、あるいは控えている時の体の向きなど、ついつい<先頭を見ながら>になってしまうのですが、そうしたことをせずともピッタリ揃うように、キマリキマリの形を各人がしっかり心得ておかねばならず、大変勉強になりますが難しさもまたひとしおです。明日の舞台稽古では、動ける寸法も広くなりますので、多少はやりやすくなるでしょうが、モニターをビデオに撮って確認できるようにしようと思います。

『め組の喧嘩』。こちらでは序幕島崎楼の女郎役。高島屋(右之助)さん演じるお武家さんの酌の相手でございます。有難いことに、ひと言ですが台詞も頂きまして、さてどうすれば女郎っぽく喋れるかあれこれ試しております。こちらは決まり事はないぶん、周りの芝居に合わせて自然に動くことが大事なお役で、今日は手探りの感でしたが、酒をついだり喧嘩を見てハラハラしたり、ある程度は捨て台詞も許されておりますので、常日頃申すことながら、それ<らしく>見えるか、それを第一に考えてまいります。もっとも、前回同じ役をなすった先輩にお話を伺うことができましたので、そのお教えを守ることが大前提ですが。

さてこの芝居、なんといっても最後の大立ち回りが有名ですが、鳶と相撲、あわせて40人ちかい人数で繰り広げる派手な乱闘シーンは、当然ながらロビーにしつらえた稽古場では収まりきりません。私は立廻りには関係がないので、はたから拝見するだけですが、たたでさえ狭いところに本番と同じ人数がつめかけるものですから大変な混雑! とりあえず段取りを通すといった感じでした(それでも舞台稽古や初日は大丈夫なのが歌舞伎のすごいところ)が、なにせ全員オトコですからね~。鳶のかけ声や相撲の怒声、さらには立師の方、ベテランのお弟子さんの段取り指示の号令も混じり合い、その熱気と言いましょうか迫力は、稽古場の方が凄まじいのかもしれませんヨ。

最後の『勧進帳』。師匠にとりましては約10年ぶりの義経でございます。私の後見は当然初めて。兄弟子の梅蔵さんに教わりましたが、明日はもう<初日通り舞台稽古>と思いますと緊張いたしました。義経自体の動きは少なく、富樫に較べれば後見の仕事も少ないのですが、四天王の方々の用事もいたしますので、かえってこちらの方が、舞台での動線、段取りに気をつけなくてはならないようです。弁慶をなさる成田屋(團十郎)さんの後見の方にも色々と伺いましたので、明日はとにかく落ち着いてやるだけです! それにしましても、成田屋さんが本当にお元気な様子なのが、嬉しいです。

稲苗月稽古場便り・壱

2007年04月27日 | 芝居
早速はじまりました<團菊祭 五月大歌舞伎>稽古。本日私は3時半過ぎからの『女暫』の<附立>のみでした(師匠は今日はお休み)。
初役の<女奴>ということで、4月公演中に先輩からお話を伺い、また前回上演時の記録ビデオを拝見してはおきましたが、毎度毎度で変更点があるのは常のこと。今回、総勢八名の奴たちのシンは名題さんの先輩でいらっしゃいますので、今日の稽古の前に、改めて段取り合わせとご指導を頂きました。2カ所ある<渡り台詞>を、“威勢よく”言うようにとのアドバイス。歌舞伎十八番の『暫』のパロディですから、元と同じように、賑々しく明るい雰囲気を出さなくてはならないのですね。というわけで、皆さんがイメージする普段の女形の台詞まわしよりかは、いくぶん調子を張ることになると思います。
今回この演目は、17代目の橘屋(羽左衛門)さんの7回忌の追善狂言でございます。巴御前を主演なさる橘屋(萬次郎)さんの、花道でのツラネにも、その旨の台詞が織り込まれておりました。その文言を聞きながら、わずか数年しかご一緒しませんでしたけれど、過去の舞台が思い出されてまいりました。

1時間もないお芝居ですので、あっという間に今日のお仕事終了。帰宅後は勉強会の案内状(私個人の)書き。1人でも多くの方々にご覧頂くために、労力は惜しみません! 友人知人、沢山観に来てくれると嬉しいのですが…。

楽しいひと月でした

2007年04月26日 | 芝居
四月大歌舞伎も無事千穐楽を迎えることができました。
いかにも歌舞伎、といった演目がならんだ華やかな興行、いかがだったでしょうか?
自分のお役も何事もなく勤めおおせることができましたが、女形の台詞や踊りなど、色々と考えながらの毎日でした。ことに『頼朝の死』では、緊迫したやりとりをみせる師匠の台詞尻に、ややかぶせ気味で申し次ぎをするわけですが、日々微妙に違う舞台のイキ、動きに対応して、ちょうどよい間で出てゆくのが難かしゅうございました。ピタッとあった時は気持ちがよいものですが、わずかな差でもズレると悔しいものです。反射神経ともうしたらよいのでしょうか、そのときそのときで臨機応変に対応する力を、もっと養いたいと思います。

今月は『口上』にみられる通り、座組が大人数だったせいもあり、名題下部屋も活気にあふれておりました。普段からの遊び仲間も大勢一緒だったので、とても楽しい毎日でした。楽屋の顔ぶれは当然ながらひと月ごとに変わります。今日でこのメンバーともお別れかと思うと、寂しい気持ちもいたしますが、来月はまた来月で、楽しい出来事、面白い事件がおこることでしょう。

明日からさっそく五月團菊祭のお稽古です。私は『女暫』の<女奴>と『め組の喧嘩』序幕の<島崎楼抱え女郎>に、『勧進帳』での義経の<裃後見>に出させて頂きます。
さてどんな五月の毎日となりますでしょうか…。

お待たせしました『合同公演』!

2007年04月24日 | 芝居
大変長らくお待たせいたしました。第13回 稚魚の会・歌舞伎会合同公演の演目、配役の発表です!

今回は初の試みとして<3部制>での上演です。同一演目をダブルキャストで上演するA班、B班と、それとは違う演目をシングルキャストで上演するC班の3組です。そのことをふまえて、以下のプログラムをご覧ください。
(以下、敬称を略させていただきます)

《公演日》8月22日(水)~26日(日)
《場所》国立劇場 小劇場
《開演時間》11時・2時半・6時の 3部制 
但し22日(水)は11時の回のみ・26日(日)は11時、2時半の回のみ


《演目・配役》

A班
22日(水)・23日(木)・25日(土)=11時
24日(金)=6時



竹田出雲・並木千柳・三好松洛・竹田小出雲=合作
中村吉右衛門=監修・指導
菅原伝授手習鑑 一幕
       寺子屋の場

舎人松王丸       市川竜之助
武部源蔵        中村吉六
春藤玄蕃        市川猿琉
涎くり与太郎      尾上辰巳
下男三助        中村翫蔵
百姓仁兵衛       中村吉也
御台園生の前      市川升吉
源蔵女房戸浪      中村歌女之丞
松王丸女房千代     尾上徳松


藤間勘祖=振付
乗合船恵方万歳 常磐津連中

万歳 鶴太夫      坂東翔次
才造 亀吉       尾上音之助
通人 杏雨       澤村紀義
大工 芳松       尾上音二郎
田舎侍 赤松久根之進  坂東 悟
角兵衛獅子 市造    市川猿治郎
角兵衛獅子 三次    大谷桂太郎
鳥追い おせん     澤村由蔵
芸者 春菊       中村京三郎
女船頭 お浪      中村まつ葉
白酒売 おふじ     市川喜昇




B班
24日(金)・26日(日)=11時
23日(木)・25日(土)=6時


竹田出雲・並木千柳・三好松洛・竹田小出雲=合作
中村吉右衛門=監修・指導
菅原伝授手習鑑 一幕
       寺子屋の場

舎人松王丸       松本錦次
武部源蔵        澤村國矢
春藤玄蕃        中村富彦
涎くり与太郎      尾上音二郎
下男三助        中村翫蔵
百姓仁兵衛       中村梅秋
御台園生の前      片岡嶋之亟
源蔵女房戸浪      中村春之助
松王丸女房千代     中村京紫


藤間勘祖=振付
乗合船恵方万歳 常磐津連中

万歳 鶴太夫      中村蝶三郎
才造 亀吉       中村獅一
通人 杏雨       尾上辰巳
大工 芳松       尾上松男
田舎侍 赤松久根之進  坂東 悟
角兵衛獅子 市造    中村京純
角兵衛獅子 三次    中村京由
鳥追い おせん     中村梅之
芸者 春菊       中村京珠
女船頭 お浪      澤村伊助
白酒売 おふじ     中村竹蝶


C班
23日(木)・24日(金)・25日(土)・26日(日)=2時半


藤間勘祖=振付
今様須磨の写絵 清元連中

海女 松風       中村京妙
海女 村雨       坂東玉朗
在原行平        中村東志二郎
船頭此兵衛       市川新七


市川團十郎=監修・指導
歌舞伎十八番の内 勧進帳 長唄囃子連中

武蔵坊弁慶       市川新蔵
源 義経        市川左字郎
亀井六郎        市川茂之助
片岡八郎        中村蝶之介
駿河次郎        中村吉二郎
常陸坊海尊       市川升平
番卒軍内        坂東 幸
番卒兵内        中村梅秋
番卒権内        中村獅之助
富樫左衛門       市川升一


若手の修行にふさわしい時代狂言と舞踊という組み合わせに、かねてからお客様からの希望も多く、同人一同の懸案でもあった大曲がついに上演のはこびとなった見どころたっぷりの番組です。なかでも『勧進帳』につきましては、名題、名題下の勉強会で上演されるのはおそらく初めてのことではないでしょうか。市川宗家、成田屋(團十郎)師の御許諾を得て、晴れて挑戦いたすことになりました。

私はB班『乗合船』の<鳥追い>でございます。編笠を斜にかぶって三味線を抱え、江戸の町を流した女芸人のお役でございます。粋にサッパリ、そして愛嬌も交えて踊れたらと考えておりますが、女形としての勉強会初参加。まずは行儀よく、基本をしっかり学びたいです。
『勧進帳』では、富樫左衛門の<裃後見>も勤めさせていただきます。いつも仲良くしている升一さんを、少しでも手助けできたらと思っております。

とにもかくにも、新しい試みと、大曲大作の上演という公演、いつも以上に<熱い>舞台となりそうです。出演者一同気を引き締め、全力で取り組んでまいりますので、どうぞ真夏の三宅坂に足をお運びくださいますよう、心よりお願い申し上げます!!

お申し込みは…

国立劇場チケットセンター(10時~5時)
0570-07-9900
03-3230-3000(PHSおよびIP電話)
電話予約は6月13日(水)からです!

窓口販売開始は6月14日(木)ですが、電話予約で売り切れた場合は、窓口販売はございません。

第六回 『一心會』 のお知らせ

2007年04月23日 | 芝居
宗家藤間流、藤間勘十郎師・囃子方田中流、田中傳次郎師の主催による『一心會』の詳細が発表となりましたので、ご案内申し上げます。(配役紹介では敬称を略させて頂きます)

《日》  8月2日(木曜日)
《会場》 日本橋劇場(日本橋公会堂4階ホール)

昼の部(午前11時半開場/正午開演)


長唄・箏曲  鶴亀        女帝  藤間 弘
                 鶴   藤間凰綏
                 従者  堀江涼花
                 亀   藤間咲良

常磐津    林燗        黒又  中村蝶之介
                おきの  中村京珠
                 十内  中村蝶三郎 

長唄     娘道成寺       花子  藤間勘洋舞

清元     流星        流星  澤村國矢

長唄     茶壺      熊鷹太郎  中村東志也
                 目代  中村梅之
                麻胡六  中村東志二郎

常磐津    一人景清      景清  坂東亀寿

義太夫・清元 吉野山     静御前  藤間勘十郎
                 忠信  中村種太郎


夜の部(午後4時半開場/午後5時開演)

長唄      五條橋     弁慶  中村松江
                 牛若丸  中村玉太郎

長唄   操り三番叟    三番叟  中村梅之
                 後見  中村東志也

清元   浮かれ坊主   願人坊主  市川左字郎

長唄    雨の五郎    五郎時致   中村梅丸

義太夫・箏曲  狐火    八重垣姫   藤間紫恵悠
               忍武士   澤村國矢

長唄      船弁慶   静御前/
              知盛の霊  坂東亀三郎 
              源 義経  市川男寅
              亀井六郎  中村東志二郎
              片岡八郎  中村梅之
              伊勢三郎  中村蝶之介
              駿河次郎  中村蝶三郎
              舟子浪蔵  大谷廣松
              舟子岩作  大谷廣太郎
            舟長三保太夫  藤間勘十郎
             武蔵坊弁慶  坂東亀寿

《入場料金》   全席自由席 2,500円(昼・夜各回につき)

《お問い合わせ・お申し込み》

一心會(株式会社 藤間オフィス 内) 03-5790-1870

各出演者


『一心會』は、演者・演奏家ともども若手を中心とし、お互いに技芸を磨いてゆく目的で、藤間勘十郎師と田中傳次郎師がお始めになった会でございます。<古典演目>はもちろんのこと、振付や曲を改めての<従来演目の新演出>、<新作の上演>も、これまで行われてまいりました。
今回は古典演目をズラリと並べた狂言立てでございますが、私は上記の如く『操り三番叟』の<三番叟>、『茶壺』の<目代>、『船弁慶』の<片岡八郎>の3役を勉強させて頂きます。いずれも立役ですが、これは、私が女形に転向する前に配役が決まったためでございます。今後は、踊りの稽古におきましては、女の踊りを第一としながらも、様々なお役をお稽古して頂くことになると思います。
五穀豊穣、天下太平を祈る祝儀舞踊である<三番叟>を、糸操りの人形が踊るという奇抜な趣向の『操り三番叟』、1個の茶壺を巡る泥棒と田舎者の争い、それを調停する目代(役人)のユーモラスなやりとりが見ものの『茶壺』、都落ちする義経と静御前の悲しき別離から、一転、壇ノ浦に滅んだ平家の大将、知盛の怨霊の出現と退散までをダイナミックに描いた『船弁慶』。1日の会でこのように沢山の演目に出させて頂く有難さをひしと感じつつも、さて体力気力集中力、無事やりおおせることができるかという不安も覚えながら、毎月のお稽古を重ねております。

一門の梅丸も参加させて頂くことになり、いまから大張りきりでございます。その他、先輩、同期、後輩たち、普段から一緒に劇場で働き、また宗家のお稽古場でともに学んでいる仲間が、ほぼ総出で日頃の成果を発表させて頂きます。どうかお一人でも多くの方にご覧頂きたく思っております。皆様お誘い合わせの上、日本橋に私どもにとっての<踊りの勉強会>を観に来て下さいませ!

無題

2007年04月22日 | 芝居
本日、中村四郎五郎さんがお亡くなりになりました。
今月も歌舞伎座に出演されておりましたが、途中から休演なされ、ちょっと気がかりだったのですが…。
先代の中村屋(17代目勘三郎)さんからのお弟子さんが、源左衛門さんに続いてまたお一人、旅立たれてしまいました。
四郎五郎さんは本当に気さくな方で、私のような若輩にも、ご自分から話しかけてくださるようなお人でした。昔の芝居のお話をはじめ、私の演技のダメ出しもして下さいました。おかげでいろいろなことを学ぶことができましたが、もうそれも終わりです。
今月の初日近辺のことでしょうか、楽屋口にある休息用の椅子に腰掛けながら、ご自分の名題試験の思い出を話してくれたのが、一対一でおしゃべりをした最後になりました。
数多くの持ち役がおありになった中で、私が一番印象深く覚えておりますのは、『幡随院長兵衛』の序幕の劇中劇「金平法問諍」での慢容上人でしょうか。とぼけた味わいと軽み、おこがましいことですが、<年輪>ってこういうものなんだなと思いました。

心より、ご冥福をお祈り申し上げますとともに、これまで本当にお世話になりましたこと、御礼を申し上げます。ありがとうございました。

根拠のないオススメ

2007年04月21日 | 芝居
今月は、『男女道成寺』が終わると1時間半ほどの空き時間があるのですが、自宅で休むにしては余裕もなく、また未だおさまりきらないジンマシンの治療のため、病院にも通うことが多いので、3時過ぎからとなる遅めの昼食は、もっぱら外食ですませております。
この前、大満足の洋食屋さん『グリル スイス』をご紹介しましたが、その後見つけたお店をいくつかご報告…。

『グリル スイス』の斜め向かいにあるトンカツの『勝よし』さん。女将さんが気さくな、ゆっくりのんびりくつろげるお店です。お肉が新鮮、かつ旨味たっぷりなことは、ひと口食べて頂ければすぐにおわかりかと存じます。お酒の種類が多いのも有難いですな。

歌舞伎座ビルの隣の『A Votre Sante endo ア ヴォートルサンテ エンドー』。イタリアンのお店です。後輩が「この前行ったら美味しかったから、また行きましょう」と誘われて一緒に足を運んだのですが、なるほど納得です。ゴルゴンゾーラの生パスタを頂きましたが、もっちりとした麺にブルーチーズのコクがからんで、口に入れる度に幸せになりました。後輩が選んだトマトソースのペンネも、ちょっと辛味が効いて“大人の味”でした。

歌舞伎座裏の、カレーの『蜂の家』は、最近開店した<佐世保カレー>のお店です。楽屋内に多く存在するカレー愛好家たちの意見はわかれておりますが、私は好きな味です。おそらくフルーツを含め様々な具を煮込んだと思われるルーは、どちらかというと甘めで、独特の風味があります。御飯の炊き方が私好み。皆さんもお試し下さい。テイクアウトやレトルトの販売もしています。

最後に、これは銀座ではないのですが、宗家稽古場からの帰り道、よく立ち寄るのが渋谷東急文化村そばの『BAR NICHA バー ニーチャ』。立ち飲みのバーです。食べ物も飲み物も、500円前後という手頃さと、こういう店にありがちな騒々しさもない落ち着いた雰囲気。稽古に疲れて、ちょっと一息入れたいときには、ここで20分ほど過ごしてから帰ります。あんまり飲むと、教わった振りを忘れちゃいますからね…。

皆様のお役に立つかどうかはわかりませんが、食事場所に困った時は、思い出してやって下さいませ。


芝居は劇場を飛び出して

2007年04月20日 | 芝居
初日以降、皆様から頂戴したメッセージにお返事させて頂きました。遅くなりましたことをお詫び申し上げます。

…歌舞伎座の楽屋口は、地方公演、巡業などで劇場に送る荷物の<搬出場>にもなるのですが、ふと入り口脇の壁を見ますと、『丸の内歌舞伎 荷物置き場』という張り紙が。御園座行、とか博多座行、先月などはパリ行なんていうのを見ましたが、はてさて丸の内とは…?
聞いてみてわかったんですが、今月27日の正午より、新丸ビル脇に特設された舞台で、音羽屋(菊之助)さんが『鏡獅子』を上演なさるんですね。オフィス街の中で観る歌舞伎舞踊、どんなひと時となりますでしょうか。
10年ほど前から、劇場ではない場所での歌舞伎公演が増えてきているように思います。鹿児島市は三島村、硫黄島の浜辺で、当地ゆかりの『俊寛』が上演されたのは話題になりましたし、<薪歌舞伎>、<篝火歌舞伎>という名称も、度々目にするようになりました。
かくいう私も、平成11年10月、姫路城特設舞台での『白鷺城異聞(はくろじょうものがたり)』で、そうした野外歌舞伎の経験をさせていただきました。姫路城の天守閣に棲む妖怪変化を、宮本武蔵が退治するという新作舞踊劇でしたが、師匠は姫路城守役で出演なさいました。
役者、衣裳床山、大道具さんたちの楽屋は仮設のプレハブ。客席はパイプ椅子。背後に日本一の天守閣を仰ぐ舞台は屋根なしの平面舞台で、地上からの高さは2メートルくらいありましたでしょうか。
普段とはまるで違う環境での数日間は、面白くもありましたが苦労もいっぱい。化粧や洗顔に使う水の確保、決して多くはないお手洗いの順番待ち…。楽屋はある意味生活の場ですから、ちょっとしたことでも不便を感じるものです。
しかし、それよりなにより一番大変でしたのは“寒さ”でした! 秋というより初冬の寒風がドンドン入り込んでまいります。もちろん楽屋に暖房設備はございましたが、なにしろ夜公演でしたから、ホッカイロ、着物の重ね着などで補わなくてはやりきれない寒さでございました。ご覧になったお客様もさぞかし大変だったのではないでしょうか…。
そんな苦しみも、舞台に出ると忘れてしまうのが不思議なものです。私は師匠の後見で舞台に出ておりましたが、師匠が『月を観ながらひとさし舞え』と台詞をおっしゃいますと、おりしも<本物の>満月が上空に見えているという趣向にお客様も大喜び。こういうのが野外芝居の魅力でしょうか。

舞台機構の制限も多々ありますし、雨が降ったらおしまい! というリスクもある(近くの会館に差し替えて上演する場合もあり)公演ですが、演目や演出に工夫をすれば、ますます歌舞伎の面白さが伝わるのではないでしょうか。

今日は家族で

2007年04月19日 | 芝居
気がつけば、4月大歌舞伎もあと1週間となりました。侍女の台詞、所化の花笠踊り、難しいながらもやりがいのあるお役を勤めさせて頂き、毎日が楽しく充実しておりますが、そういう月ほどあっというまに過ぎ行くもので…。

仕事の終わりが早いので、1日くらいは実家に帰ろうと思っていたのですが、勉強会の打ち合わせや、<一心會>の稽古などが続き、どうも果たせないまま終わりそうです。駅前の<CAMDEN LOCK>で飲みたかったのですけどね。
それでも今夜は、久々に家族全員と、父の友人とで楽しく食事ができました。場所は以前ご紹介しました大手町2丁目の高架下<菱風(りょうふう)です。和のメニューが中心のお店で、今日は新鮮なお造りをはじめ、ハーブ豚、地鶏などお腹いっぱい。地方に出勤中の家内も是非連れてゆきたかったです。

肌寒い日が続きましたが、明日からは陽気がもどってくるようですね。春らしい春をもっと味わいたいですね~。

ある意味セクシー?

2007年04月18日 | 芝居
夜の部の『魚屋宗五郎』の第二場<磯辺邸玄関先>のはじめに出てくる<中間>は、素肌に紺木綿の単衣物というごくごく簡素な扮装ですが、これが中間という職業のユニフォームのようなものになっておりまして、その色から<紺看板>なんていう俗称もございます。
この衣裳、実はちょっと変わった着方がございまして、それが上掲の写真に見られるような形です。上前、下前の襟先どうしが重なるくらいにごくごく浅く合わせまして、余った部分はヒダをとってまとめ、最後に尻端折りをします。結果、白木綿のサガリ(褌)や腹巻きがよく見えるようになり、脚の露出度もアップいたします。全体のシルエットも独特になりますね。
先輩のお話を伺いますと、これは江戸の武家屋敷内で、決してガラの良くなかった<中間>職の面々が、そのままではけして立派とは言えない服装を少しでもオシャレに見せようという、伊達や格好付けのために考案した着こなしが伝わっているそうです。たしかに、この着方からはより男っぽさを感じますよね。
とはいえどんなお芝居のどの場面でも、中間役はこの着方になるかと申しますとそうではなく、これは江戸を舞台にした生世話物の芝居を中心に見られるもの。時代物や上方が舞台の芝居ではあまりお目にはかかりませんで、その場合は普通に合わせて着て、尻端折りをしただけの形になります。

実は私、平成12年の勉強会で、この『魚屋宗五郎』の中間をしたことがあるんです。実際この独自の着方をするのは難しいもので、普段なら必要ない腰紐を使ったりして、見栄えよく着付けるコツを先輩から教わりましたが、自分の体格との釣り合いもあり、サマにならずに難渋いたした思い出がございます。
ちなみにこの場の中間が、普段なら脚に必ずつける<三里当て>をしておりませんのは、屋敷内での仕事には、つける必要がないという意味でございます。

…幕開きの4人の中間の会話を聞いておりましても、たしかに江戸の武家屋敷(しかも決して大身ではない)の雰囲気が伝わってくる。黙阿弥という人はすごい作者ですね。

とりとめなしに

2007年04月17日 | 芝居
『稚魚の会・歌舞伎会 合同公演』『一心會』のご案内が遅くなっておりますが、今週末には詳細を発表できると思いますので今しばらくお待ち下さいませ。実は今夏、この2公演のほかにも、勉強をさせて頂く場を頂戴しました。おって発表させて頂きますが、なかなか充実した日々を過ごせそうで、今からワクワクしております。実り多きひと月となるよう精一杯頑張りますので是非是非ご声援賜りますようお願い申し上げます。

師匠とともに、6月まで歌舞伎座に出演が決まりまして、なんと連続7ヶ月の出演となりました。ちょっと驚きですが、歌舞伎座の大舞台で多くの演目に出られることは嬉しくもあり、有難いこと。さて来月はどんなお役となりますでしょうか。
…今日は芝居話となりませんでしたので、お詫びかたがた、先輩から聞いた<昔の>エピソードを。
今月夜の部でも上演されている『双蝶々曲輪日記 角力場』で、相撲興行の掛け小屋のなかから聞こえてくる呼び出しや行司の声。これは役者が勤めておりますが、行事の「ノコッタ、ノコッタ……放駒ァ」の勝ち名乗りで、一斉に大勢の見物が出てくるわけでございます。新米力士の放駒長吉が、名大関濡髪長五郎を負かしてしまったという驚きの結果に、皆々「長吉勝った」と囃しながら帰ってゆく。鳴物の相撲囃子も賑やかな、印象深い一場面です。
さて、某年某月某日の『角力場』で、いつも通りに行事が「ハッケヨイ」と勝負をはじめたはよかったのですが、なんと「ノコッタ、ノコッタ……濡髪ィ」とやってしまった! 勝敗が逆転してしまったわけで、これでは見物役も「長吉勝った」と言えるわけはございませんし、その後の芝居にも影響が…。
困った行司役、そのまま続けて「…の負けェ」。

素晴らしい出会い

2007年04月15日 | 芝居
後輩の紹介で、落語家、林家彦丸さんとお食事をご一緒いたしました。
彦丸さんは、当代林家正雀師匠のお弟子さんで、現在二ツ目、御年24歳でいらっしゃいます。
紹介してくれた後輩は、彦丸さんとは師匠同士の“コラボ”的公演のおりに知り合ったそうですが、その後輩はじめ、若い役者5人と噺家1人という組み合わせで、お酒も多いに飲みつつの四方山話となりました。落語大好きな私は、彦丸さんをずいぶん質問攻めにしてしまいましたが、落語の世界の裏表を、わかりやすくご説明くださるその語り口が、身に付いた江戸言葉になっているのに痺れました! いろいろ伺った中で印象深いのが『本寸法』という言葉。私ども芝居の世界で言えば<定式>とか<古格><本格>といったニュアンスでしょうか。腕が上がれば、その人の芸は『本寸法』になる。あるいは噺家としての振る舞い方、生き方そのものが、修行の中で『本寸法』になってくる…。私どもも、こういう言葉を頭の中に置いておかねばならないなと、その場の役者一同で思った次第です。
ずいぶん遅くまで話し明かしましたが、年下とは思えない貫禄、ストイックな格好良さ。魅力にあふれるお方です。まだ高座を拝聴してはおりませんが、末永く応援させて頂きとうございます。皆様も寄席へお越しの際はどうぞ御贔屓に。

時代を表す柄

2007年04月14日 | 芝居
写真は『頼朝の死』で私が勤める侍女の衣裳です。
柄を大きく写してみましたが、玉子色の縮緬地に、雪輪の中に色々の模様を入れた文様が散らしてあります。
『頼朝の死』で描かれている鎌倉時代から、元禄時代までの装束は、男女ともに大きな模様、華やかな色使いが多うございましたようで、これらの時代を描いた新歌舞伎や新作歌舞伎作品が上演されますさいは、そうしたことを踏まえた衣裳選びがなされます。
私がこの衣裳を着るのは2度目です。最初は平成13年8月歌舞伎座『御浜御殿綱豊卿』での腰元役でした(元禄時代の芝居ですね)。綺麗な柄でしたのでよく覚えていましたが、はからずも6年ぶりに、演目は違えど再び袖を通すことになるとは…。感慨深いものがあります。