梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

巡業日記16・金沢の巻

2005年07月17日 | 芝居
本日は宿泊地である金沢の駅前にある『石川県立音楽堂 邦楽ホール』での二回公演でした。
ここ金沢は、師匠梅玉、師匠の弟でいらっしゃる魁春さんにとっては大変所縁のある、初代歌右衛門の出身地でありまして、初代の菩提寺、真成寺がございます。本日は公演前に、当寺で初代の法事が執り行われまして、高砂屋、加賀屋一門をはじめとする関係者一同が打ち揃いました。
伝え聞くところによりますと、初代中村歌右衛門は、加賀藩の御典医の息としてこの加賀の国に生まれたそうでございます。その後大阪や江戸に出て、歌舞伎役者となり芸道の修行をされ、初代の歌右衛門を名乗り、立役を中心に活躍、人気俳優となったそうです。初代から三代目の歌右衛門までは、屋号は「加賀屋」。出身地をそのまま名乗ったわけですね。この「加賀屋」の屋号が、現在魁春さん、東蔵さんに受け継がれているわけでございます。

本日の会場『石川県立音楽堂』は、完成してからまだ十年と経っていない新しい劇場で、クラシックのためのホールと、演劇のための舞台と二つのステージを持つ立派な劇場です。本花道、回り舞台も備えている本格的な舞台で、楽屋数も多く、大変近代的なつくりでございました。
お客様も、二回公演ながらどちらも大勢お越し下さり、補助席も出ておりました。お芝居への反応も良く、大変有り難いことでございました。さすが芸所金沢でございますね。

この巡業で、本花道があったのは、秋田『康楽館』とここ『音楽堂』ぐらいなものです。やはり花道は舞台と直角に交わり、客席を貫く形が本来で、演技もしやすいものです。今月の『与話情浮名横櫛』の「木更津海岸見染めの場」では、本花道がある場合に限り、与三郎と鳶頭の金五郎が、客席を回った後、花道ですれ違う土地の人間(貝拾いの女や子分達)の人数をいつもより増やしております。そうしないと、花道を歩く時間の芝居がもたなくなってしまうのですね。
そうでなくても、巡業で回る会館の舞台設備によって、普段の公演とは演出が変わる場合は多々ございます。今月の『吉野山』でも、今回限りの演出がいくつかございます。それはまた、明日お話いたしましょう。

金沢とも、今晩でお別れです。