梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

巡業日記8・宮古の巻

2005年07月06日 | 芝居
今日は移動の大変な一日でした。『宮古市民文化会館』で、六時開演の一回公演だったのですが、盛岡から宮古までは、貸し切りバスで二時間かかります。往復で四時間余り。座席についている時間のほうが、芝居の上演時間より長くなってしまいます。
ホテルの前からの出発は午後一時十五分。余裕があるので、昨日拝見できなかった報恩寺の五百羅漢を再び訪ねました。午前十時半到着、誰もいない羅漢堂に足を踏み入れると、今まで見たこともない光景にしばし呆然。薄ぐらいお堂の正面には、毘盧遮那仏を安置した壇。その四方を囲む壁に棚をしつらえ、現存する四百九十九体の羅漢像を並べたありさまは、しばし現世の喧噪を忘れさせる、静謐と荘厳の別世界です。
一体一体の像の、なんと生き生きとしていることか。あるいは笑い、あるいは怒り、一人瞑想し、また隣人と語らい。一瞬を切り取ったその姿から、いろいろなストーリーを想像させてやまない、聖者でありながら人間味を強く感じさせる姿は、全く見飽きるということがありませんでした。
おりしも羅漢堂を出ると、十一時を告げる鐘が搗かれました。余所者は私だけという静かな境内に、しみじみと響き渡ります。
思わず、

鐘の音も 雨に曇りて 杉木立

と駄句をひねりだしてみましたが、季語がございませんね。

寺を去ってから、昨日のように街を散策、ちょうどいい時間つぶしになりました。そして定刻にホテルを出発したバスは、延々山あいの道を進んで宮古へ向かいます。
会場はやや狭め。私達名題下の楽屋が、幹部俳優さんや名題俳優さんのところとは舞台を挟んだ正反対の場所で、お手洗いや流しから遠いのが不便といえば不便でしたが、まあ一回公演ですからね。
飲み物やお菓子などが並ぶケータリングに、今日は地元で採れたというサクランボがどっさり並びました。甘さと酸味が丁度よくてついつい沢山食べてしまいました。
終演は午後九時前。帰りのバスが出発したのは午後九時二十分くらいでしたか。それからまた二時間あまりの帰路となります。行きでは楽しめた景色も、もはや真っ暗になって何も見えず。空腹をお喋りや仮眠で紛らわしながらの道中でした。
盛岡についたのが午後十一時半過ぎ。それから、宣言通りに盛岡冷麺を食べに『焼肉・冷麺 盛楼閣』へ先輩と。夜中というのに焼肉と激辛冷麺(冷麺は辛さを七段階から選べるのですがその最高)を食します。これだから太るのですよね…。
ともあれ、盛岡麺尽くしもこれで完結。思い残すこともなく、この地を去ることができます……が、わんこそば、これは百杯食べたかったなあ……。