梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

巡業日記9・秋田「康楽館」の巻

2005年07月08日 | 芝居
昨日は盛岡から秋田県小坂町への「移動日」でした。貸切バスで午後一時十五分にホテルから出発、約一時間半で、まず今回の公演地『康楽館』に立ち寄り、楽屋作りをしてから、宿泊地『十和田湖レイクビューホテル』に向かいました。
『康楽館』からホテルはバスで約三十分。山を一つ越えなくてはなりません。おりからの雨模様の天気のせいか、山道にはどんどん霧が立ちこめ、窓からは何も見えないありさまでした。
『康楽館』での公演は三日間ございますので、宿も三連泊です。ここでは夕食もホテルの食事を頂きます。とても盛りだくさんの品数で満腹、突き出たお腹を気にしながら、大浴場(温泉ですよ)のサウナで汗を流しました。
そして本日、午前八時半出発のバスで楽屋に向かいました。今回の公演地である『康楽館』は、明治年間に建てられた芝居小屋で、当時の姿がほぼそのままに残されている珍しい劇場です。狭いながらも本花道、回り舞台(今回は使用しませんが)を備え、客席も平土間と申しまして、椅子席ではなく相撲の桟敷のようなつくり。お客様は座布団に座っての観劇となります。
楽屋も昔のままで、舞台裏すぐのところに、舞台と壁一枚隔てることなく備えられております。
ここの舞台が、今回の巡業で一番狭いところでして、今日の昼の部(三日間六回公演です)の『吉野山』では、さすがに苦労しました。八人の花四天が並ぶとギチギチ。皆々花槍という、先に桜の花がついた長い槍を持っておりますから、お互いぶつからないよう、引っ掛けないようにするのに注意をはらいます。それでもどうしても、互いに迷惑をかけてしまうところもありましたが、これは今日の夜の部ではほとんど改まりましたし、明日からはもっと良くなるでしょう。
それにしましても、小さな劇場に鈴なりのお客様の、熱気と暖かい拍手! 四国の金丸座もそうなのですが、昔ながらの<小屋>に集まるお客様は、お芝居に参加する、と申しましょうか、本当に楽しんでご覧になっているようで、他の会場では反応がない場面でも、笑いがおこったり、盛大な拍手があったりと、演じていて本当に有難い反応が数々あって、嬉しい気持ちで一杯になります。舞台と客席の距離もいつもより近いので、お客様の表情もよくわかります。笑顔でご覧になっている皆様の姿が見えると、こちらも安心してお芝居できます。
しかしながら、ただお客様の反応のよさに一人満足してもいられないとも思います。皆様が拍手してくださるに値する演技を、仕事を、私ができているのか、そのことだけは、常に心のどこかに留め置いて、自戒とともに勤めたいものでございます。
ともかくも、あったか~い芝居小屋での公演は明日、明後日もございます。楽屋、舞台の折々を、しばらくお伝えいたしたいと存じます。