瀬崎祐の本棚

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詩集「女は秘密を歩き始めてしまう」 にしもとめぐみ (2024/01) 砂子屋書房

2024-01-30 22:54:49 | 詩集
13年ぶりの第2詩集。76頁に27編を収める。巻末に細見和之の跋を置く。

巻頭の「燃え尽きるその日まで」。
今日の一日がかけがえのないものだとは、誰でもが観念的には思う。しかしその実、そんなことは意識せずにこれまでの他の日々と同じような当たり前のものとして捉え、惰性で過ごしてしまうことが少なくない。話者は蟬しぐれを聞きながら「同じようで違う/時 かけがえのない 今」を思っている。

   死にゆくことは
   課せられたこと
   生死は巡る

   命の在る事
   命の美しさ
   が燃えている

一途なと言っていいほどの強さがここにはある。それが愛というものの強さなのだろうか。生きていることそれ自体への畏怖の念がある。

「モデラート・カンタービレ」。
一連目には「女は/秘密を/一日を/歩き始めてしまう」と、詩集タイトルの言葉が出てくる。「女は」とあるからには詩われているのは単に話者一人ではなく、すべての女性が内包しているものなのだろう。短く簡潔な言葉づかいなのだが、孕んでいるものは深く広い。最終部分は、

   陽をあびて
   葉が狂(くる)る狂(くる)ると
   舞い堕ちる

   風景が一日を溶かし
   死の口づけが
   毒杯を呷らせても

葉は狂ってしまっているようなので、ただ”落ちる”のではなく”堕ちる”のだ。

詩集後半には古の相聞歌などを引いた作品もある。
細見の帯文には「時間の、はじまりの、大地の、春をもとめること--生きものとして、植物として、女として。」とあった。この詩集の作品世界を端的にあらわしていた。
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