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詩集「あやうい果実」 浜江順子 (2020/09) 思潮社

2020-10-17 19:04:24 | 詩集
 第8詩集。123頁に21編を収める。表紙カバーにはカンディンスキーの絵が用いられている。

 「人に人」。何かよく判らないのだが、具体的な形になる前の焦燥感ばかりが伝わってくる作品。切羽詰まっている。どのようなことをすれば、それが人間の行為であると証明できるのか、といったことなのだろうか。しかし、「苦痛の美をひとつ与えられたら、人は人に入ることができるのだろうか?」と言われても、「人に入る」イメージが上手く結べない。

   血の色をした雲を見上げながら、突然吹
   いてくる突風に逃げ惑う。毒が入ってい
   る水だとしても、そこにはその井戸しか
   ないのだから。裏切りも怒りも時間の円
   環でダンスを舞いながらいまは深紅にな
   った夕闇の空を啜る。

 次第に、人間であるということはどのようなことであるのか、という問に絡めとられ始める。いったい、ヒトデナシに入られた人はどうなるのだろうか。。 

 作品には、道を喰う男が出てきたり、顔半分がない男も出てくる。

 「脂肪」。「死亡はある日、脂肪に潜み、やって来た」のだ。死亡は脂肪と溶け合うようで、その脂肪がなくなると「骨だけとなり/完璧な死亡となってしま」うのだ。

   突然
   真っ白な悲しみが
   真っ黒な闇色の死亡とともに
   ふくよかだった脂肪を
   すべて天に振り捨てて
   高く、低く、唸りつづける

 同音異義語なのだが、死亡と対になっているのが「脂肪」という、どこか緊張感がゆるく醜悪とも思えるものなので、苦いおかしみも伴っている。

 「奇形の揺らぎ」は拙個人誌「風都市」に寄稿してもらった作品。その際の私の紹介は「邪悪なものが疾駆して、しかしそれは悲痛でもあるようで、濃い無彩色の世界だった」というものだった。
 あとがきによれば「(この詩集は)さまざまな死を見詰め、詩にしたものだ」とのこと。この詩集の果実は噛みしめると甘さを越えた毒がしみ出してくるようで、確かにとてもあやういのだった。
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