瀬崎祐の本棚

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詩誌「Down Beat」 21号 (2023/04)  神奈川

2023-06-20 17:54:17 | 詩集
「うたの日」谷口鳥子。
老人ホーム、あるいは介護施設で、入所者たちが介護士さんの指導で「月の沙漠」をたどたどしく歌っている情景が、ゆっくりと少しずつ書かれた歌詞とあいまって、臨場感を伝えてくる。そこから作品は、父がいなくなり、今は母も不在となった家の様子を描く。話者は家の整理をしているのだろう、

   黒々としたオーブンの中に 布のかたまり
   めくって めくってほどいたら
   ラップにくるまれて千円札三枚 穴のあいた会員証 紙
   きれの束
   小さく切った紙に鉛筆で自分の名前 誕生日 住所

独り暮らしをしていたのであろう母の、退去前の様子が偲ばれて切ない。それを受けとっている作者の心情も切ない。

「水売り」廿楽順治。
「これこそが/わたしたちのたましいであります」と言って水売りが来るのだ。もしかすれば、わたしたちの肉体はすでに滅んでいるのかもしれない。それでもたましいは「まだ/うるおいをのぞむ」ようなのだ。

   差しだされたひしゃくの水に
   ぼくの声は
   決してうつらない

   そこはもう
   別の人の朝だから

どこかがねじれている光景、やりとり、感情がいささかの滑稽感とともに描かれている。これもまたなんだか切ない。

「どうぶつ(詩)」今鹿仙。
作者の作品にはいつも途惑う。でも、とても楽しく読む。書かれている事柄の何が作者の外側にあって、何が内側にあるのか、混沌としている。その混沌としたところから湧いてくるものが、もはや作者を捨てて読んでいる私に新たな混沌をもたらしてくれる。「枕を取られると/結婚できなくなるので とだけ/書いた手紙を受け取」るのだが、その手紙は「どうぶつの詩として」書かれたものらしいのだ。

   子供はせまくてもすぐ
   列になって収まるから
   香辛料のように価値が
   あってたいていの
   呪いもまぎれて届かないものだ

な、混沌としているだろ。 
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