瀬崎祐の本棚

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詩集「かわいくて」  紺野とも  (2014/07)  思潮社

2014-08-28 18:23:29 | 詩集
 第1詩集。86頁に20編を収める。川口晴美、渡辺玄英の栞が付く。
 まずは圧倒されるのは名詞の乱舞である。それも現代のファッション用語、ブランド品をはじめとする商品名、コンピューター用語などである。たとえば、

   ショコラ・ショーはお湯に溶かしてのんびり飲むチョコだけど近道したって別
   にいいじゃない。ニキビができたってかまわないんだ、あごにひとつだけの思
   われニキビってたまらなくいとしいよ。大寒波にはUGG(アグ)のムートンブ
   ーツがベスト、らくちんで安全でそれでも足りないヘモグロビン。納品に間に
   合わないからもう動かなくちゃ、スクラップされた時間の紙屑踏んで動き出す。
                          (「BI嬢(じょう)」より)

 ここには作品を差し出す相手への配慮を無視しようとし居直りのようなものも感じられる。それは覚悟を決めた強さでもある。そこまでしてでも”今”に固執しているのだろう。それは”今の”自分をあらわすための手段であるのだろう。そして、おびただしい名指しなのだが、名を持たせることによって対象との関係を安心しようとしているようにも思える。
しかし、ただそれだけではない。それらのものを受け止める感覚が、確かに作者の肉体に根付いている。

   このごろ恋人を呼んでいません。呼ばないのに欠片は目障りに光見つめれば
   眼に残像を残します。それがひんやりとした棘のように筋肉の繊維を傷め苛立
   ちがつのりぶつけてしまいたくなったから、痛む腕を懸命に振って壁に投げつ
   けました、
   それなのに! 割っても・・・・・・面積を増した欠片はよけいにわたしを苛みつづけ
   るのです、かわいそうな小さな光たち。
                           (「燐光」より)
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