瀬崎祐の本棚

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詩集「川を遡るすべての鮭に」 加藤思何理 (2019/04) 土曜美術社出版販売

2019-06-07 21:28:04 | 詩集
 第6詩集。139頁で、装幀はいつも好いなあと思ってしまう長島弘幸。しかし、この詩集についての私(瀬崎)の感想は微妙なものだった。

 どの作品も物語を伝えようとしている。「十四歳の誘惑者」では、裸の女性死体を見つけた話者と兄は慌てた車の運転で自損事故を起こす。そんな思い出を語る話者が夜中に女の子を掠奪しようとしている。

   そしてぼくはきみを青いピックアップで掠奪してゆく。
   甘く抒情的な夏の闇にまぎれて、ぼくたちの姿はすぐに見えなくなるだろう。
   そうすれば、今夜は永遠にぼくたちふたりだけの時間だ。

 その物語はそれ以上のものになることはなかった。

 「戯れのインタヴュウ」では、十七歳で出版したぼくは彼女とインタヴュウごっこをしている。そして、そのうちにおよんだ性行為の様子が克明に描写されている。他の作品でも性器や性行為の描写は繰り返しあらわれる。詩集全体に性的な妄想がつまっているとでも言えばよいのだろうか。

 目次には13編のタイトルが並んでいるが、実際に頁を繰ってみると、うちの1編はタイトルのみが印刷されていて作品部分には「諸事情により割愛する」とあった。はて、これは?
 そして、詩集最後に置かれた作品「素敵な三つの友情について」は、その割愛された作品「蒼い布張りのソファ」について二人の男と一人の女が語り合っている内容になっていた。提示されていない作品を巡る作品というわけだが、そこで作品が存在するということの意味が問われていたかというと、残念ながらそれは肩すかしであった。登場してくる三人の人間模様が軽く浮かび上がってくるに留まっていた。

コメント
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