瀬崎祐の本棚

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ガーネット  87号  (2019/03)  兵庫 

2019-06-16 13:09:52 | 「か行」で始まる詩誌
 「通り」高木敏次。
 自分である私の存在を、違和感なしに私が感じ取ることは意外に難しいことなのかもしれない。通常は雑事に紛れているのだろうが、ひとたび私に私でない部分が入り込みはじめると、それはどうしようもなく不安になることだろう。すこし長い引用になるが、途中で切ることもできないので作品の真ん中あたりの12行を引く。

   人目につく町では
   手すりが伸びた階段を上がり
   肩越しにのぞきこむと
   靴音を聞きながら
   私に触れているこの手が
   終着駅の地図を示した
   それならば
   あの通りで
   バスを降りた
   広すぎる通路には
   埋められた
   地上がある

 私がおこなっている行為が私自身のものなのか、私ではない私の行為なのか。どこかに不気味さを孕んだ不安感が澱んでいる。

 「恋と裏切りの季節」神尾和寿。
 9つの断章からなる。自由に展開されるそれぞれの章には関連性はないようで、とりとめもなく思念が漂っている。そこには、好奇心で世界がどこまでも広がっていたような心地よい開放感もある。

   積まれた階段を 一目散に駈け昇る
   目の前に垂れている紐をぐいと引く

   ファンファーレが鳴って チキンライスの隣にあどけないスプーン
   ところが
   女

   この女に
   今から 仕えること
                   (⑥全)

 肩すかしのように、身構えていたものが捩れていく。これはいったい何だ?とも思うのだが、書かれてしまったからには仕方がない。裏切られているのは、案外作者自身なのかも知れない。
コメント
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