瀬崎祐の本棚

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ウルトラ  15号  (2014/03)  福島

2014-05-09 22:05:25 | 「あ行」で始まる詩誌
 「錦鯉」タケイ・リエ。 
 「ぐるりとした堀のなかで泳ぐ恋をしよう」というあなたに、わたしは「いえす、さあ」と答えるのである。
 心がときめくような未知の甘い恋物語というよりも、気心の知れた共生のための恋物語のようだ。そして、わたしたちは堀の中にいるはずなのだが、夜の雨にうろこがもげてゆくことを心配しているのである。周りの出来事にわたしたちは身を寄せてともに耐えようとしているようなのだ。ともに耐えるために恋をすることも必要だったのだろう。

   すべてのうろこがもげたときにおわりだと知っていたので
   さいごの一枚はお煎餅にして焼いて食べてしまったのだよ
   しょっぱくてあまくていい味だった
   それだけはたぶん覚えているつもり

 提示される個々のイメージが新鮮に結びついている。そこにあらわれる物語もだれたところがなく、緊張感が持続されている。だから、こういう作品を読むと(たとえ内容が辛いものであっても)心地よい興奮を味わえる。
 二人の恋物語はどうなるのかというと、「堀に水の匂いがさらさらと満ちて/まばたきと光の足跡が残」るのである。あっけらかんとしていて、どこか居直ったような潔さも感じられる。しかし、その陰にはたくさんの逡巡があるのだろうな。
コメント
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