瀬崎祐の本棚

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詩集「横浜エスキス」  倉田良成  (2013/01)  ワーズアート

2013-02-12 19:39:10 | 詩集
 第15詩集。105頁に34編を収める。
 作品を一人称で語る話者は、あるときはジャズを聴きに行ったり、あるときは絵画を探しに行ったり、ときに酩酊しながら横浜の街を彷徨う。それは架空の旅の記録であるようでもあり、実際の日録の一部であるようでもある。
 作者の生身の日常と想念の非日常が混沌と撹拌されて、話者の物語になっているのだろう。読んでいる者もふらふらと街を彷徨っているようであり、かなり楽しい追経験をすることができる。
 各作品の終わりには、先人の作品の一部が引用されている。それは渋沢孝輔の「水晶狂い」であったり、芭蕉の句であったりする。なかにはアンゲロブロス監督の映画「永遠と一日」のなかの台詞もある。意外な引用の組み合わせもあって、意欲的な試みである。
 当然のことながら、作者が引用した意図と、それを読む者が引用に対して抱くイメージは異なる。そのために、この試みには、話者の物語と引用が引き合ってくれる場合と、逆に反発しあってしまう場合が、読む者にとってはあり得るだろう。

   この街の昼は、老人と、若い母親と幼子と、私のような病者しかいない。駅前は広場になってい
   るが、下を列車がとどろいて走りぬける巨大な跨線橋のようでもあって、広場の空間はするどい
   山巓みたいに滑りやすく、人がそこに留まることをていねいに排除する意志を持つかに見えた。
   女神の肌がふくむ酷薄な体温のような微風に吹かれ、私もまた父のようにほのかにも、たった一
   人で橋を渡ってゆくのかと痛切に思った。         (「橋に関するメモワール」より)
コメント
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