瀬崎祐の本棚

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Quake  53号  (2012/01)  神奈川

2012-03-29 19:49:48 | ローマ字で始まる詩誌
 「挙手」奥野祐子。
 右手を挙げた姿勢、それはなにか意見を言おうとする意思表示だったのだろう。なにか、その提案では受け容れがたい事柄があったのだろう。
 しかし、手を挙げれば「ガツンと重力」がのしかかり、「肉は垂れ/骨はきし」む。これまでの自分の生き方がのしかかってくる。私(瀬崎)も、他人にきちんと向きあうのは大変なことなのだなと思ってしまう。だから話者は、そのままの姿勢で倒れこんでしまう。すると、

   ひらめくように わかった!
   こうやって少しずつ
   今も世界は崩れているのだと

 挙げた右手はなにかを求めていたのだろう。そうやって、わたしは一生懸命生きてきたのだろう。しかし、

   十年は すさまじく硬く
   とりかえしのつかない運命は
   卑怯なくらい 些細なことで決まってしまう
   たとえば
   不意に右手を挙げて
   タクシーを止め
   上ずった声で 早口に行き先を告げる
   それだけのことで
                      (最終部分)

 ああ、これはこんな風に感じるときがあるなあ、と思える瞬間を見事に捉えている。
 自分に嘘をつくまいとしている一生懸命さが小気味よい。「些細なこと」と言いながら、それに対しても責任をとろうとしている決意があるように感じとれる。そんな感情が素直に伝わってくる作品。
コメント
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