瀬崎祐の本棚

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詩集「ろうそく町」  伊藤悠子  (2011/10)  思潮社

2011-10-21 22:14:34 | 詩集
 第2詩集。94頁に26編を収める。
 作品は「私」や「わたし」の一人称で書かれているのだが、どの作品でも話者は自分の立っている位置に戸惑いを感じているようだ。だから自分を見ることを止めてしまっている。そして周りの人々の立っている位置をたしかめては、自分の位置を測っている。それはとても不安定な方法である。確かなものはなく、いつも気持ちが揺れている。
 「静夜」では夕暮れの病室にいる作品。窓辺には縁が一箇所欠けた鉢にベゴニアが植えられている。そして「死にゆく人が横たわっている」。

   死にゆく人が死にきったら
   ベゴニアの鉢の処まで行き
   やはり欠けていることを知る
   欠けたかけらはどこにあるのか
   外は暮れており
   戸口に犬の影はなく
   肉色のかけらはひとつの形見として
   夜が待っている
                    (最終部分)

 悲しみとかの表現ではなく、その人が不在になることが私の存在に突きつけてくる怖れを詩っている。欠けたものが形見になって、これから先の私が夜に向かわざるをえない感覚が、巧みにあらわされている。
 老人ホームを訪ねる「月から目をそらし」の最終部分も紹介しておく。

   眠る人はいつからか
   そこはかとなく
   川を
   身内に抱いているように思われるときもあります

   もう目を合わせることはありません

 身体の中の流れに川のイメージを重ねることにはそれほどの新味はないが、その後の突き放したような唐突な1行が印象的だった。眠る人を自分の意識から切り離そうとしている。自分は眠っていない人だったのだな。
 古い地図に載っている町へろうそくを売り行こうとする「ろうそく町」は、民話のような語り口がどこまでも妖しい。詩誌発表時に感想を書いている。
コメント
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