瀬崎祐の本棚

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詩集「繭の家」  北原千代  (2011/09)  思潮社

2011-10-08 21:48:09 | 詩集
 94頁に22編を収める。表紙カバーに使われている写真は新井豊美のもの。
 無邪気な柔らかい笑顔の陰に、なにかしらの邪悪な心を滲ませている、ある種の童話にはそんな魅力がある。北原の作品も、静かな美しい童話のような語り口の陰に何かしらの恐ろしさを孕んでいる。
 たとえば「鍵穴」。しろがねのキイは「破壊をもたらすかもしれない」ことを知りながらも、鍵穴に差し込むのだ。すると、「奥のほうで やわらかに/くずおれるものがあった」のだ。そして、扉を開けてしまった以上は階段をころがりおちなければならないわけだ。

   孔雀のえりあしに うでをからませる
   なつかしく はじめての匂いを嗅ぎながら
   あおむけに 咲いてしまうかもしれないとおもう
                            (最終連)

 この唐突に咲くものは何だろうか。無謀と知りながらの行為がもたらすものを、何故かそのままに受け入れてしまう不気味さが、ここにはある。
 また「ひとさし指で鎖骨を さすりあげる」とはじまる「鎖骨」。その骨は「みずうみの/縁のように湾曲している」という。曲線を有する人体を描いて、ここには上品な装いをしたエロスがある。エロスにはなにがしかの不気味なものがまとわりついている。それは容易に感じられる。次の詩行の妖しく魅力的なことはどうだろう。

   みちみちてくる水の
   ひとしずくもこぼすまい
   聖い宮であれと つくられたとおり
   どうか触れてください
   岸辺から 湖心へと

 大好きな「葦の川を」「薬草園」「舌」などについては詩誌発表時に感想を書いている。また表題作「繭の家」は拙個人誌「風都市」に寄稿してもらった作品である。
コメント
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