瀬崎祐の本棚

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詩集「いつもと同じ朝」  秋山公哉  (2011/09)  土曜美術社出版販売

2011-10-02 22:54:17 | 詩集
 第5詩集。94頁に26編を収める。石原武の栞が付いている。
 あとがきによれば著者は新聞社勤務とのこと。刻々と動く社会情勢と向き合っている毎日での精神的な緊張には、余人には理解し得ないすさまじいものがあるだろうと想像してしまう。それゆえにか、作品は静かな、どちらかと言えば抒情的な語り口である。
 「雨が降ると/製材所の匂いが濃くなる」とはじまる「雨」は、何気ない描写が素直に作品に入り込ませる。ああ、そうだな、と共感させるのだ。しかし、それだけでは読者は新しいものに出会うことはない。くちなしの香りのする街を歩き、どこからともなく聞こえる子供の歌声を聞いているだけでは。
 この作品の素晴らしさは、それまでのやわらかな描写を受けとめる終連にある。

   この街では
   雨が降ると木も道も人も濡れて
   たましいの在(あ)り処(か)が
   濃くなっていく
                   (最終連)

 作品冒頭を受けてのいきなりの総括が、それまでの街のたたずまいを受け入れさせてきただけに、ああ、そうだな、と思わせてしまう。巧みである。
 外国での思いを集めた第二部の作品では「石ころ」が、旅路での自分を問いなおしていて、印象的だった。

   石を探して旅に出た
   石の声を聞きたいと思った
   そんな訳など何もないのだが
コメント
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