瀬崎祐の本棚

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詩集「夏至まで」  吉貝甚蔵  (2009/10)  書肆侃侃房

2009-12-01 21:53:11 | 詩集
 第2詩集。A5版を少し小さくしたソフト・カバーで、白を基調とした装幀が洒落ている。133頁に26編を収める。
 どの作品でも軽い言葉が美しい世界を作っていく。それは夢のような儚さを思わせる。たとえば「ここを過ぎて君は/崩落の季節に向かう」とはじまる「最後の次ぎに」では、朝の光のなかに黄昏を感じ、夜の冷気を思いだしている。

   だが 砂の地図を忘れ
   忘れ物の落ちた裂け目に
   君は落下しながら
   ヒトを追い越そうとしてヒトを忘れ
   忘れてはいけない傷の記憶が
   そのまま距離になる
 
 作者は、崩落の夢が流れる星や大河、ヒトに言葉として宿っていく、と書く。やはり美しい世界だ。
 ただ、この作品に限らず、この詩集に収められた作品で形づくられる世界には、手触りのようなものがほとんど感じられない。先に夢のようにと書いたが、あまりに美しいものを形づくろうとしたためか、言葉だけのものとなっていて、言葉が伝えてくるものの重みがないことが、私には不満として残った。あるいは、作者はそのように余分なものを引きずらないことを狙っているのかもしれないのだが。
コメント
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