桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

登山の記64・幌尻岳⑧

2006-07-07 21:40:43 | 旅行記

翌朝は、多分3時半頃に目が覚めたのではないかと思う。周囲の人達も皆目を覚ましていて、出発の用意をし始めていた。幸いだったのは、階上の中高年の団体がまだ寝ていたこと。きっと昨日登頂して、今日ゆっくり渡渉しながら下山するのだろう。今日登頂するのであれば、多分2時頃からわいわいし始めたことだろう。登山道で追い抜くことにもなっただろう。よかったよかった。

さて、朝食を簡単に済ませ、シュラフ、シート、ウェーディングシューズ等、大半の荷物を小屋にデポして、いよいよ幌尻岳への登りにかかった。荷物が少なく、しかも夕べかなり熟睡できたので、軽快に登ることができる。気がかりなのは天気。雨こそ降っていないけれど、空は一面の雲である。どうやら山頂からの展望は望めそうにない。しかし、ここまで来て下山するわけにもいかないので、このまま登ることにする。

日高の山の単独行ということで、今回は鈴を持参している。鬱蒼とした針葉樹林の中に、鈴の音が響き渡る。少し登ると、ラジオの音とおぼしき小さな音が聞こえてくるようになった。目を上げると、私の前方に、夕べ私の隣に陣取っていた、私とほぼ同年代の単独行の男性が腰にラジオを下げて登っているのが見えた。こんな山の中でも、NHKラジオは入るらしい。北海道の山では、ラジオをかけながら登っている人とすれ違ったりすることがあるが、往々にしてボリュームが大きく、耳障りなことが多い。しかしこの人はごく小さな音にしており、静かな登山にはありがたい配慮だと思った。

この人を追い抜き、樹林帯のきつい登りをひたすら登って高度を稼ぐ。樹林帯に広葉樹が混じるようになり、木々の背が低くなり始めると、木々の隙間から空が見え始め、少し陽も射し始めた。どうやらもうすぐ稜線に出るようである。

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