みちのくの山野草

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あまりにも無責任なやり方

2019-01-04 08:00:00 | 検証「Wikipediaの高瀬露」
《『宮澤賢治幻の恋人』(澤村修治著、河出書房新社)》


「押しかけ女房」としての露の行動は、賢治の死後、1939年11月発行の機関誌「イーハトーヴォ」創刊号に掲載された高橋慶吾「賢治先生」や、1943年9月20日刊行の関登久也「宮沢賢治素描」(協栄出版社)における羅須地人協会員の座談会を通じて広く知られるようになった。これに対し、露は「事実でないことが語り継がれている」と発言したほかは何も弁解しなかった。

鈴木 さて、その大きな問題とは何かというと、この文章によれば、〈悪女 高瀬露〉が流布したのは、⑴高橋慶吾の「賢治先生」と⑵関登久也の「宮沢賢治素描」によるものだと思われてしまう危険性が大きいということがまず一点。それからもう一点は、この⑴も⑵も高瀬露の実名など明らかにしていないのに〈高瀬露悪女伝説〉が全国に流布してしまった、ということだ。
荒木 しかも、それは濡れ衣なのに。
吉田 たしかに。
 鈴木が『本統の賢治と本当の露』で、
 ただしここで注意せねばならぬことは、この「下敷」そのものには、〈露悪女伝説〉を全国に流布させた直接の責任は殆どないということである。そしてまた、「下敷」に基づいたその後の再生産も同様にである。それは、ある時期までは高瀬露という実名を誰一人として一切公には明らかにしていなかったからだ。せいぜい一部の人だけが内々に知っていた限定的〈露悪女伝説〉でしかなかった。
           〈『本統の賢治と本当の露』(鈴木守著、ツーワンライフ出版)134p〉
と述べているように、「下敷き」、すなわち森荘已池の『宮澤賢治と三人の女性』も含め、⑴も⑵も高瀬露の実名は明らかにしていなかったということが一点目ということだ。
鈴木 そう、昭和14年発行の「イーハトーヴォ」創刊号によって賢治の許に出入りしていた困った女性がいたとか、昭和18年発行の「宮沢賢治素描」によって賢治を困らせた女性がいたとかということはある程度世間に知られていたとしても、その女性が高瀬露であるということは一部にしか知られていなかった。
荒木 したがって、この⑴や⑵が〈悪女伝説〉を一部には広めたとしても〈露悪女伝説〉を広めたことも、ましてそれを全国に流布させたという点では責任はない、ということだべ。
吉田 そしてその〈露悪女伝説〉の全国的流布に「貢献」したのはあろうことか、なんと『校本宮澤賢治全集第十四巻』(筑摩書房)だったということだ。
荒木 知っちょる知っちょる、『本統の賢治と本当の露』の第二章の、特に〝7.冤罪とも言える〈悪女・高瀬露〉の流布〟の中でそのことを鈴木は厳しく告発していたもんな。
鈴木 正直、苦々しく思った。露が死ぬのを待ちかねたようにして新発見の書簡下書があったと嘯き、しかもその新発見の書簡下書は露あてであることが判然としていると根拠も示さずに強弁し、あまつさえ
 推定は困難であるが、この頃の高瀬露との書簡の往復をたどると、次のようなものにでもなろうか。
           〈『校本宮澤賢治全集第十四巻』(筑摩書房)28p~〉
と前置きして、結果的には今まで一部に知られていた〈悪女伝説〉の悪女が高瀬露と受け止められるような記述をしたことをだ。
吉田 あまりにも無責任なやり方だ。「推定は困難である」なら、そんなことはなさらないでいただきたい。
荒木 この出版社の賢治分野における社会的影響は大なのだから、そのようなものを活字にしたならば、その推定が断定に変身して跳梁跋扈するのは時間の問題だと容易に想像がつくだろうに。
鈴木 そうなんだ、これが切っ掛けとなって、それまでは一部にしか知られていなかった〈悪女伝説〉が〈高瀬露悪女伝説〉に変身して一瀉千里に全国に広まったと言わざるを得ない。
 そこで私はドンキホーテであるということは自覚しつつも次のように論陣を張ったのが〝7.冤罪とも言える〈悪女・高瀬露〉の流布〟だ。
 7.冤罪とも言える〈悪女・高瀬露〉の流布
 まず少しく振り返ってみれば、これまでの「仮説検証型研究」等の結果、『宮澤賢治と三人の女性』における露に関する記述には捏造の「下根子桜訪問」を始めとして、悪意のある虚構や風聞程度のものも少なからずあることが判ったから、そこで語られている露は捏造された〈悪女・高瀬露〉であり、同書は露に関しては伝記などではなくて、悪意に満ちたゴシップ記事に過ぎなかったとするのが妥当だと分かった。
 ところが、森は『宮澤賢治と三人の女性』の巻頭で、
 宮沢賢治については、今までに数冊の傳記的著述はなされているが、やや完全とみられる「傳記」はない。今のところ、なかなか書かれる日も近く來そうもない。…(筆者略)…
 この本は、宮沢賢治を知るためのみちの、一つのともしびである。つまり宮沢賢治と、もつともちかいかんけいにあつた妹とし子、宮沢賢治と結婚したかつた女性、宮沢賢治が結婚したかつた女性との三人について、傳記的にまとめて、考えてみたものである。
 〈『宮澤賢治と三人の女性』(森荘已池著、人文書房)3p~〉
と述べているものだから、殆どの人が同書を「伝記」であると捉え、同書の記述内容を歴史的事実と信じ切り、そこで語られている〈悪女〉の存在も事実であったと思い込んだのであろう。しかも上田哲の指摘(115p)どおり、誰一人としてその検証もせず、裏付けも取らぬままにそれを「下敷」として、その拡大再生産等が繰り返され、「宮沢賢治と結婚したかつた女性」は〈悪女〉であったとなり、「宮沢賢治と結婚したかつた〈悪女〉」がいたとなり、次第に〈悪女伝説〉が出来上がっていったというのが実情と言えよう。
 ただしここで注意せねばならぬことは、この「下敷」そのものには、〈露悪女伝説〉を全国に流布させた直接の責任は殆どないということである。そしてまた、「下敷」に基づいたその後の再生産も同様にである。それは、ある時期までは高瀬露という実名を誰一人として一切公には明らかにしていなかったからだ。せいぜい一部の人だけが内々に知っていた限定的〈露悪女伝説〉でしかなかった。巷間言われてきたことは、「宮沢賢治と結婚したかつた女性」がいてその人は〈悪女〉だったいうことに過ぎない。
 ところが前述したように、『校本全集第十四巻』が「新発見」の書簡下書の宛先は高瀬露であると実名を初めて公表し、さらに「推定」⑴~⑺も活字にしてしまったから、「露は賢治にとってきわめて好ましくない女性であった」と一般読者等に受け止められてしまう公表の仕方になってしまった。そこでこの「公表」が切っ掛けとなって、それまで巷間言われてきた先程の「宮沢賢治と結婚したかつた〈悪女〉」が実はこの高瀬露だったのだと読者から決めつけられて、〈悪女・高瀬露〉が一瀉千里に全国に拡がってしまったという事を否定できない。しかもこの他の切っ掛けはどうも見当たらない。だからこれは問題となる。
 それはまず、一連の書簡下書群が露宛のものであり、しかも、これらの下書に認められている内容が事実であったということを同巻は実証し切れていないからである。そして次が、件の「下敷」が事実であったということを同巻は(検証したと明言はしていないので)実証できたとは言えないからである。そしてもう一つ、このような段階で実名を公表すれば、それまで一部にしか知られていなかった〈露悪女伝説〉が一気に全国に広まってしまう虞があるということを事前に充分に検討していたとは言えないからである。まして〈悪女・高瀬露〉は人権に関わる重大事だから、「新発見」と銘打った上での実名の公表や、「推定」⑴~⑺の公表はことのほか慎重であらねばなかったはずだ。なぜなら、もし「下敷」で語られている〈悪女〉が事実でなかったならば、この「公表」はとんでもない人権侵害になり、冤罪に直結してしまうからだ。
 そして「下敷」で語られている〈悪女〉を実際に検証してみたところ、本節の冒頭等で述べたように、それは事実ではなくて捏造であったということが判った。露は客観的な根拠が全くないのにも拘わらず理不尽なことに〈悪女〉の濡れ衣を着せられてしまった(〈註二十三〉)のだった。よって、現状の〈悪女・高瀬露〉の全国的流布は冤罪であり、「賢治伝記」上の看過できぬ瑕疵である、と私は異議申し立てをしたい。
           〈『本統の賢治と本当の露』(鈴木守著、ツーワンライフ出版)133p~〉
荒木 よっ、ドンキホーテよくやった。
鈴木 ったく、茶化すのは止めてくれよ。
吉田 でも鈴木はよく活字にしたと思うよ。これじゃ、『鈴木さんはこのままだとこれによって殺されますよ』と心配して電話をしてきた人もいるというあの「A版6頁の文書」が会員全員に配られるのも、ある意味わからんでもない。
荒木 案外、鈴木は無鉄砲だからな。
鈴木 うん、失うものはもう何もないからね。まして、「真実」の為であれば、ある程度のリスクは覚悟している。
荒木 おいおい、カッコつけすぎだべ。
鈴木 なお、一番最後の、
 これに対し、露は「事実でないことが語り継がれている」と発言したほかは何も弁解しなかった。
の出典は『図説宮沢賢治』の中の(上田哲の)記述であり、
 彼女は生涯一言の弁解もしなかった。この問題について口が重く、事実でないことが語り継がれている、とはっきり言ったほか、多くを語らなかった。
             <『図説宮沢賢治』(上田哲・関山房兵等共著、河出書房新社)93p~>
とある。

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 賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』

             〈平成30年6月28日付『岩手日報』一面〉
を先頃出版いたしましたのでご案内申し上げます。
 その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました
 そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

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