みちのくの山野草

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上 笙一郎によれば

2021-01-17 20:00:00 | 甚次郎と賢治
〈『農本主義と天皇制』(綱澤 満昭著、イザラ書房)〉

 一方で、上笙一郎によれば、
 この建白書の内容を少し紹介してみると、まず冒頭で、「満州国をして真に日本民族を指導者とする王道国家たらしむ」るには、「わが農民を移し、以て堅実なる農村を建設し、国礎の中核たらしむる」ことが不可欠であり、そのため「最も適切有効なる実行方法は満蒙開拓青少年義勇軍の編成」のほかにないといっている。
             〈『満蒙開拓青少年義勇軍』(上笙一郎著、中公新書)37p〉
のだそうだ。しかし、これだけではなぜ「青少年」なのかということがわからぬが、それはある裏事情があったからだと、上笙一郎はこう主張していた。
 この戦争(日中戦争のこと)は、いわゆる満州事変とはくらべものにならぬ本格的な戦争であった。日本は膨大な員数の兵士および武器・弾薬を投入しなければならず、その年(昭和12年のこと)の十二月の南京占領までに、陸軍は十六個師団を、海軍は第二・第三艦隊と航空隊主力を送りこんだ。――が、その消耗度は非常にはげしく、戦死者は一万八千、戦傷者は五万二千という数に達したのである。
 …投稿者略…陸軍は、予備役・後備役の兵士を大量に召集して、戦線へ送り出したのであった。
 予備役・後備役は現役除隊した男子だから、二十代後半から三十代が多く、そしてこの世代には、満州への農業移民として年齢的に最適な世代でもあった。その世代の主として農村男性をつぎからつぎへと兵役に召集されてしまったのでは、拓務省が移民の必要性をいくら声を大にして叫んだろころで、目的の達成はおぼつかないといわざるを得ない。
 そこで拓務省は、代案とすべきものをあれこれ考えたが、たまたまそこへ提出されたのが、「満蒙開拓青少年義勇軍編成に関する建白書」であり、奇貨としてこれに飛びついたのであった。
             〈同40p~〉
 つまり、「拓務省の代案」として、まさにあの「くるしまぎれの発想が奇貨とされたわけだ。このような裏事情もあった、時を置かずあっという間に次のようなことが決まったと、上笙一郎は教えてくれる。
 第一に、拓務省のおこなう満州への青少年移民は、満州移住協会に委託し補助金を与えて実施すること。第二に、内地訓練所と現地訓練所を設営し、適切な精神的・技能的訓練をほどこしたのち開拓地へ入植させること。そして第三に、内地訓練所を茨城県内原の日本国民高等学校の隣接地に設置し、その所長を加藤完治とすること。
             〈同42p~〉

 つまり、こうしてあの「内原訓練所」が設置されたのであった、ということになるのだろう。

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