みちのくの山野草

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父政次郎の叱責が全てを語っている

2024-02-09 12:00:00 | 濡れ衣を着せられた高瀬露







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******************************** なお、以下は今回投稿分のテキスト形式版である。**************************
 父政次郎の叱責が全てを語っている
 さて、巷間流布している「ライスカレー事件」以外に高橋慶吾たちは露に関して何を証言しているのかを前掲資料からそれぞれ拾い上げてみると次のようになる。
◇その他の噂 
 まず「賢治先生」によれば、
 先生はこの人の事で非常に苦しまれ、或る時は顏に灰を塗つて面會した事もあり、十日位も「本日不在」の貼り紙をして、その人から遠ざかることを考へられたやうでした。
     <『イーハトーヴォ 創刊號』(宮澤賢治の會)より>
 次に「宮澤賢治先生を語る會」によれば、
K …それから前にも言つたがあの女の人のことで騷いだことがある。私の記憶だと、先生が寢ておられるうちに女が來る、何でも借りた本を朝早く返しに來るんだ。先生はあの人を來ないやうにするために隨分苦勞をされた。門口に不在と書いた札をたてたり、顏に灰を塗つて出た事もある。そして御自分を癩病だと云つてゐた。然しあの女の人はどうしても先生と一緒になりたいと云つてゐた。…(筆者略)…
C 何時だつたか先生のところへ行つた時、女が一人ゐたので、「先生はをられるか、」と聞いたら、「ゐない」と云つたので歸らうかと思つて出て來たら、襖をあけて先生は出て來られた時は驚いた。女が來たのでかくれてゐたのだらう。
<『宮澤賢治素描』(關登久也著、共榮出版)255p~より>
ということになろう。
 それから、これらの中には記述されていないもう一つの証言が『宮澤賢治素描』の中の「返禮」にあり、
 賢治氏を慕ふ女の人がありました。もちろん賢治氏はその人をどうしやうとも考えませんでした。その女の人が賢治氏を慕ふのあまり、毎日何かを持つて訪ねました。當時羅須地人協會にたつた一人の生活をして居られたのですから、女の人も訪ねるには都合がよかつたでせう。他の人にものを與へることは好きでも、他から貰ふ事は極力嫌つた賢治氏ですから、その女の人から食物とか花とか色んなものを貰ふたびに賢治氏はどんなに恐縮したことでせう。そしてそのたびに何かを返禮してゐた樣です。
 そこで手元にあるものは何品かまず返禮したのですが、その中には本などは勿論、布團の樣なものもあつたさうです。女の人が布團を貰つたから益々賢治思慕の念をつよめたといふ話もあります。後で賢治氏は其の事のために少々中傷されました。
<『宮澤賢治素描』(關登久也著、協榮出版社)193p~より>
ということだから、結局次のような噂、
 ・賢治が顔に灰(一説に墨)を塗った
 ・「本日不在」の表示を掲げた
 ・癩病と詐病した
 ・襖の奥(一説に押し入れ)に隠れたいた
 ・賢治が露に布団を贈った
などがまことしやかに流されてきたと言える。さて、果たしてこれらがどこまで事実であったのかは今となってはなかなかわからないだろうが、仮にこれらの行為が皆事実だったとしても、いずれも賢治の奇矯な行為であると指弾されこそすれ、露一人だけが一方的に<悪女>にされる理由や根拠には全くならないことは自明である。
◇父政次郎の賢治に対する叱責
 それではこのような一連の賢治の奇矯な行為をどう評価すべきなのだろうか。このことについては父政次郎が明快に答えている。
 例えば、高橋慶吾によれば、
 先生はこの人の事で非常に苦しまれ、或る時は顏に灰を塗つて面會した事もあり、十日位も「本日不在」の貼り紙をして、その人から遠ざかることを考へられたやうでした。     …(筆者略)…
 お父さんはこう言ふ風に苦しんでゐられる先生に對して「その苦しみはお前の不注意から求めたことだ。初めて會つた時にその人にさあおかけなさいと言つただらう。そこにすでに間違いのもとがあつたのだ。女の人に對する時、齒を出して笑つたり、胸を擴げてゐたりすべきものではない。」と厳しく反省を求められ、先生も又ほんとうに自分が惡かつたのだと自らもそう思ひになられたやうでした。
<『イーハトーヴォ創刊號』(宮澤賢治の會)より>
ということであり、関登久也によれば、
 協会を訪れる人の中には、何人かの女性もあり、そのうちの一人が賢治を慕つておつたようです。…(筆者略)…
しまいにはさすがの賢治もおこつてしまい、その女性に、少し辛くあたつたようです、
 父の政次郎さんは、そんな噂をきいて、
「それは、おまえの不注意からおきたことだ。はじめて逢つた時に甘い言葉をかけたのが、そもそもの間違いだ。女人に相対する時は、ゲラゲラ笑つたり、胸をひろげたりして会うべきものではない。」
と、きびしく反省をうながしたとのことです。
<『宮澤賢治物語』(関登久也著、岩手日報社)89pより>
 さらには小倉豊文によれば、
 彼女の協会への出入に賢治が非常に困惑していたことは、当時の協会員の青年達も知っており、その人達から私は聞いた。それを知った父政次郎翁が「女に白い歯をみせるからだ」と賢治を叱責したということは、翁自身から私は聞いている。労農党支部へのシンパ的行動と共に――。
<『解説 復元版 宮澤賢治手帳』(小倉豊文著、筑摩書房)48pより>
ということである。
 したがって以上の三者の証言からは、この件に関して賢治は父から厳しい叱責を受けたということが導かれるだろうし、その叱責内容も似ていることから、
 冷静沈着、客観的にこの件を見ていた父政次郎から、この件に関しては賢治に全ての責任があるという明快で厳しい叱責を賢治が受けた。
ということは事実であったと判断せざるを得ない。なお、父政次郎は何ら露のことを責めも誹りもしていなかったということもおのずから言えるだろう。
 どうやら、父からの賢治に対するこのような厳しい叱責があったということが一連の出来事の真相を全て語っていると言えそうだ。つまるところ、巷間言われている「ライスカレー事件」を含めたこれらの噂が仮に事実であったとしても、賢治がその責めを問われることはあっても露が<悪女>にされる理由や根拠はほぼないということになりそうだ。
 よって、羅須地人協会時代の露が<悪女>とされる理由も根拠も今までのところはないということになる。これら以外にはその時代において何ら問題が指摘されていないからである。
 さてそうすると、残された今後の課題は、羅須地人協会時代を除いた「花巻時代」の露が<悪女>にされる理由や根拠があったかどうかだ。もちろん羅須地人協会時代以前や、実家に戻った昭和3年8月以降の昭和3年において、露の<悪女伝説>に関して露に問題があったなどということは何ら指摘されていないから、昭和4年~昭和7年の間について調べれぼ十分だろう。
******************************************************* 以上 *********************************************************
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 ある著名な賢治研究者が私(鈴木守)の研究に関して、私の性格がおかしい(偏屈という意味?)から、その研究結果を受け容れがたいと言っているという。まあ、人間的に至らない点が多々あるはずの私だからおかしいかも知れないが、研究内容やその結果と私の性格とは関係がないはずである。
 おかしいと仰るのであれば、そもそも、私の研究は基本的には「仮説検証型」研究ですから、たったこれだけで十分です。私の検証結果に対してこのような反例があると、たった一つの反例を突きつけていただけば、私は素直に引き下がります。間違っていましたと。
 一方で、私は自分の研究結果には多少自信がないわけでもない。それは、石井洋二郎氏が鳴らす、
 あらゆることを疑い、あらゆる情報の真偽を自分の目で確認してみること、必ず一次情報に立ち返って自分の頭と足で検証してみること
という警鐘、つまり研究の基本を常に心掛けているつもりだからである。そしてまたそれは自恃ともなっている。
 そして実際、従前の定説や通説に鑑みれば、荒唐無稽だと言われそうな私の研究結果について、入沢康夫氏や大内秀明氏そして森義真氏からの支持もあるので、なおさらにである。

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 そのようなことも訴えたいと願って著したのが『このままでいいのですか 『校本宮澤賢治全集』の杜撰』(鈴木 守著、録繙堂出版、1,000円(税込み))

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            〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守  ☎ 0198-24-9813
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