みちのくの山野草

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昭和7年頃はどうだったか

2020-11-21 12:00:00 | 甚次郎と賢治
《『土に叫ぶ』(松田甚次郎著、羽田書店)》

 さて、前々回の投稿で、
 最後に、何となくわかってきた大事なことが、「戦時統制を強力に行うために設立された農業会」の設立が昭和18年であれば、やはり、「時流に乗り、国策におもね、そのことで虚名を流した」と松田甚次郎が一方的に揶揄される根拠はやはり希薄だということである。それはとりわけ、昭和18年頃の甚次郞の体調はおもわしくなく、同年8月4日に甚次郎は急逝したからである。
と私は述べたが、「農業会」は昭和18年に産業組合と農業会が一元化されたものだから、「小作人」であった松田甚次郎が昭和18年以前に産業組合の観点から、「時流に乗り、国策におもね」た誹られることは理屈としてはあり得るかもしれない。

 そこで今回は、あの大ベストセラー『土に叫ぶ』の中にそれを窺わせるような記述があるか否かを調べてみた。すると、以下のような記述が見つかった。
 更生協議會 五・一五事件のあつた昭和七年七月に、山形縣では農村並びに中小商工業更生委員協議會が縣會議事堂で開催され縣下の重立つた人が集まつた。…投稿者略…その中に縣下農村青年代表として…投稿者略…参列することになつたのである。默つて午前中聽いて居たが、縣下の大立物たる人物の語る事は何れも農村が困るから補助を出せ、中小商工業者が困るから救助せよと縣や國に金を出させる事ばかりの協議であつた。
 私は堪へかねて、起つた。「皆さんはまるで縣や國の寄生虫のやうに救つてくれ、助けてくれと他力に依賴されてばかりをられるやうだが、縣も國も結局は私達自身のことになる。かうした疲弊の農村、中小商工業者を更生させるのには、いつまで救助、補助でやられては、一層に依賴心を起こす。こんな事は一時的な救済に過ぎないではないか。それよりはかうした疲弊の農村、中小商工業者を搾取して居る資本家に覚醒を与えること、並に指導的地位にある縣官を始め、總ての官公吏が、自ら實質な生活と緊張せる態度を示して、精神的に、經済的に自力更生の途を、官民一致して講ずべきではないか…投稿者略…」…投稿者略…と自力更生の途を高唱したのであつた。
            〈『土に叫ぶ』(松田甚次郎著、羽田書店)311p~〉
 そして容易に判断できるように、甚次郞のこの「高唱」は至極まっとうな発言であり、もちろん「国策におもね」たものではあり得ない。それどころか、「国策」の弱点を指摘し、その対策まで提言していたわけだから立場は逆だとも言える。そのことは、この続き、
 會の後で農務課長に會つたら「君の説には皆んな感銘したから、君の信ずる處を着々とやれ」と勵まされた。又二三日したら各新聞の山形版に「農村の自力更生を主張せる青年の熱に縣官感動、愈々実踐へ踏出す」といふ記事が掲げられた。
             〈同312p〉
という記述からも明らかだろう。もしかすると、甚次郞が「時流に乗」ったというよりは、県が乗った言われるかも知れない。

 とまれ、昭和7年頃に、松田甚次郎が「時流に乗り、国策におもね」たとは言い難いのではなかろうか。

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