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みちのくの山野草

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昭和8年頃はどうだったか

2020-11-22 12:00:00 | 甚次郎と賢治
《『土に叫ぶ』(松田甚次郎著、羽田書店)》

 では昭和8年頃はどうだったのだろうか。『土に叫ぶ』にはこんなことが述べられていた。
 昭和八年一月、日本靑年會館で開催された第一囘篤農靑年大會に出席し、更に二月八日には県下篤農靑年協議會があつた。縣會議事堂に四百名近くの篤農靑年や、農業關係者が集つて…投稿者略…私は自力更生について話すことになつた。…投稿者略…「昭和の時代に於ける我國農村問題の解決は、東北農村からである」と語り、更に「私共の今迄の協働事業は、實に苦鬪の業績であつた。加ふるに當局の嚴重な取締や注意をうけながら、赤貧と過勞と鬪ひつゝ、或は惡口され、壓迫され乍らも弱きを援け、可憐を救ひ、自己のために圖らず、と農村全體のために身を獻じて來たのである」と一時間近く語り、「須らく縣下の農村更生の意氣にもえる若き士と固い握手を交して進まんことを、このよき機會に、この壇上から誓約せん」と結んだのであつた。滿場湧き返るやうな拍手。そのとき私は、どうして皆んながかうまで拍手してくれるのか、としばし茫然としたのであつた。
              〈『土に叫ぶ』(松田甚次郎著、羽田書店)314p~〉
 さて、ここでまず驚くことは、甚次郞が公的な場で、「加ふるに當局の嚴重な取締や注意をうけながら、赤貧と過勞と鬪ひつゝ、或は惡口され、壓迫され乍らも」と堂々と話し(しかもこのことを明記したこの本『土に叫ぶ』を出版し)ていたことにだ。言い換えれば、甚次郞がこう話していたことだけからしても、昭和8年頃の甚次郞が「時流に乗り、国策におもね」たとは到底言い難いのではなかろうか、ということだ。

 なお、この『土に叫ぶ』は大ベストセラーになっわたけだが、その訳が少しだけだが私なりにわかった気がする。それは、「どうして皆んながかうまで拍手してくれ」たということが示唆してくれたからだ。しかも、甚次郞は続けて、
 その後といふものは、縣下各地の靑年から手紙が來るやら、訪問をうけるやら、靑年団の總會に話しに來てくれとか、靑年団産業部の設立するから來てくれとか、靑年聯の發會式であるから話しに來てくれとか、まるで人氣役者のようでもあつた。然し自分はむしろ苦しくて、どうしようかと思つたが、自分の村を自力更生させようとしてゐる純な靑年達の發動を援助するといふことは、大いなるものに對する帰一の相であると信じ、出來るだけ努力して希望に應ずることにしたのである。
            〈同315p〉
と述べているからなおさらにである。つまり、甚次郞の実践が当時の多くの青年を納得させ、支持を受けるものであったと判断できる。
 それは、実際に甚次郞が当地に行って、
 私はよく靑年に「何を申上げませうか」と尋ねると、「君の今日迄實行されたことだけでよろしい」と言ふのであつた。私も「それ以外の話しは出來ない」と言つて、本書に書いてある樣に正直に話すのであつた。サイロの話しでも、婦人愛護運動の話でも緬羊の話でも、山岳農業の話でも、靑年達は何時もうなづいて聞いてくれるのであつた。
             〈同316p〉
ということだから、もはや疑いない。

 当時の農村は窮迫していたので、参会していた篤農靑年等は、甚次郞の「自力更生について」の話を直接聞いて、あるいは、『土に叫ぶ』の読者はそこに書かれている甚次郞の実践を知ってそれぞれの内容がその窮迫を解消できる有力な方途となり得るということを覚ったので、熱烈に支持をしたのであったということではなかろうか。

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