みちのくの山野草

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「余の詩を読みて人死に赴けり」を書かんと思ふ

2024-01-08 12:00:00 | 独居自炊の光太郎
〈「雪白く積めり」の詩碑》(平成22年7月29日撮影)

 最近少しずつ高村光太郎の日記を読み始めているのだが、その中の昭和21年5月11日のそれには、
 夜は讀書せず。詩の事。「余の詩を読みて人死に赴けり」を書かんと思ふ。〈『高村光太郎全集〈第20巻〉 補遺(2)』(高村光太郎著、筑摩書房)139p〉
という記述があった。そしてこれはあの『暗愚小伝』に関わることだと教わった。
 そこで気になって、所有している高村光太郎の本を探してみたのだが、いずれにも『暗愚小伝』は載っていなかった。ならばと、インターネットで探してみたならば、
   暗愚小伝 - 日本ペンクラブ電子文藝館
   http://bungeikan.jp/domestic/detail/440/
というものが見つかったのだが、これと「余の詩を読みて人死に赴けり」がどのように繋がっているのかは私には読み取れなかった。

 がしかし、例えば次の詩については特に親しみを感じ、光太郎の人となりをある程度知る事が出来た。
   山 林
私はいま山林にゐる。
生来の離群性はなほりさうもないが、
生活は却て解放された。
村落社会に根をおろして
世界と村落とをやがて結びつける気だ。
強烈な土の魅力は私を捉へ、
撃壌の民のこころを今は知つた。
美は天然にみちみちて
人を養ひ人をすくふ。
こんなに心平らかな日のあることを
私はかつて思はなかつた。
おのれの暗愚をいやほど見たので、
自分の業績のどんな評価をも快く容れ、
自分に鞭する千の非難も素直にきく。
それが社会の約束ならば
よし極刑とても甘受しよう。
詩は自然に生れるし、
彫刻意慾はいよいよ燃えて
古来の大家と日毎に接する。
無理なあがきは為ようともせず、
しかし休まずじりじり進んで
歩み尽きたらその日が終りだ。
決して他の国でない日本の骨格が
山林には厳として在る。
世界に於けるわれらの国の存在理由も
この骨格に基くだらう。
囲炉裏にはイタヤの枝が燃えてゐる。
炭焼く人と酪農について今日も語つた。
五月雨はふりしきり、
田植のすんだ静かな部落に
カツコウが和音の点々をやつてゐる。
過去も遠く未来も遠い

 それは、東京から岩手に疎開し、太田村山口の小さな小屋で独居自炊していた光太郎が、
私はいま山林にゐる。
生来の離群性はなほりさうもないが、
生活は却て解放された。
村落社会に根をおろして
世界と村落とをやがて結びつける気だ。
強烈な土の魅力は私を捉へ、
撃壌の民のこころを今は知つた。
と詠んでいたからだ。
 そこで私は、自己流謫ということで光太郎はさぞかし自責の念が強くて、己を恥じ、苛んでいたと今までは思っていたのだが、それだけではなかったのであろうことを知った。逆に、この独居自炊によって光太郎は解放され、撃壌する山口の村人に溶け込み、慕われていたであろうことを容易に推断出来たからだ。

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