みちのくの山野草

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曖昧すぎる小倉の記述

2019-02-15 18:00:00 | 濡れ衣を着せられた高瀬露
《『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲・鈴木守共著、友藍書房)の表紙》

荒木 そこで疑問に思うのだが、一体、小倉は慶吾からの批難に対して真摯に対応する気があったんだべが。
吉田 そうあまりにも変なんだよな。どうしてこれ程までに小倉は露のことに関して拘るのか。それも執拗に悪し様に言いたがっているとしか僕には思えん。
鈴木 うん、そうなんだよ。慶吾はなんだかんだ言って、例えば前に引用した「宮澤賢治先生を語る會」の中でも「然し女も可哀想なところもある」<*1>と同情する発言もしているというのに、小倉の方はどの著書を見てもそのかけらの一片さえも私には見つけられない。
荒木 そっか、慶吾は「大略」は「行文が不備だ」と言って小倉を強く批難していることもまたあったから、慶吾は一方的に露を悪女にしたかったというわけでもなかったということか。
 ところで、この㈡の「高橋氏の話によれば」はどこまでの範囲を指しているのだろうか、ちょっとわかりにくいのだが。
吉田 一般には、「高橋氏の話によれば」がどこまでを指すのかは、「高橋氏の話によれば……という」という文章構成になるのが普通だろうから、
    高瀬さんの強引な単独訪問はその後もしげしげ続いたが、……関氏と同夫人に話に来たという。
を指すことになるだろう。
 ところが、先の「この点」がどこまでを指すのかの場合と似たり寄ったりで、今回は今回で、「このことは関氏と同夫人から私も聞いている」の「このこと」がどこからどこまでを指すのかが判然としていない。
鈴木 私もあれこれいろいろな場合を推考してみたのだが、元々が曖昧だから小倉豊文の書いた文章は解きほぐしようのない「盤根錯節」であり、途中で解くのを諦めてしまった。
荒木 結局、曖昧さを解決できない文章表現でしかなかった、というわけか。
鈴木 つまるところ、〝(ア)〟は推定、〝(イ)〟は曖昧<*2>なので検証の際の資料たり得ないということになる。
 もちろん㈡の中にある、
    賢治は「自分の悪口を言いに来る者があるだろう」と、関氏と同夫人に話に来たという。
が、<仮説:露は聖女だった>の反例とならないこともまた明らかだ。
荒木 そうだよな。これじゃ、一体誰がどんな内容の悪口を言いに来るかもわからないからな。
吉田 所詮、小倉のこれらの著書に載っている証言内容は、曖昧ながらも基本的には関登久也の「面影」で述べられている例のエピソード、
 亡くなられる一年位前、病氣がひとまづ良くなつて居られた頃、私の家を尋ねて來られました。それは賢治氏知人の女の人が、賢治氏を中傷的に言ふのでそのことについて賢治氏は私に一應の了解を求めに來たのでした。
の域を出ず、このことについては既に検証作業は終えたのだから、今さらまた繰り返す必要もなかろう。
 したがって、結論を言えば
 小倉豊文の著書に載っている「露関連」の「証言」はあまりにも曖昧すぎてその証言の内容が判然としないから、仮説の検証作業用資料に資することはできない。
ということだ。
荒木 しかも、小倉は高橋慶吾から批難されてそれを引っ込めたりまた出したりしているところもあり、その信憑性は一層薄いと言わざるを得ないからな。
吉田 また百歩譲って、小倉の記述どおりに
    「賢治を悪しざまに告げ口した」とナヲが小倉に証言した。
ということであったとしても、このような発言をしている人は露であるということは明示されていないし、それどころか、この「告げ口」とはまさしく以前〝どうやら二つは同一のエピソード〟において考察した際の、
    賢治と親しい〝「賢治○○」の著者〟Xが病床の賢治にその後の露に関する「噂話」を告げ口をした
ことを指している可能性も大だ。
鈴木 したがって現時点では、小倉のこれらの著書に載っている「露関連」の「証言」はいずれも皆曖昧すぎるものばかりであり、そのような「証言」を<仮説:露は聖女だった>の検証作業用の資料としては使えない。はっきり言って、検証以前だ。
吉田 どうやら、先に僕が切り出した〈「押しかけ女房」的な痴態にも及んだ「悪女」〉についても、おそらくこれらと似たり寄ったりで、まあ、それがどこにどう書いてあるかがわかったならば検討はせねばならないが、現時点ではこれらも検証用の資料たり得ない、と判断せざるを得なかろう。
荒木 ということは、現時点では、
    小倉豊文の著書に載っている「露関連」の「証言」によって<仮説:露は聖女だった>を棄却する必要はない。
ということだ。
 いやあ嬉しいな。というか、正直ほっとした。露のことを信じ続けてよかった。一時、これでこの<仮説>の反例がとうとう最後の土壇場で現れて、俺はすごすごと退散するしかないのかと半ば諦めかけ、冷や冷やしていた。
鈴木 うん、私も一時冷や汗をかいたよ。でもまさか吉田、まだ他にもあるなんてことはないよな。
吉田 悪い悪い、冷や冷やさせて。もちろんもう他にはない。「押しかけ女房」の件では大変お騒がせをいたしました。

<*1:註> ある座談会でK(高橋慶吾)は、 
K あの女は最初私のところに來て先生を紹介してくれといふので私が先生へ連れて行つたのだ、最初のうちは先生も確固した人だと賞めてゐたが、そのうちに女が私にかくれて一人先生を尋ねたり、しつこく先生にからまつてゆくので先生も弱つて了つたのだらう。然し女も可哀想なところもあるな。
               <『續 宮澤賢治素描』(関登久也、眞日本社)211p~>
と語っている。
<*2:註> 〝誤解を生みかねない小倉の記述〟における、次の〝(ア)〟と〝(イ)〟のことである。
 ㈠の『「雨ニモマケズ手帳」新考』の場合
    その結果T女史は賢治の悪口を言うようになったのであろう。……(ア)
と推定表現で述べていたのに、
 ㈡の『解説 復元版 宮澤賢治手帳』の場合
    賢治を悪しざまに告げ口した。……(イ)
と断定表現に変えているという違いにだ。

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 賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』

             〈平成30年6月28日付『岩手日報』一面〉
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 その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました
 そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

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