みちのくの山野草

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どうやら二つは同一のエピソード

2019-02-11 12:00:00 | 濡れ衣を着せられた高瀬露
《『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲・鈴木守共著、友藍書房)の表紙》

鈴木 そして実際このたしからしい鍵を使って、今度は次のようなエピソードを紹介しながら「手記成立の」理由がわかったと佐藤は言っている。
 私は、「賢治○○」の著者から、病床の彼にその後のT女の行為について話したら、翌日大層興奮してその著者である彼の友人の家にわざわざ出かけて来て、T女との事についていろいろと弁明して行つたと、直接聞いたのである。その時はそんなにむきになつて弁解した賢治を一寸おかしいと思つたぐらいであつたが、その後にその手記が発表になり、後日「賢治○○」の著者の性格を知り、その後で又このような忠吉さんの話を聞くに及んで、この手記成立の理由が私には明確に解けたのである。(「賢治○○」の著者は、彼の手許に置いていた私の原稿を、無断でそのままラジオ放送に利用したこと一つでその性格が知られよう。)
            <『四次元50』(宮沢賢治友の会)10p~より>
荒木 あれっ、これってさっきのエピソードそれは賢治氏知人の女の人が、賢治氏を中傷的云々とそっくりじゃないか。
吉田 言われてみれば、確かに。それじゃあ、ちょっと分析しながら比較してみるとするか。大体のところ、
  病床の彼=賢治
  T女=賢治氏知人の女の人
  T女の行為=賢治氏を中傷的に言ふ
  大層興奮し=違つた場合を見た樣な感じを受けました
  著者の友人の家=関登久也の家
  いろいろと弁明=一應の了解を求め
  むきになつて弁解=曾て賢治氏になかつた事
となるから、この二つはほぼ同じエピソードだと判断できるね。
荒木 はてさて、〝「賢治○○」の著者〟とは一体誰なんだべがね。だいたいは想像が付くけど。
吉田 そう、その想像どおりだよ。それでは次に、佐藤が伝えるこのエピソードを僕なりに翻訳してみると、
 賢治と親しい〝「賢治○○」の著者〟Xが病床の賢治にその後の露に関する「噂話」を告げ口をしたところ、賢治はそれを真に受けて、翌日大層興奮してXの友人でもある関登久也の家にわざわざ出かけて行き、露との事についていろいろと弁明して行った。
 その時はそんなにむきになって弁解したという賢治を一寸おかしいと勝治は思ったが、実はそうではなかったということが後にわかった。
 他人の原稿を無断でラジオ放送に利用するようないい加減なXのことだから、病床の賢治に「噂話」程度の露の行為を告げ口、それも告げ口の常套である誇張と悪意によるそれだったことと、忠一の証言から判るように、人の告げ口を信じやすい賢治のことだからそれを真に受けてしまった。それが因で、賢治は翌日大層興奮して関登久也の家にわざわざ出かけて行き、露との事についていろいろと弁明して行った。
 また、後にXは「賢治○○」において露に関わる手記を発表したが、その手記のいい加減さは、他人の原稿を無断で利用するようないい加減さによるものだと捉えれば説明がついたので、私とすればこの手記成立の理由が明確に解けたのであった。
となる。どうやら、佐藤勝治はこう言いたいかったようだな。
荒木 そうすると結局、
  「賢治氏知人の女の人が、賢治氏を中傷的に言」った中身≒「誇張と悪意に満ちた告げ口をXがした」中身
という近似式が成り立つ可能性が極めて高いわけだ。
吉田 一方で、果たしてその女の人が中傷したかどうかは確たる証拠があるわけではない。その中傷の中身を云々する以前の問題として、中傷行為そのものが事実あったのかどうなのかという問題があるということか。これが、先に鈴木が「それ以前の問題がそこにはありそうなんだ」と言った意味だったのだな。
鈴木 うん、そういうこと。実は、この頃肝に銘じていることの一つに、何を証言しているかだけではなくて誰が証言したものか、ということも極めて大切なのだということがある。その点から言えば、『佐藤勝治はとても信頼の置ける人だった』ということを私は勝治と親交の深かった人から直接教わっているので、この勝治の証言は信じることができると確信している。したがって、この「賢治二題」の趣旨に従えば、先程の吉田の翻訳はほぼ妥当だろう。
吉田 要するに、「賢治氏知人の女の人が、賢治氏を中傷的に」果たして言ったかどうかは定かではないし、はたまたこの「女の人」が露であるのかさえも怪しい。ついては、そのようなあやふやなものに基づいて検証することなどは無意味、検証以前の話ということになりそうだな、またもや。
荒木 したがって、
 関登久也の「面影」における『賢治氏知人の女の人』絡みのエピソードによって<仮説:高瀬露は聖女だった>を棄却などする必要はない。
ということになる。いやあ嬉しいな。
吉田 おっ、今度は『いやあ嬉しいな』が出たな。
鈴木 今回も露にとっては好ましい結果だったので抃舞している荒木を見て私はほっとしているのだが、つい稲コキ用のモーターの件を喋ってしまったので、賢治を尊敬する荒木にはちょっと気の毒なことをしてしまったと思っている。
荒木 いやそれとこれとは別だ。先に教えてもらった追想「面影」の中の一節で、
 それだけ賢治が普通人に近く見え、何時よりも一層親しさを覺えたものです。其の時の態度面ざしは、凛としたといふ私の賢治を説明する常套語とは反對の普通の親しみを多く感じました。
と関が心情を吐露していたわけだが、俺も賢治に一層親しみが増した。それこそ《創られた賢治から愛すべき賢治に》ということで、歓迎すべきことだよ。
吉田 とかく賢治の言動となると、ついついバイアスがかかってしまって、しばしば良心的に解釈をする傾向があるが、まずは常識的な見方を大切にしないとな。人間賢治のことを考える場合でも特別扱いなどせずに、普通の感覚で見ていかないと肝心なことを見誤ってしまって、賢治以外の人を傷つけてしまいかねない。
荒木 そういう点から言えば、この件に関しては賢治に非があったことは明らかであり、関登久也の言うとおりであったということだよ。いくら賢治が好きな俺だって、それぐらいのことは弁えている。また賢治にしたって、他人を傷つけてまでして自分を庇ってもらうというような卑怯な扱い方など、ちっとも望んでいないはずだ。
 それではこれで検証作業は全て完了か。

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 賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』

             〈平成30年6月28日付『岩手日報』一面〉
を先頃出版いたしましたのでご案内申し上げます。
 その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました
 そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

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