みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

『宮澤賢治』(森荘已池、昭和18年)

2022-01-05 16:00:00 | 一から出直す
《三輪の白い片栗(種山高原、令和3年4月27日撮影)》
 白い片栗はまるで、賢治、露、そして岩田純蔵先生の三人に見えた。
 そして、「曲学阿世の徒にだけはなるな」と檄を飛ばされた気がした。

 では今回は、『宮澤賢治』(森荘已池、昭和18年)についてである。
 この少年向け賢治伝記を読み直して改めて強く感じることは、やはりもろに戦時下を意識したものであるということである。それは、最後の節が「二十一 ただしくあかるい道とことば」というタイトルになっていて、まさに、「雨ニモマケズ」の全文をまず載せながら、

 雨ニモマケズ
 風ニモマケズ
  …投稿者略…
 ワタシハ
 ナリタイ

 宮澤先生が死んでからもう今年(昭和十七年)で十年になります。…投稿者略…「雨ニモマケズ」と「風の又三郎」は支那語に譯されました。宮澤先生の劇や童話が、映畫になり、劇場で公開されました。
 その間に、日本のやうすも、世界のありさまも、ずゐぶんかはりました。
 宮澤先生の精神は、ますますみんなに知られ、正しく明るい道を行かうとするひとびとに、このうへない力をあたへてゐます。…投稿者略…
 宮澤先生は、別の文章では、

 「世界に対する大なる希願をまづ起せ」

といはれました。そのためには、

 「つよく、ただしく生活をせよ、苦難を避けず直進せよ。」

です。何百年としひたげられて来た、大東亜共栄圏の中の、よはい、たくさんの民族を、病気の子どもや、つかれた母と見ることは、少しもさしつかへないのであります。まことは、

 「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない。」

のであります。米英が、アジアから去らないうちは、アジアの幸福はあり得ないともいはれませう。これは、こじつけといふものではありません。えらい人のことばは、いろいろに考へ考へ讀むべきものであります。
             〈『宮澤賢治』(森荘已池著、小学館、昭和18年1月)253p~〉
というように述べているからである。

 まさか、少年向け賢治伝記において、
    何百年としひたげられて来た、大東亜共栄圏の中の、よはい、たくさんの民族を
とか、
    米英が、アジアから去らないうちは、アジアの幸福はあり得ないともいはれませう
という文言が登場するとは夢にも思っていなかったし、戦時色がぷんぷんである。しかも、このようなことを純朴な子どもたちに、賢治を「えらい人」と断定した上で読ませるのだから、私には違和感がありすぎる。逆に言えば、賢治を神格化して戦意高揚に利用しようという当時の大人の下心がここには見え見えである。そしてこのことは、先の小倉豊文の、「「雨ニモマケズ」が利用されたことが頗る多く、詩集・童話集・伝記的著作の出版も枚挙に暇がなき程だったのである」という断定を裏付けるものであるから、「雨ニモマケズ」の詩が、戦意高揚のために利用されたということは厳然たる歴史的事実であったということを否定することはもう出来ない。しかも、当時いたいけな少年たちを煽って「満蒙青少年義勇軍」に送り込んだ大人たちのずるさと通底しているものがここにもあったと思えてならない。
 さらに、「雨ニモマケズ」が戦意昂揚に利用されただけではなく、農民芸術概論綱要のあの「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」を、「米英が、アジアから去らないうちは、アジアの幸福はあり得ないともいはれませう」と読み替えていることを知り、あまりにも牽強付会だと私は愕然とする。そして、賢治の「雨ニモマケズ」のみならず、「農民芸術概論綱要」も戦意昂揚に利用されていたということ私は初めて覚り、いままでこのことを重視してこなかったおのれが迂闊だったことを恥じた。

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【キャッチコピー】 


【目次】

【序章 門外漢で非専門家ですが】


【終章】



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