みちのくの山野草

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山形 田宮真龍

2020-08-25 12:00:00 | 甚次郎と賢治
〈『追悼 義農松田甚次郎先生』(吉田六太郎編)、吉田矩彦氏所蔵〉

 では今回は田宮真龍が寄せた次の追悼からである。
    松田さんと禅
    山形 田宮 真龍
松田さんの第一印象は静かな方であるといふことでした。然し話をしてゐる裡に熱烈なる意志を感じさせられました。静かな中に初一念を貫徹せずに止まざる不動の信念、勃々たる氣概、沈着の中の勇猛心、この静中動の精神は長い禅の修練の賜でした。
村塾が祝融に見舞はれたあの日、遠足の途中から駈けつけて黒烟消えやらぬ焼跡に立つた時、私に向つて発した第一語は、あゝ若し私が『坐つて』ゐなかつたら気も顛倒したらうと。塾舎は一年後、前にも増して立派に出来た。言あげせず黙々として事を成就せしむる実行力、これが松田さんの一生を貫いた真の面目である。
             〈『追悼 義農松田甚次郎先生』(吉田六太郎編)39p〉
 もちろんこの田宮とは、松田甚次郎と共に「鳥越倶楽部」や日曜学校を開いたりした如法寺の住職の田宮のことである。

 この追悼から新たに知ったことは、「長い禅の修練の賜」ということから、甚次郎は多忙な中でも禅の修練を続けて居たということを知ることができた。そしてその『坐つて』いたお蔭で、村塾が焼け落ちてしまった際に、「気も顛倒」しなくて済んだということか。それからもう一つ、田宮の、「言あげせず黙々として事を成就せしむる実行力、これが松田さんの一生を貫いた真の面目」という甚次郎評はなるほどと思わせられた。

 ところでこの田宮は、『追悼文集「和光」』においてこう述べていると安藤玉治は紹介している。
 鳥越倶楽部発足以来の同行者であった如法寺の住職田宮真龍の眼からである。

その十年余の生活中、なされた仕事は枚挙にいとまがないが、今日、最も感心することは先生の一生を通じて土つくりの農業をすすめたことである。ことわざに、下農は雑草をつくり、中農は穀物をつくり、上農は土をつくるということがある。土を育てた田圃だけが堆肥の熱と栄養で冷害を免れた例はいくらでもある。日本は瑞穂の国である。二千年もその余も一つ田圃に連作して稲を作ってきた。それが可能だったということは、地力を養ってきたからにほかならない。作物が奪い取った能力を堆肥で補ってきたからである。全国農協連がこのことにようやく気づき、地力を持った土つくりを推奨しはじめたのがやっと五十一年である。松田先生は四十年すぎてはじめて、我が意を得たりと喜んでいられることであろう。(『追悼文集「和光」』)
            〈『「賢治精神」の実践』(安藤玉治著、農文協)229p~〉
 こちらの追悼では、松田甚次郎の農業の基本理念を紹介しており、とりわけ「最も感心することは先生の一生を通じて土つくりの農業をすすめたことである」という田宮の見方に私は素直に頷ける。そうか、松田甚次郎はそのことに全国農協連などよりも早く気づいていたのか、と。そこで私は、以前、
    当時の松田甚次郎の有機農業は今でいう、いわゆる「持続可能な農業」であった
と主張したことがあるのだが、私はこの度この「田宮真龍の眼から」を知って、このことの確信をますます深めることができた。
 あるいは、甚次郎は『續 土に叫ぶ』の中で、
最近までは石灰の過用によつてかへつて種々の弊害を來してゐるやうな有樣であつた。過ぎたるは及ばざるが如しで、肥料にしても適量が大切であることはいふまでもない。
             〈『續 土に叫ぶ』(松田甚次郎著、羽田書店、昭和十七年十二月)44p〉
というように、師である賢治が推奨した石灰施用の問題点をズバリと指摘をしているが、こう言い切っていたのも「一生を通じて土つくりの農業をすすめ」ていたからに違いない、と私は頷くのだった。

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