みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

〔甲助 今朝まだくらぁに〕 (気になること)

2017-03-01 10:00:00 | 賢治作品について
 あることがあって、この度急に気になりだした詩がある。それは〔甲助 今朝まだくらぁに〕であり、『春と修羅第三集』に所収されていて次のようなものであった。
   一〇一二
     〔甲助 今朝まだくらぁに〕
                  一九二七、三、二一、
   甲助
   今朝まだくらぁに、
   たった一人で綱取さ稼ぐさ行ったでぁ
     ……赤楊にはみんな氷華がついて
        野原はうらうら白い偏光……
   唐獅子いろの乗馬ずぼんはぃでさ
   新らし紺の風呂敷しょってさ
   親方みだぃ手ぶらぶらど振って行ったでぁ
     ……雪に点々けぶるのは
        三つ沢山の松のむら……
   清水野がら大曲野がら後藤野ど
   一人で威張って歩って
   大股に行くうぢはいがべぁ
   向ふさ着げば撰鉱だがな運搬だがな
   夜でば小屋の隅こさちょこっと寝せらへで
   たゞの雑役人夫だがらな
     ……江釣子森が
        ぼうぼうと湯気をあげて
        氷醋酸の塊りのやう……
   あらがだ後藤野さかがったころだ
           <『校本宮澤賢治全集第四巻』(筑摩書房)47p>
 なぜだろう、やはり変だ。そこでこの詩の下書稿を上掲書によって逆に遡ってみたい。
 まずは、下書稿㈥は次の通り。
【下書稿㈥】
      一〇一二、(ママ)
                  一九二八(ママ)、三、三(ママ)、
   甲助なら
   今朝くらいうち綱取へ行った
     ……赤楊にはみんな氷華がついて
        すくすく白い偏光に立つ……
   紺の風呂敷をしょって
   唐獅子いろの乗馬ずぼんをはいて
   親方みたいに手を振って行った
     ……雪に点々けぶるのは
        三つ沢山の松のむら……
   清水野から後藤野を
   一人で大股に行くうちはいゝが
   向ふへ着けば撰鉱だか運搬だか
   たゞの雑役人夫だからな
     ……江釣子森が
        ぼうぼうと湯気をあげて
        氷醋酸の塊りのやう
   もう後藤野へかかったころだ
           <『校本宮澤賢治全集第四巻』(筑摩書房)407p>

 そこでこれらを左右に並べて較べてみると、

となっていて、あれれっ下書稿㈥では日付が
    一九二八、三、三、
となっているではないか。なぜなんだろう?
 また背景色が水色の部分は両者にほぼ共通な部分だから、あまり大きな違いがない中、とりわけ
    威張って歩って

    夜でば小屋の隅こさちょこっと寝せらへで
とが、下書稿㈥を推敲して本稿とする際にわざわざ付け加えられたことになる訳だから、そこに賢治の本心が垣間見られて残念な思いがした。それはもちろん、これらを付け足したことによって詩情が減じたばかりでなく、賢治の甲助に対する冷笑の度合いがさらに増したと私には思えたからだ。

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