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みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

厳しい、あるいは冷ややかな評価

2020-11-25 12:00:00 | 甚次郎と賢治
《『土に叫ぶ』(松田甚次郎著、羽田書店)》

 では今回は、『土に叫ぶ』の最後の章「一四 農村最近の動向と時局」の「更生運動」という項からである。そこには、こんなことがらなど、
 更生運動 次に昭和八年來の經濟更生運動について記さう。これも聲ばかり大きくて、仲々實らぬ。お役人の出張費がかさむばかりだ。農民は相變わらず材料にされたり、或ひは對象にされ、踊らされたに過ぎない。成程各に鄕倉も建つたし、共同作業場も出來たし、産業組合事務所も農業倉庫も出來上がり、それぞれ管理人も居る。かうした畫一的なものは出來ても仲々利用されない。たとへ利用されても、大事な農家が次々と倒壞して行つてゐるではないか。百姓の生活は日々窮地に追ひつめられて行くではないか。暗い家は依然として暗く、米をとつても、芋粥をすゝめるのであつて、どうにもならない。ほんたうに精根盡きんばかりにあらゆる奮鬪をして進んで力を盡くしても農家は何故に衰へて行くのであるか。…投稿者略…
 ほんたうに「稔りよ」「稔りよ」と待ちに待つて働いたその稔りは、またゝく間に我等から遠く離れて、食ふ米さへなくなるのである。…投稿者略…
 經濟更生で奬勵される簿記も、皆が記帳するのはいゝが、毎年赤字の百圓以上も出る家計を、どうして記帳が出來るものか。若し出來たとしてもこれ程大きな欠陥は、記帳明記位では救はれもしないし、救はうとして「記帳」「記帳」と追われるの餘程考へものである
             〈『土に叫ぶ』(松田甚次郎著、羽田書店)375p~〉
が述べられていた。
 そこで意外に思ったことは、甚次郞が「経済更生運動」や「産業組合」に対して結構厳しい、あるいは冷ややかな評価をしていたことだ。そもそも、「農山村漁村経済更生計画」は昭和7年の救農国会に始まり、同12年まで続けられたが、それは当時の窮迫していた農村を救済しようとしたものであり、そして産業組合」はその計画運動の中心的機関であったはずだ。そこで私は、国が行うこれらについて甚次郞は高く評価しているものとばかり私は思っていたのだが、実はその逆だったと言えそうだからである。

 これで、もはやここに至ってしまうと、この当時の甚次郞は「国策におもね」ていたわけではないということを私は確信させられた。おのずから、甚次郞が「時流に乗り」と言える訳もない。まして、「そのことで虚名を流した」と誹られる謂われはなかろう。 

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