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みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

百数十回もの農村更生への啓蒙行脚

2020-11-24 12:00:00 | 甚次郎と賢治
《『土に叫ぶ』(松田甚次郎著、羽田書店)》

 さて、甚次郞は続けて、
 こゝに静かに行脚の思ひ出を綴ることにする。毎年冬と夏とで二十ヶ所位は行脚したのである。
             〈『土に叫ぶ』(松田甚次郎著、羽田書店)317p〉
と述べていた。
 そして以下、
   堀ノ内村
   田麥俣
   小田島村
   宮澤村
   戸澤村
   黑川村
への各行脚等についてそれぞれ具体的に述べていた。
 ちなみに、堀ノ内村については、
 深い最上川が村に沿つて重い色をして流れ、山深く家低く、見るからに淋しいのである。この川を舟で渡つて或る時は夜に行き、或る時は午後十二時に歸つて來たこともあった。そして断崖を横切る険阻な山道を、靜にこの村の行末を思つて、疲勞を忘れたものである。しかしながら、私には何となく樂しいのであつた。醬油釀造をやるといふと、この村の靑年が三人も、三日間泊まり掛けで私の處に習ひに來る。どんな仕事、どんな問題があつてもこの四里の道を川を渡り、山道を越えて訪ねて來る熱心さには、何よりの感謝であつた。しかも林君といふ中心人物は、こつこつとたゆみなく、緬羊を飼ひ、サイロを作り、共働自給畑を設け、無尽蔵の熊笹を焼いて木灰を作り、加里肥料を自給し、更に共同作業場に水力タービンを設置して、製粉、精米、澱粉製造等に動力を利用し、更に鳥越に次いで共同炊事を設備実行して居るのである。山路を越え、夜といはず、晝といはず、雪路といはず訪れた。そして語つた。私は林君を中心とする堀ノ内村に明るい聖い更生を祈つて已まない。
             〈同317p~〉
ということを述べていた。そして、他の村等についてもほぼ同様なものであった。
 つまり、窮迫していた農村を更生させようとして甚次郞はあちこちの農村へ啓蒙行脚(「六年間(昭和7年~12年)で百数十回の講演行脚」)をし、それに対して、獅子奮迅とも言える甚次郞の献身にそれぞれの訪問先の村は真剣に応えていた、と言えるのではなかろうか(なお、「靜にこの村の行末を思つて、疲勞を忘れたものである。しかしながら、私には何となく樂しいのであつた」というくだりを読みながら、甚次郞の謙虚で優しい人柄に私は改めて感じ入った)。
 当然このような講演行脚は、少なくとも「時流に乗り、国策におもね」たとは言えないだろう。そしてそのことは、「時流に乗り、国策におもね」るどころか逆に、甚次郞が当時特高や警察にマーク・尾行されていたことなどがこの「農村啓蒙行脚」という項の中の何ヶ所かに書かれていることからも明らかだろう。

 畢竟、五・一五事件勃発からの少なくとも六年間(昭和7年~12年)は、甚次郞が「時流に乗り、国策におもね」 と、まして「そのことで虚名を流した」とまで誹られる理由はやはりほぼないと言えるようだ。

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