みちのくの山野草

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松田甚次郎の「滿州移民」論

2021-01-24 20:00:00 | 甚次郎と賢治
〈『現代文学の底流』(南雲道雄著、オリジン出版)〉

 そこで、甚次郎の正・續『土に叫ぶ』を見直してみると、その「趣旨書」の中の「更に次三男の靑年をば滿鮮の曠野に耕作出來る拓殖訓練をも授け」るための方法論を述べている可能性がある項は『続 土に叫ぶ』の中には見つからず、『土に叫ぶ』の中に、
    「一〇 日本協働奉仕團の結成」で「祖国愛」 (287p~)

    「一四 農村最近の動向と時局」で「満州移民」 (371p~)
という項が見つかった。
 とはいえ、前者「一〇」は「皇國のための勤勞奉仕」を論じているものではあっても、「滿鮮の曠野に耕作出來る拓殖訓練」を直接的に授けるというものではなかったから、措いておく。ただし、一方の「一四」については検討を要する。というのは、後者の中には、「滿州移民」というタイトルで、
 …投稿者略…農業失業とは耕地狹小と、雪國に於ける農業の繁閑の差の著しく大なることから始まるものである。これも副業や出稼ぎで一部は救濟されるが、それは恆久策ではあり得ないのだ。從つて、こゝに考へられる一番の方法としては、日本農民の大陸的移動のたゞ一途あるのみである。
 昭和六年の滿州事變を契機として、躍進日本の姿が東洋に鮮明に輝き出た。かくして滿州國獨立により、我が日本國民の大陸への道が眞に開け、先づ昭和七年に第一次武裝移民が送られ、今や試驗期も過ぎて、二十ヶ年百萬戸の大移動案が計畫され實施されつゝある。さらに少年義勇軍の結成あり、本年中(投稿者註:昭和13年のこと)に一萬餘の移民が既に着手されて居る。實に彌榮えゆく日本の大使命は昭和の吾人の雙肩にある。
             〈『土に叫ぶ』(松田甚次郎著、羽田書店)380p~〉
などということを論じていたからだ。
 しかし、これは後に甚次郞自身が「所見を披瀝した」と述べている(同書393p)ように、あくまでも甚次郞の私見の段階であり、これに基づいて最上共働村塾の経営をしたということを述べていたわけではない。つまり、同塾に於いて、「更に次三男の靑年を滿鮮の曠野に耕作出來る拓殖訓練を授け」たと言っていたわけではない。当然、「世間ずれしていない純粋無垢な少年」を実際に数多満蒙に送り込んだ加藤完治とは決定的に違う、ということだ。

 ただし、甚次郎と「寝食労働を共にして修業」した最上共働村塾の修了生が、「滿鮮の曠野」へ行っていなかったということはないはずだ。というのは、先に取り上げた『追悼 義農松田甚次郎先生』に追悼の中には、「満州 渡部由夫」「京城 栴 文楨」「朝鮮 伊藤重次郎」のように「満州」や「朝鮮」等からの寄稿もあるからである。
 がしかし、「滿鮮の曠野」へ行ったその人数は、内原訓練所修了生や六原青年道場出身者の数に比べれば微々たるものであろうことはほぼ明らか。したがって、戦後松田甚次郎が無視された理由の一つは、彼が満蒙開拓の推進者という漠然とした評価があったやに私は聞き及んでいるが、もしそれが理由であったとしたならばそれはあまりにも不公平なことだ。なんとなれば、満蒙開拓の推進者として責められるべき人物は東宮鉄男、石原莞爾、そして加藤完治等他にもっと沢山いるだろうからだ。
 あるいはまた、次回触れるが、ベストセラー『土と戦ふ』の著者菅野正男は、「宮澤賢治の考えて居た事を私達は満州の大平野の中に実現しようとして居るのです」と証言しているから、甚次郎の影響だけではなく、満蒙の地には宮澤賢治の影響も及んでいたということになり、甚次郞が満蒙開拓の推進者というのであれば、賢治もそう見られかねない。

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