みちのくの山野草

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『宮澤賢治研究5・6』(宮澤賢治友の会)

2021-12-11 14:00:00 | 一から出直す
《三輪の白い片栗(種山高原、令和3年4月27日撮影)》
 白い片栗はまるで、賢治、露、そして岩田純蔵先生の三人に見えた。
 そして、「曲学阿世の徒にだけはなるな」と檄を飛ばされた気がした。

 では今回は 、
【『宮澤賢治研究5・6』(宮澤賢治友の会)】

からである。
 この『宮澤賢治研究5・6』を読み直して、やはり気になったのが、八木英三の「宮澤賢治に聞いたこと」という寄稿だ。そこには次のようなことなどが述べてあったからだ。
 私の書いたものが、先生にわからないとは不思議ですね。私の童話や童謡の思想の根幹は尋常科の三年と四年頃に出来たものです。その時分先生が「太一」のお話や、「海に鹽のあるわけ」など色々のお話をして下さつたぢやありませんか。その時私は蕩然として夢の世界に遊んでゐました。今書くものはみんなその夢の世界を再現してゐるだけです。
            〈『宮澤賢治研究5・6』7p〉
 つまりこの記述からは、賢治が多くの作品を創作できたのもかなり八木のお陰であったと言えるから、八木は賢治のまさに恩師だったということだ。そして、賢治は幼い頃から才気煥発であったということがここから窺えるが、同時に、こまっしゃくれていた点もかなりあったとも言えそうだ。
 また、
 尤もその後靑年期になつてから取り入れた法華經の哲理等については今日の世界では或は私の外にわかる人間がゐないかも知れない。しかしそれがわからなくとも差支へありませんよ
             〈同〉
ということだから、この八木の寄稿に依れば、後記の賢治作品はやはり法華経の教えを伝えようとしたものである、と言えそうだ。
 また、
 人間の力には限度があり、仕事をするには時間が要りますね。私はどうせ間もなく死ぬのだから、早く書きたいものを書いて了はうと思ひ、一ヶ月の間に三千枚書きました。そしたら終わり頃になると原稿の中から字が一字一字飛び出して來て私にお辭儀をするのです。
            〈同〉
ということも述べられているから、人口に膾炙している「一ヶ月の間に三千枚書きました」を、賢治は恩師にも語っていたということになる。しかし、巷間指摘されているように、果たしてそんなに大量に書けるのものなのかと、私も首をかしげてしまう。
 また、藤原嘉藤治の「或る朝の宮澤賢治」というエピソードも載っていて、賢治が、
 夜は夜でオルガンを鳴らしたり、セロを弾いたりすると疲れてしまつていゝ詩が生まれないよ。
             〈同8p〉
と言っていたという。これを知って、あのライスカレー事件の際の、賢治が「みんなひるまは働いているのですから、オルガンは遠慮して下さい。やめて下さい。」と露に対して注意したかどうか怪しくなってくる。もしそれが事実なら、賢治は身勝手だとなるからだ。

 こうして八木の寄稿を読んでいると、一般的な賢治のイメージとして「優しくて真面目」があると思うが、そうとばかりも言えないようだ。

 なお、藤原嘉藤治の「註解に就いて」という力作も載っていて、『春と修羅』に登場する難解な用語等の註解をしていたことも注目に値する。藤原嘉藤治は賢治のために奮闘していたんだ、と改めて思った。

 これで、この合併号『宮澤賢治研究5・6』でもってこのシリーズは終わったわけだが、このシリーズが『宮澤賢治全集』(文圃堂)第一巻~第三巻の宣伝誌であたことを私も理解できた。しかも、この最終号の後記の最後を、発行者の菊池武雄が、
 では皆様御健康で、宮澤賢治を中に固く手を握って輪を描こうではありませんか。
と締めくくったいたことに気付き、私は閃いた。そうか、この『宮澤賢治全集』(文圃堂)を宣伝する際の主要な戦略として、賢治の人化があったのか、とである。そしてその典型的なものが古谷綱武の寄稿「全人宮澤賢治」っであったとなりそうだ。このシリーズは、『宮澤賢治研究1』(昭和10年4月)~『宮澤賢治研究5・6』(昭和11年12月)だから、賢治の人化はかなり早い時点から始まっていたのだということを受け容れざるを得ないようだ。

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【序章 門外漢で非専門家ですが】


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