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逢坂の国道を京に向かうと、途中の山裾にへばりつくように臨済宗系
の「月心寺」が有る。「走り井餅」の発祥で知られる寺だ。
広重の東海道五十三次「大津 走井茶店」には、溢れ出る走井(はし
りい)の水のそばの茶店で旅人が休息している姿が描かれているが、こ
の茶店が現在の月心寺といわれている。
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「石を畳みて一小の円池とす。其の水甚だ清涼にして、冷気凛々たり。
今は茶店の庭とし、旅人憩いの便とす。」走井は、日本の名水として多
くの詩歌や文学作品に登場し、古くから知られていた。
今でも門を入るとすぐの所に井戸があるらしい。
旅人は、走井の甘露で喉を潤すと同時に、この水を使い搗いた餅で旅の
疲れを癒したという。
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走井茶屋は明治初期以降衰退した。
国道の拡張工事で町が廃れてしまい、持ち主の茶店も京都の八幡へ移り、
跡地は住む人もなく荒廃していたが、大正4(1915)年、日本画家の橋
本関雪が別荘として購入した。
関雪没後、現在の寺となるのは、昭和29(1954)年の事である。
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嘗て茶屋というだけに、一見するだけでは寺には見えない。
瓦屋根葺きの角石を積み上げた塀に囲まれ、入口は風流な竹を嵌めた戸
が建ててあるが、この日は固く閉ざされていた。
廃寺かと思ったが、そうではなく、見学は予約制で志納金を納めると
出来るようだ。
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内部は苔生した石組の庭が別世界のように広がり、滝のある美しい庭
は室町時代、相阿弥作とも伝わるもので、今もこんこんと水が湧いてい
るという。
寺では、この美しい庭園を見ながら精進料理やそばが頂けるらしいが、
本家本元大谷の名物であった「走井餅」はここには無い。(続)
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