
廊下を行き来する騒々しい足音と、話し声に目が覚めた。
時計を見るとまだ5時前である。
何かしきりに叫んでいるようだが、その会話の内容までは聞き取れない。
古い和風建築の廊下を、慌ただしく行き来する何人かの足音が高く、賑やかで、煩
いことこの上もない。どうやら宿を早立ちする男女のグループらしい。

喧騒は10分ほどで収まったが、その後再び眠りにつくことも叶わず、そのまま布
団の中でゴロゴロと過ごし、朝食の時間を迎えた。
高千穂神社近くの和風旅館に宿を取った、翌朝の出来事である。

「騒がしかったでしょ~、申し訳ありません」
朝食の準備しながら女将さんが、代わりに詫びを入れてくれた。
聞けば国見ケ岳に、歩いて登る熟年男女の登山グループだと言う。

メンバーの内の誰かが寝過ぎたらしく、出発が遅れ、慌てていたらしい。
昨夜は、賑やかに宿入りした後、一部屋に集まり酒盛りでもしていたのか、遅くま
で騒いでいたあのグループであろうが、他人迷惑な話である。
「近頃の若者は・・・」などと批判的に聞くことも多いが、「近頃の、ジジババは・・・」
決してマナーが良いものだけでもないようだ。

食事処で同席した、一人旅の男性と話が弾んだ。
「昨日、行ってきましたよ。曇っていたけど、視界は悪くなくって、最高でした」と言う。
女将さんが「歩いて・・?」と問うと「いや、奮発してタクシーで」と件の男性。
返す刀で「行かれましたか?」と私に聞いてきた。

慌てて「いや、今日これから行くつもりで・・・」と話を合わせたものの、実は今日の
予定はまだ何も決めてはいなかった。(続)

