
バスを待っていたら、「まだこんから、ここで座って待て」と、待合にいた男性が声
をかけてくれた。同じ増毛行のバスに乗ると言う。
「生活が苦しかったから、若いころは漁師やりながら、百姓もした、必死で仕事を
覚えたものだ」と、昔語りをする男性の顔は赤銅色に輝き、深い皺が刻まれていて、
人生の苦悩を物語っているようでもあった。

定刻到着したバスは、町中をめまぐるしく回りながら、停留所で発停を繰り返し、
そのたびに大勢の乗客が慌ただしく入れ替わる。
鉄道が不便なだけに、生活の足としてすっかり定着しているように見受けられる。

待合で一緒になった男性も、留萌の町外れの停留所で降りてしまうと、バスの乗
客は僅か二三人となってしまった。

バスは町中を外れ礼受牧場辺りで海岸に出ると、その先は殆ど海に沿って進む。
冬の厳しさを避けるものなのか、道路の海側にはところどころ風雪除けが建てられ
ている。浜辺に建つ民家の庭先にも、板を打ち付けたような風雪除けも見受けられる。

そんな海辺の集落の風景に加え、海越しには、まだ雪が残る暑寒別岳(だと思う)
が見え隠れし、車窓を楽しませてくれる。
並行するJR線よりも、海に近いところを走る車窓は、海岸線の変化も楽しく、中々
の絶景を見せてくれる。

留萌からは35分ほど、観光をするならここで降りると良い、と運転手に勧められた
留萌駅前でバスを降りる。「えっ、どこが駅?」バス停の前には、雑草の生えた広場
が広がっていた。(続)



