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素晴らしい!しかし表紙が(T_T)「リアル・シンデレラ」by姫野カオルコ

2017年09月05日 | 小説レビュー
~童話「シンデレラ」について調べていたのを機にライターの“私”は、長野県諏訪市に生れ育った倉島泉について、親族や友人に取材をしてゆくことになる。
両親に溺愛される妹の陰で理不尽なほどの扱いを受けていた少女時代、地元名家の御曹司との縁談、等々。
取材するうち、リッチで幸せとは何かを、“私”が問われるようになるドキュメンタリータッチのファンタジー。「BOOK」データベースより


久しぶりに清々しい読後感の小説に出会いました。姫野カオルコさんという作家さんの作品を読んだのは初めてですが、とても評判が高かったので図書館で借りてきました。しかし、この表紙だけはダメでしょう・・・(^_^;)
ポール・デルヴォーというベルギーの画家さんの作品で「クリジス」というタイトルだそうですが・・・。

年頃の娘を持つ父親としては、本の置き場にも困りますし、間違って娘が表紙を見たりしたひ日にゃ~「お父さん!なんかエロい本読んでる(ToT)/~~~」ってなること間違いなしでしょ!

通勤電車の中で読んでいても、「このオッサン、なんちゅう本読んでんねん(-_-;)」って思われますよね。なので、昨晩遅くまで読み続けたんですが、どうしても睡魔には勝てず、10ページほどを残して布団に入りました。

エンディングを予想するにあたり、「通勤電車の中で読みきってしまったら、もし涙が・・・」とも思ったので、出勤前に一気に読みきりました。(お蔭で遅刻しそうになりました(*_*;))

しょうもない前フリはさておき、ストーリーは本当に素晴らしいです。伏線回収率も素晴らしいです。文章も読みやすく、読後感も爽やかです!「リアル・シンデレラ」というよりも「リアル・ブッダ」でしょう!ヒロイン「泉(せん)ちゃん」は、まさに聖人君子です。

小さな編集プロダクションの社長である矢作は、小さい頃から「童話シンデレラ」のストーリーに疑問を持っていた・・・。
「継母と連れ子である姉たちに徹底的に苛められ、ひどい扱いを受けているが、結局その価値観は、シンデレラも継母・姉たちも同じである。」、「虐げられてきた自分が、魔法の力を借りて、王子様のお嫁さんになり、今までひどい仕打ちをしてきた継母たちを見返して、ある意味では復讐を遂げるというお話では、何とも言えない違和感を感じる。」と。

「シンデレラの人生が女性の成功の代表例みたいになっているというか・・・」、「幸せの象徴になっているというか・・・」、「幸せっていうか美しいっていうか、善きことっていうか・・・そういうのって、『泉ちゃん』みたいな人生だと思うんだよな・・・」と、編集長の旧い知り合いの「倉島泉」の人生を長編ドキュメンタリーで書き上げて欲しいと、社員に依頼します。

そして、長い年月をかけて、長野県の諏訪市や松本市、塩尻、そして東京を回って、身体の弱かった妹ばかりを可愛がった両親や、親戚、高校の同級生、諏訪の大領主様、「泉ちゃん」の友人、その同僚、料理旅館の従業員等々・・・、いろんな関係者にインタビューをしていきます。

登場人物が20人ほどいるので、その関係性を一度で理解できないのですが、編集者の女性の主観で整理する文章が入ったり、家系図や相関図のようなもの、そして旅館「たから」の図面などが所々に挿入されていて、大変わかりやすく、読みやすかったです。

いろんな立場で「泉ちゃん」と関わり、そして感じた「泉ちゃん」の人となりが朧気に、少しずつ浮かび上がってきますが、それは、その人の主観であり、また自分に都合よく形成された記憶に基づいて話している内容なので、微妙にズレがあります。

「泉ちゃん」の人となりについても、閉塞的な長野の人たちが抱く「泉ちゃん」=愚鈍、無愛想、不細工、出来が悪い・・・。と、都会で暮らしている東京の人たちが抱く「泉ちゃん」=健康的、べっぴんさん、溌剌、いつも楽しそう・・・。と、イメージが真逆なことに驚かされます。

これは見る人の心の問題だと思います。世の中に悪いところがない人なんていませんよね。

「いいとこメガネ」というCMがありましたが、人を評する時に、「あの人のココが悪い、嫌い」というところばかり見ていると悪い人物になり、「ここが素晴らしい、美しい」と良いところに主眼を置くと良い人物になります。

「泉ちゃん」のイメージが二通りある謎を解く鍵は、小学6年生の時にありました・・・。

ある意味では、とても不遇で暗い幼少期を過ごした泉ちゃんでしたが、それなりに頑張って生きていました。
ところが、「泉ちゃん」のことを唯一といってもいいほど可愛がってくれた叔父さんの洋一さんが、「泉ちゃん」と会った直後に、突然死してしまい、兄のことが大好きだった母親の登代は半狂乱になって「泉ちゃん」をなじります。唯一の拠り所を無くしてしまい、出口のない暗闇に落ちていきそうになった「泉ちゃん」を救ってくれたのは、「テン(イタチ科の動物)」のような不思議な風貌をした旅館の客人の言葉でした。

※原文はとても摩訶不思議な文章なので、わかりやすく変換しますね。

「あなたの周りの人は感じが悪い。うじうじしてる。あなたもうじうじしている。それは短所。ある人間には、ある人間の短所ばかりが目に入ることがある。するとその人間はその人間を見るといやな気分になる。みな同じ。
この世に生を受けたものは、みな同じ。偉い人も偉くない人も誰が死んでも世の中は困らない。これはあまねく平等。あなたは自分だけは例外に、死ぬと困られたいと嘆くのか?
その人がこの世からいなくなると、その周りの人々が困るから生きているのではない。その人の人生を生きているだけのこと。
あなたは、これから中学生なる。中学生なったら小学生ほど一週間を長く感じなくなる。高校生なったら中学生ほど一学期を長く感じなくなる。なにゆえ生きてるのか?大人になることは、ものすごく早いことだ。人生とは、とても短い時間であることを理解することだ。死はすぐそこにあるのだから、あわてて死ぬことはない。
もちろんあなただけではない。生きている人の、誰しも例外なく、すぐそこある死に向かっているから、怖がらなくてもよい。生きている間は生きている時間を楽しく過ごすことだ。
あなたは、あなたではない人の靴を履いてはいけない。あなたはあなたの靴で、生きている間は歩きなさい。そうすれば、幸せに過ごせる。幸せな人のそばいる人は嫌な気分ならない。」
と・・・。

この箇所を読んで少し涙がこみ上げてきました(T_T)

そして、その客人は、3つの願い事を叶えてくれると言ったそうで、「泉ちゃん」は一生懸命考えて3つのお願い事をしました。
1、妹が元気になりますように
2、大きくなったらお母さんとお父さんと離れて暮らせますように
3、・・・

この3つめが、この物語の根幹を成す部分なんですよね。この3つめの願いは、最後の最後まで明かされないのですが、美しい心を持った男性の言葉を借りて、この世に放たれます・・・。

3、自分の周りにいる自分じゃない人にいいことがあったら、自分もうれしくなれるようにしてください

他人の幸運がわがことのように感じられるよう、他人の幸せをわがことのように喜べるよう、「泉ちゃん」は願ったのである。
「えへへ。我ながら名案だったずら。他の人のラッキーポイントも自分のポイントカードに加算されるずら」と、「泉ちゃん」はニッコリ笑って言ったのでした。

そして、それからの泉ちゃんの人生は、周りの人から、どのように映ろうとも、泉ちゃん自身はとても幸せで満たされていたのだと思います。

挿入歌というか歌詞が載っている歌がまた良いんです。

ART GARFUNKEL(アート・ガーファンクル)MARY WAS AN ONLY CHILD(ひとりぼっちのメリー)

♪メリーは一人ぼっちだった
 彼女を抱きしめる人も、微笑みかける人もいなかった
 トレーラーハウスで生まれ、惨めで貧しい日々を送っていたんだ
 彼女の人生の輝きは、安物雑貨屋に並ぶ宝石のようだった

 メリーには友達もいなかった
 壁に貼ったスターの写真だけが彼女の友
 彼らの目は、彼女のほうに向いているだけで、
 見つめてはいなかった
 雑貨屋に並んだ安っぽい宝石など・・・

 夜空に輝く無数の星たち
 それらはみんな等しく輝いている
 そこに神の姿を見出すことは出来ても
 その慈しみの御心を理解することは出来ないのか
 誰が安物雑貨店の宝石なんかに気づくのだろうか

和訳「The Side Of A Hill」さんのサイトより
 
また聴いたり、調べたりしてみて下さい。切なくも心に沁みるメロディーです。

いずれにしても、心が綺麗になる、とても良い物語でした。

★★★★☆4.5です。

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