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骨太のミステリー「灰色の虹」by貫井徳郎

2018年04月22日 | 小説レビュー

身に覚えのない殺人の罪。それが江木雅史から仕事も家族も日常も奪い去った。
理不尽な運命、灰色に塗り込められた人生。彼は復讐を決意した。ほかに道はなかった。
強引に自白を迫る刑事、怜悧冷徹な検事、不誠実だった弁護士。七年前、冤罪を作り出した者たちが次々に殺されていく。
ひとりの刑事が被害者たちを繋ぐ、そのリンクを見出した。しかし江木の行方は杳として知れなかった…。
彼が求めたものは何か。次に狙われるのは誰か。あまりに悲しく予想外の結末が待つ長編ミステリー。「BOOK」データベースより


僕が好きな作家さんの一人、貫井徳郎さん作品ですが、貫井さんの文章は丁寧で緻密、物語全体を覆う緊張感が持続し、描写力が豊かです。やっぱり一流のミステリー作家さんは違いますよね

さて、本作のテーマは「冤罪」です。日本の警察、司法制度は世界一と言われていますが、それでもやはり「冤罪」はあるものです。状況証拠と自白で有罪と認められ、何十年も刑務所に入れられ、親族や関係者が一生懸命努力して、何とか再審の扉を開き、年老いてから「無罪」を勝ち取った方のニュースを見たことがありますが、本当に、その人の人生のうち何十年かはモノトーンの世界だったことでしょう。

この『灰色の虹」はタイトルが秀逸です。ずっと暗い暗い灰色の世界の中に覆われています。

罪を被せられた被疑者、そして冤罪を作り上げてしまった、刑事、唯一の目撃者、検察官、弁護士、裁判官、それぞれの視点で物語が進んでいきます。この構成がとてもよく、物語を緻密に作り上げていきます。

司法関係者は、決して冤罪を作り上げようとしてやった訳でも何でもなく、それぞれの立場では一生懸命というか、ある意味、忠実に職務を遂行したまでのことなんですね。その人たちにも、それぞれの生活があり、愛する家族がおります。貫井さんは、こういう登場人物一人ひとりをしっかりと描かれていますので、読んでいて違和感や不快感がないですね。

否が応にも高まる緊張感、「んで、結末は!?」と期待しましたが、最後のオチは今一つでした。これはなかなか難しいもので、あまり突拍子もないオチだと興ざめしますし、ある程度、予定調和を考えながら、オチをつけなければ仕方ないですよね。

復讐劇も、あまりに簡単に成功していくので、「警察もヤクザも何やっとんねん?」と、その体たらくぶりに少しがっかりします。もう少し、障害や小さな失敗とか、色々あっても良かったかもしれません。

また、「あの大人しくて何の取柄もない江木が、こんなに鮮やかに事を成し遂げていくことができるのか?」という疑問は常に付きまといましたから、この復讐劇を成功させるための周到な計画と準備が、どのようにして行われていたとか、殺された「市瀬」の、あの晩の真相がどうだったのかということも明らかにしてくれれば、もう少し納得できたかもしれません。

しかしながら、この状態で700頁ですから、そういうことに触れだすと、1000頁ぐらいになりますかね

それにしても、全てが終わったあと、振り返りの章がエピローグとして差し込まれております。その章だけはまさに「虹色」に彩られており、爽やかな読後感に包まれます。このような長編を破綻させることなく見事に完結させた貫井氏の手腕に拍手ですね。

★★★☆3.5です。

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