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コメディタッチだが深みもある!『バッタを倒しにアフリカへ』by前野ウルド浩太郎

2019年04月19日 | 小説レビュー
『バッタを倒しにアフリカへ』by前野ウルド浩太郎

~バッタ被害を食い止めるため、バッタ博士は単身、モーリタニアへと旅立った。それが、修羅への道とも知らずに…。
『孤独なバッダが群れるとき』の著者が贈る、科学冒険就職ノンフィクション!「BOOK」データベースより


図書館の人に「とってもおもしろいですよ!そして最後には涙涙(T_T)ですよ」と、薦められて読みました。

若き昆虫学者が、アフリカ・モーリタニアの厳しい自然環境のもとで悪戦苦闘しながらバッタ研究を続ける日記なんですが、ただの研究日誌ではなく、文章がとても読みやすいです。

コメディタッチで描かれているのですが、ハートウォーミングな物語で、ドラマチックでもあり、読み物としても十二分に通用する作品です。

モーリタニアの人々はもちろんのこと、フランス人や日本など、登場する方々のキャラクターがとても良いです。
特に研究所のババ所長が素晴らしい!こんな人の下で働ける研究員たちは幸せですよ。

また、京都大学の松本総長(当時)が素晴らしい!懐が広い人格者ですね。同じ京都に縁がある方として誇りに思います。

さて、内容の方ですが、ファーブルに憧れて、昆虫研究者になり、特にバッタをこよなく愛している前野ウルド浩太郎氏が、多くの人々に支えられながら、自然相手の様々な困難を乗り越えていく、ある意味ではサクセスストーリーです。

映画化されてもいい素材だと思いますね!

夢を描き、夢を抱えて、夢の世界に飛び込んで、そして夢を現実のものに変えていく姿は美しく、そして尊敬に値するものです。

作中には、アフリカでの過酷な暮らしが明るく描かれていますが、アフリカとフランス、そして日本とを行き来する中で、物資が当たり前にあることに慣れすぎていて、有難味が薄れている現代の日本人にささやかな警鐘を鳴らしてくれます。

日本や先進国と比べて、様々な生活環境の面で物資が行き届いていないアフリカの人々・・・。

実験やフィールドワークがことごとく失敗し、偉大なる自然の前に立ち行かなくなって、「もう無理だ・・・」と、諦めかけた前野氏に、ババ所長がスライドを見せます・・・。
「もし、あなたの給料が低いと考えているのなら、彼女はどうか?」と、物乞いをしている女の子の写真が表示された。 「もし、あなたの交通手段に文句を言うのなら彼らはどうか?」と、吊り橋を渡る人々の写真が表示された。 文字を書くのにパソコンを使う人と地面の砂に書く人、ナイキやアディダスなどの靴の選択肢を持っている人とペットボトルを潰し、それを靴代わりにするしか選択肢のない人……。 「あなたが不満をもっているのなら、周りを見回してあなたが置かれている環境に感謝すべきだ。幸運にも私たちは必要以上に物をもっている。際限なく続く欲望に終止符を」とメッセージが添えられていた。
「いいかコータロー。つらいときは自分よりも恵まれている人を見るな。みじめな思いをするだけだ。つらいときこそ自分よりも恵まれていない人を見て、自分がいかに恵まれているかに感謝するんだ。嫉妬は人を狂わす。お前は無収入になっても何も心配する必要はない。研究所は引き続きサポートするし、私は必ずお前が成功すると確信している。ただちょっと時間がかかっているだけだ」 と励ましてくれます(TοT)

そして、前野氏は思うのです、 「歌の歌詞ではないが、上を向いて歩けば涙がこぼれないかもしれないが、上を向くその目には、自分よりも恵まれている人たちや幸せそうな人たちが映って自分の不幸な現実を見てしまい、みじめな思いをするだけだ。しかし、一方で下を見れば、自分よりも恵まれていない人が世界には大勢いる。その人たちよりも自分が先に嘆くなんて・・・。これから辛いときには、下を見て今の自分の幸せな部分を噛み締めよう」と。

実際に、日本の帰国した際に、何でも揃っている現実に困惑したりする筆者の姿が書かれています。

よく海外に行って日本に帰国すると、「やっぱり日本が一番」と感慨深く思うでしょう?それは自国の地に帰り着いた安堵感からきてるのだと思いますが、もう一歩考えを巡らせて、贅沢すぎる自分を戒め、人や物を大切にする心を呼び覚ましたいものです。

いずれにしても、本著を読んで、色々と思うことがありましたし、是非とも若い人々に読んでもらいたい作品です。
★★★3.5です。
コメント
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