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バランスがいい!「東京ダモイ」by鏑木蓮

2018年09月13日 | 小説レビュー
男は帰還を果たし、全てを知った。
極限の凍土・シベリア捕虜収容所で起きた中尉斬首事件。
60年間の沈黙を自らに強いた男が突如、姿を消した―。第52回江戸川乱歩賞受賞作。「BOOK」データベースより


シベリア抑留については、2005年12月に「シベリア抑留について」で書いており、個展を開かれた石川俱恵さんは、2年間シベリアに抑留され、「早く忘れたい思い出だったため、人に語ることはなかった。」と言われてました。

個展開催時には、80歳ほどに年齢であったと思われますので、まさに本作の主人公:高津と同い年ぐらいの青年であったでしょう。個展に展示されている絵画は、どれも凄まじい迫力で描かれており、石川さんの艱難辛苦が滲み出ておりました。

シベリア抑留については、様々な書籍や映画、ドラマ化されておりますが、抑留を体験された方々も既に鬼籍にはいられ、その体験を語る人はほとんど残っておられないと思います。

この東京ダモイは、タイトル(「ダモイ」はロシア語で「帰還」の意味)の通り、収容された捕虜たちの日本へ帰りたいという気持ちの表れです。

さて、ストーリーは、その過酷とは一言で表現するには、あまりにも残酷な環境を生き抜き、無事に日本へ帰還する事が出来た「高津」という老人が60年の時を経て、「捕虜生活の中で人間の尊厳を蹂躙され、畜生にまで堕ちていった人々が多くあった中で、唯一、人間の心、日本人の心を取り戻させてくれた『俳句』を書き連ねた句集を自費出版したい」という申し出を小さな出版社に願い出るところから始まります。

その句集に込められたものは、単なる思い出を形に残して世に出すという単純なものではなく・・・、というストーリーです。

単にシベリア抑留のことだけを書き続けたのでは、南方フィリピンでの悲惨な作戦の末路を描いた、大岡昇平氏の「野火」のように、重たく重たくなったいくだけですし、山﨑豊子さんの「不毛地帯」のように帰還後に一人の参謀が日本社会でのし上がっていくところにスポットを当てても、また違う作品になってくと思います。

この『東京ダモイ』は、ミステリーと戦争もののバランスが、とても良く、謎解きをしながらも、戦争の傷跡を生々しく伝えてくれます。

真相が明らかになる場面や、殺人の動機について、少し無理筋を感じますが、ガッカリするほどではありません。

★★★☆3.5です。
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