素浪人旅日記

2009年3月31日に35年の教師生活を終え、無職の身となって歩む毎日の中で、心に浮かぶさまざまなことを綴っていきたい。

岐阜県各務原市の中学教諭の答案改ざんの記事には考えさせられた

2014年01月20日 | 日記
 今日の朝刊21面【くらしナビ学ぶ】に掲載されていた岐阜県各務原市の中学教諭の答案改ざんの記事にはまず驚いた。
 新聞によれば事件の経緯は次の通りである。
 2013年・11月15日 数学の定期テスト実施  18日 教諭が答案を返却し、3クラスで改ざん発覚  19日 校長や教諭が全校集会で生徒に謝罪
         20日 臨時保護者会で説明  21日 別の1クラスでも改ざんが発覚。市教委が調査委員会設置。
      12月20日 市教委が調査結果公表。4クラス80人分の答案改ざんが判明。 25日 県教委が教諭を停職3ヶ月の懲戒処分

 生徒が自分の答案を改ざんして点数を上げようとすることはよくあることで、私にも苦い経験がいくつかある。未然に防ぐために採点から返却まで隙をつくらないように心掛けてきた。この事件はその逆であるから非常に特殊なケースではある。29歳の評判の良い男性教諭については何も知らないので軽々しく論評できないが、「3クラスの点数が低かった。日ごろがんばっている子どもたちの姿が浮かび、生徒も喜ぶと思った」「教え方がよいという自分のイメージを変えたくなかった」という道機を読む限り根本的なところで考え違いをしていると思った。

 市教委の調査の担当者は、教諭が担任を務めるクラスや顧問であるサッカー部の生徒の解答に書き換えが多く、かさ上げした点数も大きかったと話している。最大30点(100点満点)のかさ上げがあったという。授業担当している5クラスで改ざんしていない1クラスが存在することも考え合わせれば、ごく一部の生徒の顔しか見えていないと言わざるを得ない。公平さを保つために自分を律するという部分が著しく欠落している。

 新学期の家庭訪問で「今度、数学の先生が担任になって喜んでます。うちの子数学が苦手なんです」と保護者の方から言われた経験が何度もある。数学担当と担任の間にしっかりとした線引きをしておかないと、このような短絡的な発想をまともに受け無用のプレッシャーとなる可能性がある。

 そういう保護者には、「授業はどのクラスも同じようにすることを心掛けている。ただ、クラスの学習会などでは数学に関してはどうしてもセーブしがちになってしまう。以前、美術の先生が、自分のクラスで数学のドリルをガンガンさせて平均点を上げたことがあった。私でも数学以外の教科だったら気楽に学習会を取り組むことができる。数学を教えている私が担任になったことが良かったか悪かったかはわからないですよ。音楽の先生が担任になったからといって合唱大会で優勝するとは限らないのと同じですよ。」というような主旨のことを話していた。

 教師は学校の中でいくつかの仕事を持つ。私の最後は、数学の担当者、担任、サッカー部顧問、生徒会(文化委員会)担当という4つの顔を持って生徒ひとりひとりと接していた。場合によっては自分の中で利害の対立が生じるというまことにやっかいな側面がある。優先順序を考え、制御していくことを常に心掛けないといけない厳しさがある。

 その点で、この男性教諭、内に向かう思考が著しく欠如していたように感じた。

 また、点数が上がれば生徒も喜ぶ。という発想は貧しい。私の経験では厳しい基準できちっとつける方が生徒は伸びる。かつて1年生を担当した時の最初の定期テストの後、ちょっとしたミスに「今度からはしないからまけといて」という生徒が多くいてびっくりしたことがあった。聞いてみると小学校の時、担任の先生がそうしてくれたと言う。少しのミスは交渉次第で○にできるという感覚を持った生徒は詰めが甘くなってしまうのは当然のことである。目の前の点数だけにこだわり、自分の力と正対できない生徒をつくってはいけない。

 その点でも、この男性教諭の罪は重い。

 個人の資質に大きく関与した事件であったと思うが、背景には平均点のみで教育の評価をみる昨今の風潮が関係していることも否定できない。学テ公表が進むとかつてあった不正操作が再び生じる恐れはある。そういうことも考えてしまう今日の記事だった。
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