かどの煙草屋までの旅 

路上散策で見つけた気になるものたち…
ちょっと昔の近代の風景に心惹かれます

刈谷市郷土資料館/旧亀城尋常高等小学校本館(愛知県刈谷市)

2012-12-09 | 西三河の近代建築

名鉄刈谷市駅のすぐ西、旧上天温泉と竹内産婦人科のある御幸町からさらに北西へ向かうと、刈谷城跡のある城町があります。
刈谷城跡のすぐ東側にある亀城(きじょう)小学校の校舎の南側に、大中肇の代表作として知られる旧亀城尋常高等小学校本館が刈谷市郷土資料館として再利用され保存されています。
大中の作品は表現主義的作風で知られていますが、この建物は大中肇流の表現主義を体現したもので、彫の深い装飾が施された「かたまり感」のあるデザインは、まさに大中ワールド全開です。
また旧本館の東側にあった講堂は、旧本館よりもさらに装飾性の強い大中流表現主義の代表作と言えるものでしたが、惜しくも1986年に取り壊されました。
在りし日の講堂の姿が白半建設さんのHPでご覧になれます→http://www.hakuhan.com/profile2/

建物の構造は、柱や梁、外壁を鉄筋コンクリート造、屋根は瓦葺きの木造とした鉄筋コンクリート造の初期の構造で、1920年代(大正末~昭和初)の愛知県の地方都市では多く見られる手法です。
屋根を木造の瓦葺きにするのは理由があり、現代では鉄筋コンクリート造のビルの屋上は平面(陸屋根)なのが当たり前ですが、当時は防水技術が未発達で工事が大変だったため、費用も安く工期も短くできる従来通りの瓦葺きの屋根が採用されたようです。

建物の平面は南側に教室、北側が廊下の「片廊下式」と呼ばれるもので、現在の学校もほとんどがこの配置になっています。
直接関係のない話ですが、学校の教室は冬場の南の窓側はぽかぽか天国、北の廊下側はツンドラ地帯で、まさに席替えが運命の分かれ道だったのが思い出されます。(わたしの時代は暖房が無かったので、冬場の席順はみんなの一大関心事でした)

◆刈谷市郷土資料館(旧亀城尋常高等小学校本館)/愛知県刈谷市城町1-25-1
 竣工:昭和3年(1928)
 設計:大中肇
 施工:岡本宇吉・杉浦惣太郎
 構造:鉄筋コンクリート造地上2階
 撮影:2012/10/08
 ※国指定登録有形文化財


■外観は左右対称凹型で、正面中央に玄関車寄、両翼は屋根の妻面を見せ手前に張り出し強調するバロック建築風



■東翼妻面外観~軒、柱頭、腰壁などにシンプルな幾何学模様の装飾を施す。
柱を強調したデザインで、2階部分には亀城の「キ」の文字が浮き彫りになっていて、大中肇の遊び心を感じます。





■正面玄関車寄~中央の小さな二つの窓がかわいい



■玄関入口~ホールの奥に見えるのは中央階段



■旧本館の説明立て看板と登録有形文化財のプレート



■玄関ホール~鉄筋コンクリート構造を示す柱を結ぶ天井の大梁が良く分かります



■中央階段~親柱のデザインに注目
 


■中央階段吹き抜けと東側2階廊下を望む



■中央階段照明



■2階廊下~大きな窓の上部には欄間を設け採光・換気に配慮しています



■東階段
 


■当時の教室が再現された展示室



■黒板にも装飾が



■昭和30年代の再現展示~最近の昭和ブームで昭和30年代の暮らしを展示する郷土館・博物館が多くなりました



■懐かしの「昭和のおもちゃ」コレクション



今回昭和3年に建てられた旧刈谷小学校本館を訪れて、小学校が白くて四角いトーフ建築になる前の、まだ学校建築に生き生きとした個性が存在した大正~昭和という時代の良さをあらためて感じました。
最近は公立の小中学校も個性のある校舎が増えてきたようで、鉄筋のトーフから木造に建て替えるケースもあるようです。
時代は繰り返すとはよく言ったもので、経済性と効率性重視ではなく、子ども(人間性)重視の校舎がこれからもどんどん増えて、現代版旧亀城小学校のような個性的な小学校の校舎も増えると良いですね。 
ちなみに私の通った小学校は戦前に建てられた木造校舎で、玄関の丸窓やワックスの匂いのする古い板張りの廊下、木製の手摺のある広い階段などが大好きで、卒業と同時に鉄筋の校舎に建て替えられた時はすごく残念で、寂しかったのを今でも良く覚えています。