彼とはMCの施設までの距離の中間点ぐらいにあるセブンイレブンの所で別れた。
トイレを借りたいとのことだったが、もしかすると私と話すのが好まなかったのか、または長い時間、寒いなかをカレーをもらうために待っていたのでお腹が冷えたのか、どうかは分からないが彼は確かに薄着だった、疲れたスウェットの上下を着ているだけ、ジャンバーなどの上着を着ていなかった。
施設に戻り、私はブラザートーマスに「刺青の彼にロザリオをあげていないの?」と聞いた。
刺青の彼と言うだけでブラザーも彼だと言うことが分かった。
「いま彼と一緒に帰って来たんだよ」
「そうですか、今日会ったんですけど、ロザリオを持っていなくてあげれなかったんです。彼にもロザリオの祈りを一緒に祈りたいんですが、院長がダメだって言うんですよ」
「そうなんだ、うん、自分もまだ彼には早いと言うか、難しいと思うよ。他人とうまく関わることが出来ないかも知れないね」
「そうですか」
「なんかマリア様のカードでもあったら、それも彼にあげてね」
「分かりました」
ブラザーは彼がマリア様が好きなのであれば、彼にもロザリオの祈りを一緒に祈って欲しいと考えていたが、私はまだ難しいのではないかと感じていた。
私は彼がマリア様が好きなのと、私たちと一緒にロザリオの祈りをすることが彼の同一の望み、救いになるようには思えなかった。
彼がほんとうに祈りたいと思うようになった時まで待っても良いのではないかと考えていた。
それからもしかするとMCの前を彼が通るのではないか、そうすればロザリオをいま渡すことが出来ると私は思い、外の喫煙所の所で彼を待っていた。
そこにはマリア様の像がある、「たまに見に行くんですよ」と彼が言っていたマリアである。
このマリア像は一度誰かに壊されたことがある、治された傷が残っているマリア像であるからこそ、誰よりも優しく癒し、許すこと、を深く強く伝えているような気がする。
そしてこのマリア様は彼の痛み、苦しみを知っている、私もマリア様のように彼を見守っていき、祈りたいと思った。
しばらく待ったが、彼の姿をまた見ることは出来なかった。
すべてはマリア様に委ね、私には祈りだけが残された。