劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

「絵本と演劇Ⅲ」

2008年06月08日 | 創作活動

 ある出版社から「月刊絵本『てんに のぼった こたろう』(作・佐野語郎 絵・清水耕藏)」が届けられた。最近は高校・大学での授業と「演劇ユニット 東京ドラマポケット」の活動に集中しているため、童話創作の方は開店休業状態といったところ。この絵本の初出は1981年7月で今回久しぶりの再版だが、好きな作品だったので正直嬉しかった。
 童話は、文学としての豊かさにおいて大人の小説に決して引けを取らない。その自由な世界と思いがけない展開に読者を導くには、緻密な構成と描写力が作者に求められる。また、創作の根底には鋭い人間観察と深い主題の旋律が流れていなければならない。
 ところで、月刊絵本の場合は童話の創作ではなく、「ネーム」の仕事になる。昔話を素材にした画面(『てんに のぼった こたろう』の場合、見開き28ページ)に短い文章をつける作業である。【この作業過程や演劇との共通性については、「絵本と演劇Ⅰ・Ⅱ」(メニュー「創作活動」2007年1月)に書いたので、ご覧いただければ幸いです】また、「ネーム」の仕事は、原作があるということ・昔話を限られた画面数で構成するということ・各画面では絵と文(ことば)によって表現するということなどの点で、舞台演出の仕事に近いといえる。戯曲・場面構成・舞台美術と台詞(俳優のことば)が物語絵本の表現要素に対応するからである。慶應義塾大学「映画演劇論Ⅲ」の授業で、一つの原作を対象にした表現方法の違い(伝承文学→絵本→映像(アニメーション)→演劇)を取り上げることもある。
 絵本と演劇といえば、読者と観客という違いはあるものの、作品の送り手と受け手・創造サイドと鑑賞サイドという関係は同じく存在する。童話や絵本の読者が子どもたちであることは確かだが、若者や大人の心をとらえないかというと、そんなことはない。幅広い読者を得られるかどうかは、その作品の質と深さに掛かっている。『てんに のぼった こたろう』は、主人公のこたろうが天に昇って帰ってくるまでの物語だが、「羽衣伝説」や「竹取物語」に重なる部分がある。絵本を見た慶応義塾の学生は、「ジャックと豆の木(つる)」を想起させると言った。私の若い友人の愛息R君に一部プレゼントしたところ、早速メールが届いた。〈昨晩、私が晩御飯を作っているとき、「部屋でやけに静かにしているなぁ・・・」と思ったら、部屋の端っこで、遊んでいた手を止め、いただいた絵本に見入っていました。〉「現実とは別次元の世界に遊ぶ」という意味では、絵本も演劇も同じである。

*写真左上は、絵本『てんに のぼった こたろう』表紙。写真左下は、慶應の学生。写真右はR君4歳。


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