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劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

新作オペラ『雪女の恋』制作過程11<本番/第二幕>

2019年05月01日 | オペラ
<休憩>後、客席のざわめきが収まったころマエストロが再び登場すると、待ちかねたかのように温かい拍手が送られた。第五場「山の神、恋に裁断を下す『三年目、雪女に戻るべし』」のタクトが振られる。
 ヒトを逃がして命を救い ヒトを慕いお山を捨てる 掟破りは 許されぬ
 わたしは 女 ゆきおんな 恋も命の 雪の精 恋の炎は 消せませぬ  

 命を懸けた妹の 恋の炎は消せませぬ 真の恋なら かなえてあげたい
山の神はこゆきと姉ふぶきの捨て身の訴えを前に、ついに裁断を下す。
 お山と下界は別世界 雪女と里人は異なる命 別れる運命
 人里降りて三年目 月が一夜で欠ける年 天空の満月が新月に変わる夜 里の女の姿は消えて もとの雪女に変わるべし その夜 こゆきは お山に戻る
雷鳴の響きで神の姿は消え、やがて合唱が浮かび上がって、第六場「こゆき、里女小夜になり 弥助と幸せな暮らしを送る」が歌われる。
舞台は大詰め<運命の夜>のクライマックスを迎える。よちよち歩き始めたわが子の手を引きながら登場する主人公。「眠らせ唄」を歌う姿に母の幸せがあふれるが、それもこぼれて消えてゆく。里女小夜となって弥助と結ばれはしたが、三年目「別れる運命」を迎えていたのだ。弥助も気づいていた、女房が実は雪女こゆきであることを。気づいていたが別れが怖くて言い出せなかったのだ。嘆き葛藤する二人。追い詰められた中で、こゆきはつぶやく。そして歌う。弥助もその歌に唱和する。
 掟は掟 運命は変えられない でも 心は心 掟に縛られない
 心は 運命も動かせる
 小夜は消える 運命だから こゆきはお山に帰る 掟だから
 でも わたしと弥助は 別れない
 こゆきの心に 弥助がいる 弥助の心に こゆきがいる
 こゆきと弥助は 変わらず夫婦
 運命を超えて 二人は結ばれる
里女小夜から再び雪女の姿に変わったこゆきと弥助は空間を超えて歌い合う。
 弥助は命を懸けてお山へ来てくれた こゆきは命を懸けて人里へ来てくれた
 嫁になれて 幸せだった 嫁にできて 幸せだった
 いっしょに生きて幸せだった ふたりのいとし子
 お願い 幸せに この手で 幸せに
 お願い 必ず 必ず 幸せに
第七場「『三年目』が訪れ苦悩する二人 人里と山奥、運命を超え愛は貫かれる」はこうして終わり、第八場「人里に舞う雪 山奥にふぶく雪」の合唱が甦り終演となる。
カーテンコールとなった瞬間、『ブラボー!』の声と大きな拍手で会場全体が包まれた。
ソリスト、コーラス、マエストロ、オーケストラ、そして、作曲家と作者も舞台から聴衆の皆さんに黙礼して、無事に公演は幕を閉じることができた。


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新作オペラ『雪女の恋』制作過程10<本番/第一幕>

2019年04月12日 | オペラ
 客席の雰囲気は、開演前のロビーの期待感そのままに温かさに満ちていた。照明が落ちて一瞬の静寂が訪れる。登場するマエストロに光が当たり、大きな拍手が送られる。オーケストラメンバー=ピアノ・ヴァイオリン・チェロ・フルート・ハープ=の眼が指揮者のタクトに集まる。オペラ『雪女の恋』のテーマが流れ出す。聴衆はその豊かな音楽の世界に入ってゆく。
 女声コーラスの…雪やこんこん 雪こんこん…の美しい調べに、男声コーラス…山の里には ゆきがふる…が加わり、合唱は大きなうねりとなって会場いっぱいに広がる。第一幕第一場「人里に舞う雪 山奥にふぶく雪」の始まり―合唱は物語の「語り手」である。山の掟<聖なる山を侵す人間を追い払え、命を奪え>が山の神のアリアと雪女姉妹の重唱によって歌われる。
 第二場「雪女こゆき、里の若者弥助と出会う」に移る。主人公こゆきが、山に迷い込んだ里人弥助と出会うが殺せない。『命が惜しくばお山へ来るな!』と逃がしてしまう。『助けてくれて、ありがとう』弥助の澄んだ目が忘れられないこゆき。
 そんな妹に不安を感じる姉ふぶき。恋に落ちれば、山の掟・雪女の務め「人を凍らせ、命を奪う」が果たせなくなるからだ。第三場「こゆき、弥助を思う 姉ふぶき、恋に落ちる妹を思う」である。
 そこへ<凍死>の恐怖に負けずこゆきに会いたい思いに突き動かされた弥助がやってくる。動揺するこゆき。姉の不安が的中しこゆきは恋に落ちる。ふぶきは、妹を守るためにも山の掟に従うためにも、里人弥助を凍死させようとする。こゆきは気を失った弥助の前に飛び出し救おうとする。第四場「弥助、こゆきを求めて現れる 掟をめぐって争う姉と妹」は、こゆきの『わたしは 弥助が大切 雪女 捨てたい!』という悲痛な叫びで終わる。
 後奏のタクトが結ばれ暗転になると、一気に拍手が沸き起こり、<休憩>に入る。


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新作オペラ『雪女の恋』制作過程9<本番当日開演前>

2019年04月01日 | オペラ
 ついに“怒涛の一日”が始まる。東京文化会館入館と同時に、制作と舞台スタッフは分刻みのタイムスケジュールで動き始める。地下の楽屋回りと階上の舞台とで同時に作業が進行する。舞台監督の統括の下、ピアノの調律が終わり、美術・照明スタッフの建て込み・シュートが始まる。衣裳・ヘアメイク担当が各部屋で準備する。出演者・演奏家が楽屋入りする…。
 制作担当の私は二期会事務局スタッフと連携しながら、ロビー設営・配布物(プログラム・アンケートほか)の準備に取り掛かる。お昼ごろ、ロビー奥に「ミニ書展」が設置される。今夜上演されるオペラの歌詞が三人の書家によって見事に作品化されたのだ。(この三点の書は、昨秋、上野・東京都美術館「奎星展」で展示されている)

【佐野語郎作『雪女の恋』より】
 星のすべてが こゆきに変わる
  舞い散る雪が 弥助をつつむ  成田誠一
             
 掟は掟 運命は 変えられない
心は心 掟に縛られない
心は 運命も 動かせる    菅田和萌

 月が一夜で欠ける年
天空の満月がたちまち新月に 変わる夜  畠中一美
 
 午後からはゲネプロ。演出家はスコアをもとに照明家と最終的な打合せを済ませる。出演者・演奏家が定位置に着き、指揮者のタクトでスタートする。アンコールの段取りもきちんと行われるので、台本作者としての私も少しだけステージに立って一礼する。
 いよいよ18:00、定刻通り開場となる。当日売りのチケットもかなり出て、小ホールのロビーはお客様でいっぱいになる。開演までの時間を「ミニ書展」を鑑賞したり、「贈り花」に見入ったりして、まもなく始まる音楽劇に期待を寄せている様子がうかがえる。


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新作オペラ『雪女の恋』制作過程8<会場内の公演広報・衣裳合わせ・通し稽古>

2019年03月12日 | オペラ
 2月に入り本番まで4週間を切ると、チケット販売の動きが慌ただしくなる。チケット取扱いの「二期会チケットセンター/東京文化会館チケットサービス」への問合せやチケット申込みが活発になるとともに、主催者サイドによる<手売りチケット>も追加の必要が出てきて、制作担当の私も忙しくなる。公演会場の東京文化会館のロビーには大ホール・小ホール催事のラックが設置されており、わが『雪女の恋』のチラシも収められる。続いて壁面には公演間近となったポスターも掲示され、電子パネルには公演情報が掲示される。
 一方、稽古場では稽古の合間に「衣裳合わせ」が行われる。ポスター撮影のために昨年仕上げが済んでいた主役こゆき以外の衣裳が製作されていたのだ。稽古場は、オケ音楽稽古・キャスト稽古・合唱稽古それぞれ別々の施設で進められてきたが、本番の月に入ると、キャストと合唱の合同稽古、そしてオケメンバーがさらに加わった「三者合同稽古」が実施され、本番前日の通し稽古(東京文化会館リハーサル室B)を迎える。
 東京文化会館事務室前の荷物棚には、各音楽団体から配送された段ボール箱がずらっと並んでいる。わが東京ミニオペラカンパニーのものも到着しており、所定の場所に収められている。公演当日に配布されるプログラム・アンケート用紙・関係者出演のコンサートチラシなどだ。
 さて、明日は本番。朝から夜まで怒涛の一日になる。


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新作オペラ『雪女の恋』制作過程7<キャスト・合唱・オケ音楽稽古>

2019年01月29日 | オペラ
 稽古場が確定すると、立ち稽古に備えて「模型舞台」が提出される。演出プランに基づき装置家が会場の寸法に合わせ設計した作品で、それによって出演者全員とスタッフおよび広報関係者が舞台のイメージを共有する。
 昨年11月からソリストを対象とする「キャスト稽古」が先行して始まったが、年が明けると<立ち稽古>の段階に入った。それまでの指揮者による歌唱指導およびピアニスト(=作曲家)による演奏に加えて、演出家によるミザンセーヌ(楽譜に沿った舞台の動き)と演技指導がシーンごとに行われる。それらを受けて何度も繰り返されるソリストたちの歌唱と演技。1月も後半になると、暗譜が進みヴォーカルスコアが手から離れる。ソリストたちは「歌手」から「人物」に変わっていく。雪女・里人 ・山の神が歌い動き、稽古場に<雪女の恋の世界>が繰り広げられる。
 コーラスメンバー12名の「合唱稽古」もスタートした。ここでも指揮者とピアニストが指導に当たる。『ゆきやこんこん ゆきこんこん やまのさとには ゆきがふる…』女声の柔らかく美しい合唱が広がり、男声の魅力的な声がわき起こり、混声合唱になって冬山に吹きすさぶ雪の世界がたち現れる。やがて、そこへ劇の人物が現れる…。
あらためて、合唱の美しさ、声楽の魅力を感じさせられるひと時だ。
 そして、小編成オーケストラ5名の「オケ音楽稽古」も始められる。ヴァイオリンとチェロ、フルートにハープ、ピアノが奏でる音楽の豊かさと迫力に圧倒される。後半の七場は、フルートのソロパート「子守唄」から始まる。その温かく優しい音色は、聴衆の心を主人公の内面にゆっくりと導く。フルートが笛なら、ハープは琵琶か琴。あの“流れ下りせり上がる”ような独特なグリッサンド奏法は美しく流麗な響きを醸し出す。
 2月はいよいよ公演を迎える月になる。キャスト・合唱・オーケストラによる「合同稽古」、「通し稽古」、「ゲネプロ」、「本番」へと進んでゆく。


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