詩と詞は、小説と戯曲(脚本)の関係に近い。それは鑑賞の方法が、本を読むという行為と俳優の演技を見つめるという行為とに分かれるからである。それと同様に、詩poemと詞words;lyricsとは異なる。広い意味での詩形式poetryは共有するが、前者は読書を通して鑑賞され、後者は歌手の歌唱によって聴衆に届けられる。
「詞」は読まれるのではなく聴かれることを想定し、歌手や合唱団による歌唱表現を前提にして書かれている。戯曲(脚本)のセリフが俳優の言語および演技表現を前提にして書かれると同様、「詞」は詩人の言葉のみによって完結する「詩」とは異なり、作者から離れた言語および演技的・音楽的表現を通して成立する文芸だということになる。
オペラ“Opera”はクラシック音楽に分類されていてそのほとんどがドイツ・イタリアを中心とする西欧古典作品であり、“lyric drama”とも呼ばれる叙情詩の歌劇である。日本人歌手はそれを原語で歌唱することになるが、オペラファンは演じられる歌劇のストーリーも有名なアリアや重唱もよく知っているので、外国語であっても楽しめる。しかし、オペラ体験の浅い聴き手にとっては言葉の壁は厚い。公演プログラムには「物語・登場人物・各景ごとの内容」が掲載されているが、やはり、歌手が歌う言葉そのものが理解できないと楽しめない。たとえ字幕で訳語が映されたとしても直に心に響かない。
そこで、私は日本語による新作オペラの制作を企画し、オペラユニット「東京ミニオペラカンパニー」を立ち上げ、タイプの違う二つの作品を創作し上演することでオペラファンの裾野を広げたいと願った。これまでも創作オペラ・日本語による新作オペラは発表されてきたが、そこに見られる問題点を検討し演劇的にも音楽的にも魅力ある現代オペラを生み出したいと考えたわけである。





東京ミニオペラカンパニーと創作ミニオペラ公演①
2016/07/18 16:30:06 カテゴリー:オペラ
新作オペラ『雪女の恋』制作過程1<脚本①>
2018/03/10 20:14:52 カテゴリー:オペラ
今後、オペラにおける母語の詞とは/ドラマティックな構成台本とは/一般に親しまれる作品世界とはを追求するとともに、歌手やコーラスの歌唱表現に求められることにも言及していきたい。