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劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

「詞」――歌われるための文学~オペラおよび歌曲を中心として⑴

2020年12月20日 | オペラ
 詩と詞は、小説と戯曲(脚本)の関係に近い。それは鑑賞の方法が、本を読むという行為と俳優の演技を見つめるという行為とに分かれるからである。それと同様に、詩poemと詞words;lyricsとは異なる。広い意味での詩形式poetryは共有するが、前者は読書を通して鑑賞され、後者は歌手の歌唱によって聴衆に届けられる。
 「詞」は読まれるのではなく聴かれることを想定し、歌手や合唱団による歌唱表現を前提にして書かれている。戯曲(脚本)のセリフが俳優の言語および演技表現を前提にして書かれると同様、「詞」は詩人の言葉のみによって完結する「詩」とは異なり、作者から離れた言語および演技的・音楽的表現を通して成立する文芸だということになる。
 オペラ“Opera”はクラシック音楽に分類されていてそのほとんどがドイツ・イタリアを中心とする西欧古典作品であり、“lyric drama”とも呼ばれる叙情詩の歌劇である。日本人歌手はそれを原語で歌唱することになるが、オペラファンは演じられる歌劇のストーリーも有名なアリアや重唱もよく知っているので、外国語であっても楽しめる。しかし、オペラ体験の浅い聴き手にとっては言葉の壁は厚い。公演プログラムには「物語・登場人物・各景ごとの内容」が掲載されているが、やはり、歌手が歌う言葉そのものが理解できないと楽しめない。たとえ字幕で訳語が映されたとしても直に心に響かない。
 そこで、私は日本語による新作オペラの制作を企画し、オペラユニット「東京ミニオペラカンパニー」を立ち上げ、タイプの違う二つの作品を創作し上演することでオペラファンの裾野を広げたいと願った。これまでも創作オペラ・日本語による新作オペラは発表されてきたが、そこに見られる問題点を検討し演劇的にも音楽的にも魅力ある現代オペラを生み出したいと考えたわけである。
 最初は、シェイクスピア劇『ハムレット』原作のミニオペラ『悲恋~ハムレットとオフィーリア』(2016年JTアートホールアフィニス)。次に日本の伝説から『雪女の恋』(2019年東京文化会館小ホール)をオペラ作品として制作した。その意図や目的、また具体的な制作過程は、下記のブログに掲載したのでご覧頂きたい。

  

東京ミニオペラカンパニーと創作ミニオペラ公演① 
  2016/07/18 16:30:06 カテゴリー:オペラ 
 新作オペラ『雪女の恋』制作過程1<脚本①> 
  2018/03/10 20:14:52 カテゴリー:オペラ

 今後、オペラにおける母語の詞とは/ドラマティックな構成台本とは/一般に親しまれる作品世界とはを追求するとともに、歌手やコーラスの歌唱表現に求められることにも言及していきたい。
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「観てみたい聴いてみたい日本語オペラ」を創って広めたい

2020年07月10日 | オペラ
 『雪女とオフィーリア、そしてクローディアス 東京ミニオペラカンパニーの挑戦』を刊行した出版社が新たにウェブサイト(オウンドメディア)を立ち上げ、個人出版された様々な分野の書籍および著者を紹介している。本書の場合は、「小説」に収められ<戯曲・オペラ>の注が付けられている。

 佐野 語郎|幻冬舎ゴールドライフオンライン
https://life.gentosha-go.com/list/author/佐野 語郎

 上記のサイトは「連載形式」をとっているので、WEBマガジンとして読みやすいように一作品を数十回に分けて掲載している。現在第22回を迎え、喜歌劇『クローディアスなのか、ガートルードなのか』の第一幕第四場中庭「あなたは この月を どこで眺めているの?」がアップされている。編集者が付すこのタイトルは、作中の詞からとられていて、その場面の主題および人物の中心的心情が表現されている。また、そのタイトルバックの画像もそれにフィットしているため、読者も毎回の「記事」に入りやすい。単行本の内容がこうして「WEBマガジンの連載」として紹介されるのは初めての経験だが、そのタイトル決めと画像選びを著者として楽しみにしている。
また、この連載には次のようなコメントが掲載されている。

「演劇のもつドラマ性とクラシック音楽の表現力、歌唱による日本語の美しさと演技の魅力を広く知ってほしい!」
 日本語によるオペラの愛好者でない人でも楽しく読めるように、雪女の伝説とシェイクスピアの代表作『ハムレット』を素材にした戯曲を、連載でお送りします。

 これは本書刊行の意図でもあるが、脚本家として演出家として<演劇から歌劇へ、ストレートプレイからオペラへ>創造活動の軸を移した者の思いでもある。
 …「観てみたい聴いてみたい日本語オペラ」を創って広めたい
 母語(日本語)による歌劇の創作へ傾斜していった経過は、下記の当ブログ記事に書いている。

語られる歌と歌われる音楽(終) 
2017/10/09 18:56:00 カテゴリー:オペラ 
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創造の根源にあるもの~劇の主人公と舞台上演③

2020年06月15日 | オペラ
 青年期から壮年期にかけて演劇一筋に走り続け、劇の主人公に自分自身の思いを託してきたが、老年期を迎え演劇からオペラにシフトしてからは彼女や彼に寄り添うような姿勢に変わったかもしれない。登場人物を通して強く訴えるよりも彼らの生そのものを差し出す。生きる痛みと人間への愛しみを彼らに寄り添うようにして表す。運命に引き裂かれ思いを遂げられなかった劇中人物へのオマージュがそうした舞台表現になっていた。
 日本語によるオペラ、芸術性の高い音楽劇をモットーに立ち上げた「東京ミニオペラカンパニー」は、二本の新作オペラを上演した後、その活動の全体像を「雪女とオフィーリア、そしてクローディアス 東京ミニオペラカンパニーの挑戦」(幻冬舎/2019年)にまとめた。
 第1章脚本/第2章上演/第3章東京ミニオペラカンパニーの仕事/巻末付録楽譜。脚本には、『悲戀~ハムレットとオフィーリア』『雪女の恋』(ともに世界初演)に加えて、新作書き下ろし『クローディアスなのか、ガートルードなのか』(未上演)を収録した。
 本年の賀状には、次のような「名句選」を添えてみた。上演や執筆によって出会った主人公への私なりの供花だった。




※舞台写真:ミューズハウス(堀 衛)
イラスト:Newton Press CLASSICS Illustrated 5 ハムレット(1997年)より


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創造の軌跡~演劇における音楽、オペラにおける演劇(終)

2020年04月07日 | オペラ
 「演劇における音楽」というモチーフは、数十年前の<ストレートプレイにおける生の音楽>を端緒として、近年の<音楽演劇というジャンルの開拓>、<音楽演劇の追求と展開>へと向かい、<全体演劇の復活>をもって終止符を打つことになった。
 では、「オペラにおける演劇」というモチーフはどうか。
半世紀以上も演劇畑に身を置いた私がどうしたことがキッカケでオペラに関わることになったのか。オペラは歌劇と名付けられてはいてもクラシック音楽のフィールドに属するのに、なぜ「ミニオペラ」というジャンルに意欲を燃やし個人プロデュースまで担うことになったのか。
 その経緯および理由は当ブログの「語られる歌と歌われる音楽」(2017年8・9・10月)などに詳しいが、オペラの専門家による客観的な視点からその上演活動や創作内容を批評した論考が、近著『雪女とオフィーリア、そしてクローディアス 東京ミニオペラカンパニーの挑戦』(2019年・幻冬舎刊)に収められている。
 ※「音楽演劇『オフィーリアのかけら』からミニオペラ『悲戀~ハムレットとオフィーリア』へ(206ページ)/『雪女の恋』から『クローディアスなのか、ガートルードなのか』へ(244ページ)【森佳子 オペラ研究者 早稲田大学・日本大学非常勤講師(音楽学)、早稲田大学イタリア研究所招聘研究員】
 また、同書には「オペラにおける演劇」をいわゆるグランドオペラにおける演劇性ではなく「ミニオペラ」という小歌劇ならではのドラマ性や劇的展開について、さらに「日本語オペラ」の可能性と重要性について制作サイドから述べられた文章がまとめられており、以下にその一部を抄録する。
 …戯曲をオペラ化するのではなく初めから歌劇のための脚本を、演劇のセリフに付曲するのではなく歌唱されるための日本語の詞が書かれなければならない。そのためには作曲家との創作上の協働作業が不可欠である。演劇と音楽の骨法は異なる。その構成や表現法にはそれぞれ別の常識がある。『雪女の恋』の執筆は、作曲家とのやり取りに相当の時間を要し第八稿の段階で確定稿となった。…【佐野語郎 劇作家・演出家 東京ミニオペラカンパニープロデューサー】
 …私なりのオペラもあるような気もしていた。それはきっと、非常にわかりやすく、オペラを初めてみた人にも即座に親しみをもってもらえる作品だろう。佐野語郎氏の台本はそういった私の考えに「ぴったり」だった。インスピレーションをかき立てられる 言葉、シンプルだけど奥が深い表現、厳選された心理描写…作曲は概ね順調に進んだと思うが、克服しなければならない課題があった。…【鳥井俊之 作曲家・ピアニスト 聖徳大学音楽学部教授】
 …東京ミニオペラカンパニーの目指すところは、「うた」ということに尽きるのだと思う。オペラの舞台から不用なものを差し引いてゆくと、最後に残るのが人間の声。「うた」で人間を表現できる声。私の演出の仕事は、うたに潜むドラマを引き出し、うたを支える身体を発見し、ギリシャ古典劇以来、舞台芸術が創り上げてきた様々な演技の様式を、その発想にまで溯り、単なる型でも形でもない、身体感覚のリアリティとして捉え直す作業にあった。…【十川 稔 オペラ演出家 東京藝術大学音楽学部、二期会オペラ研修所にて舞台演技を指導】
 …『雪女の恋』に現れる情景も心理も、「静寂」の中でこそ気付けるような繊細で豊かな情感に満ちています。普通の生活であればそれは自分一人の感覚でしかありません。それを音楽表現として拡大して客席の皆様にも感じ取って頂き、共有出来るようになるというのが、オペラという芸術の素晴らしいところであると思います。日本語ならではあるいは日本人ならではのオペラ表現をお楽しみ下さい。【佐藤宏充 指揮者 東京藝術大学音楽学部非常勤講師、二期会オペラ研修所講師】
 …美しい日本語による歌と、本質に即したシンプルな舞台で新しいドラマを作り出す…!大きな舞台や装置、様々な演出、時には舞踏などもオペラの楽しみの要素ですが、心動くドラマを伝えることが最も重要だと考えます。基本的に「音とうた」で全てを表しながら、演劇的にも納得のいく芝居を展開する…それによりドラマが色濃く表出される舞台を創ることが、今回の目標と言えるでしょう。【宮部小牧 オペラ歌手(ソプラノ) 二期会・声楽アカデミー会員、聖徳大学・フェリス女学院大学講師】 
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新作オペラ『雪女の恋』制作過程12<公演を終えて>

2019年06月30日 | オペラ
あちこちからかかるブラボーの声、呼び戻されるように繰り返されるカーテンコール。客席からロビーに出て来られる来場者に挨拶をする。西洋比較演劇研究会の仲間も駆けつけてくれていて、短い会話を交わす。この瞬間、芸術的時間空間を共有できたひと時こそ私にとって大きな歓びである。
 東京文化会館を退館後、徒歩数分の料理店で「打ち上げ」が行われる。心地よい疲労感と解放感を仲間とともに味わうこのひと時が待っているからこそ、半世紀以上も舞台にかかわり続けて来られたといってもよい。
 本番翌日には、東京二期会事務局大門さんからの報告メールが送信される。
入場者数は一般 461 学生22 招待券24
合計 507名 座席数649なので 78.36% 
18:30 開演 (休憩19:31-19:47) 20:50終演
当日券
A 6,000円×5枚=30,000円
B 4,000円×16枚=64,000円
学生 3000円×1枚=3,000円
計 97,000円
月曜日という平日公演としては、上々の入りだそうである。

 当日のアンケート用紙に記入する時間のなかった方から次々とメールによる「感想」が寄せられた。

…あれだけの内容を新たに作り出し、曲をつけ、演奏家や歌い手の皆さんがチームになって仕上げていく過程がどれほどたいへんなものか私には想像できませんが、内容は悲しいものでありながら、心が潤い、豊かになったように感じました。日本の伝説に基づいているのに、雰囲気はギリシャ悲劇のようで、音楽も西洋的な響がして、せりふや動きも精選されている。私はオペラというものを観たことは一度しかありませんが、今回特に男性お二人の発声がとても聞き取りやすくてびっくりしました。衣裳もとても素敵でした。今回一回だけの上演ではもったいないので、これからも何度も再演していただきたいと思います。(Y)
…日本語の台詞、小規模で舞台装置のないシンプルなオペラは私には初体験でそれだけに新鮮でした。公演で何より驚きましたのは演者の方々の歌唱力の素晴らしさで大掛かりな装置のない中、それだけに「ブラボー」の一言でした。シンプルな舞台での演技という点では日本の能に通じる点もあるのではと思いました。オペラにはドイツ在住中には何度も出かけました。私どもが住んでおりましたデュッセルドルフには立派なオペラハウスがありまして市がその運営を補助しておりました関係からチケット代も安かったのです。でも演目はもちろん日本語ではなく、イタリア語やドイツ語でしたので見に行く前には日本から持っていきましたオペラの本で「オベンキョウ」しなければなりませんでした。舞台も大きく装置も大掛かりで登場人物も多く、オーケストラは舞台の客席寄りの低いボックスの中で客席からはほとんど見えませんでした。帰国後も友人に誘われて何度か外国からくるオペラには出かけましたが、それらはいずれも形式は私がドイツで見ましたものと同じでした。このようなわけで昨日のオペラは本当に異質で「見てよかった!」と思います。(G)
…「オペラは、総合芸術である」ということを実感したひと時でした。
日本のオペラを有料で鑑賞するのは初めてのことですが、「雪女の恋」の初演に立ち会うことができたのは、私の音楽人生の中でも記念碑的なことになるのではないかと思います。企画、脚本、作曲、演出、指揮、演奏、歌唱のいずれもが高い技量で力を発揮し、全てが混然一体となって素晴らしい音楽劇となっていました。オーケストラの構成もよかったと思います。幻想的な表現には、やはりフルートはいいですね。
今回の演奏を聴いていて、二重唱や三重唱の美しいハーモニーが、魔笛のそれを思い出させるほどでした。このオペラがスタンダードとなって今後長きに亘って演奏されることを願っています。このような演奏に触れることができて、私自身本当に幸せな時間を過ごすことができました。ありがとうございました。(K)

 このようなお客様からの声に接するとプロデューサーとしての充実感に満たされるし、何より初めて仕事を共にした仲間(指揮者の佐藤宏充氏)から寄せられた言葉―『…新作オペラの初演、良い台本と良い作曲、歌手・合唱・オーケストラ、そしてお客様の感動、すべてが揃うことは本当にまれです。…』―に深い感動を覚えるのだった。

 「東京ミニオペラカンパニー」というオペラユニットを結成した当初の目的が果たせたので、いわば、第一期の活動はこれをもって終了となる。関係者から「再演」の希望も出ているので、第二期の活動がいずれ始まるかもしれない。


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