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“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

蜷川幸雄さんの遺産としての新版『ビニールの城』 そして本日「劇作家たち、蜷川幸雄氏を語る」

2016-08-06 | Weblog
1985年。唐十郎作『ビニールの城』第七病棟の浅草常磐座初演は忘れがたい。
当時、龍前照明に入ったばかりの竹林功、映画館を上演会場にする作業のために当時燐光群の劇団員も手伝いに行ったはずだ。常盤座のスノコには厚み十センチの埃が積もっていたという。
唐十郎、石橋蓮司、緑魔子、そして携わったスタッフ皆の代表作といえるだろう。浅草の街からそのまま続く闇の深さ、水とビニールの仕掛け、俳優たちの執念と居ずまい。どれをとっても第七病棟の一番いいところが出たといえるものだった。
ある雑誌の過去の演劇を振り返る投票で一位になったこともあったはずだし、アングラ小劇場演劇の最高傑作という人もいるくらいだから、観た人たちの思い入れも半端ではない。
第七病棟は七十年代半ばまで現代人劇場・桜社で蜷川さんと共働していた人たちが作った劇団だ。唐さんの傑作『盲導犬』は第七病棟の前身のその集団で生まれた。以来、龍前照明の吉本昇さんが照明担当のメンバーだった。そして、オペレーターとして、今は亡き青木博志さんも龍前照明のメンバーであり、第七病棟の劇団員だった。
第七病棟の音響は、市来邦比古さん。
そして、燐光群は旗揚げ以来、吉本さん市来さん青木さんの人脈のお世話になってきた劇団である。
演劇界には、1975年に現代人劇場・桜社から商業演劇に進出した蜷川さんを久しく許していない人がいる。蓮司さんも後に蜷川さんの映像作品には出たが、一緒に舞台を作ることはなかったはずだ。そうした演劇史にまつわる人間関係に触れてきた上で、私は蜷川幸雄さんと2007年初演の数年がかりの大作『エレンディラ』で一緒に仕事をすることになるが、ある人には「蜷川さんと仕事をするのだったらしばらく君とは距離を取る」と言われたこともある。

そんな関係を経て、『ビニールの城』を蜷川幸雄さんが演出するという噂を聞いたのは冬頃だったか。ところが蜷川さんが亡くなられた。
演出は出演者の一人だった金守珍さんが担当することになったと聞いた。
キャスティングは蜷川さんだという。『ビニールの城』の上演に向け、病床に台本を持ち込みこの舞台への意欲を燃やしていたと聞くので、ひょっとしたらいくらかはコンセプトを提示していたのかもしれないが、「監修・蜷川幸雄」と記されている。
金さん演出ではあるが、蜷川さんの遺産としての新版『ビニールの城』ということになっている。
金さんは蜷川さんのもとで演劇をはじめ、唐さんの状況劇場に移り、やがて自身で「新宿梁山泊」を旗揚げしたが、ここ数年蜷川作品に俳優としてよく出ていた。

金さんとは三十年来のつきあいになる。某ホテルのイベントの仕事を数年間一緒にやったし、「新宿梁山泊」には『東京アパッチ族』を書き下ろした。
最近ご無沙汰していたが、金さんが稽古の合間に『ゴンドララドンゴ』を観に来てくれて、『ビニールの城』のゲネプロに誘ってくれたので、ちょうど劇作家協会の「戯曲セミナー夏期公開講座 2016 夏のプログラム」の一つとして「劇作家たち、蜷川幸雄氏を語る」というプログラムに出演することにもなっていたため、その前日というこのタイミングで観ておくべきだという思いもあった。
初日前なので新版『ビニールの城』の内容について詳しく述べることは控えたいが、『ゴンドララドンゴ』劇中でも触れている蜷川さんの口癖である「冒頭3分が勝負」ということに関連して言えば、金さんから伝えられていたことは、新版『ビニールの城』は「今回は幕開き8分勝負になっています」ということだった。

与えられた条件の中で、金さんは、すべきことをしていた。「新宿梁山泊」のふだんよりも豊かに、自由にできたことも多いだろう。
宮沢りえ、森田剛コンビは、石橋蓮司、緑魔子のお二人とテイストが違うのは当たり前のことで、このご時世では当然時代遅れである「ビニ本」「腹話術師」を現在に成立させるべく、しっかり身体を張っていて、すがすがしかった。毅然として向かえば、演劇はインターネットやコンピューターグラフィックに回収されることはないのだ。
唐さんがテント向きの劇ではないものとしてしっかり戯曲を書き分けていることも再確認した。
三十数年のいろいろな記憶、思いが渦巻いた。
蜷川さんも、確実にそこにいた。


さて。
「劇作家たち、蜷川幸雄氏を語る」、本日夕方4時からの開催ですが、当日券も出せるようです。ご興味のある方、他に予定のない方、ふらりと高円寺においでください。

以下、開催情報。

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「劇作家たち、蜷川幸雄氏を語る」

日程: 2016年8月6日(土) 16:00ー18:00
会場: 座・高円寺2 JR中央線 高円寺駅 北口 徒歩5分

蜷川さんが演出した、戯曲を書いた劇作家。
蜷川さんの舞台を見て、この世界を志した劇作家。
蜷川さんの存在に、絶えず刺激を受けていた劇作家。
そして、蜷川さんの演出をつぶさに見ていた演出家。
蜷川さんが演出したシェイクスピア作品の翻訳家。
蜷川さんに関わった人々証言を通して、
その偉大なる軌跡を検証します。

(蜷川幸雄氏写真提供:舞プロモーション)

<登壇> 作品名は蜷川幸雄氏演出作品

・青木豪 2008年『音楽劇 ガラスの仮面』/2010年『音楽劇 ガラスの仮面 ~二人のヘレン~』
・石丸さち子 ニナガワカンパニーで蜷川氏の演出助手多数
・坂手洋二 2007年『エレンディラ』
・鈴江俊郎 1996年『溢れる果実』
・福田善之 2009年『真田風雲録』
・前川知大 2014年『太陽2068』
・横内謙介 1996年『魔女の宅急便』/1996年『カルメンと呼ばれた女』/2000年『NINAGAWA 火の鳥』

<映像出演>
・唐十郎×蜷川幸雄 対談 (10 分)
・松岡和子 彩の国シェイクスピア・シリーズ約30作品の翻訳

[料金] ¥1,000 (区民・劇作家協会会員は¥900)

《劇作家協会公開講座 2016年 夏》戯曲セミナー公開講座 / 次代を担う劇作家を育成するためのプロジェクト

年に一度の公開講座を、2日間にわたって開催する中のプログラムの一つとして開催されますが、この企画単独でも聴くことができます。


http://www.jpwa.org/main/activity/openclass
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