Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

リチャード・フラナガン『奥のほそ道』

2018-08-10 | Weblog

リチャード・フラナガン著『奥のほそ道』(訳:渡辺佐智江 白水社)を読む。

後書きにもあるように、部分的に、映画『クワイ河に虹をかけた男』にも関連する内容。
ここ三年、「アジア共同企画」でタイに通い、舞台の一部となっている泰緬鉄道跡地にも、取材に行っていた。これは自分にとっても、読まなければならない本だった。
タイトル通り、「日本」という要素が、外部の様々な認識を通過して、解体され、或いはより直截に、迫ってくる。
 
圧倒される緻密さと骨太さ。繊細と剛胆が同居する、大作。まさに小説らしい小説、というべきだろう。
人間の意識と無意識、客観と主観、過去と現在、現実とまぼろしを行き来する、ここ数十年来の小説技法の世界的な進展を貪欲に取り込んでいるともいえる。
凄まじい勢いで一読したが、これからも読み返すことになるだろう。
 
自分と同年の海外の作家が、戦争と歴史をめぐる、そしてジャンルとしての実験を試みる、こんな重厚な小説を書いていたのだ。
 
ここには、シンプルな教訓がある。
人は決して、自分自身のことなんか、わかってはいないということだ。
逆にいえば、わかっているからこそ、そこから逃れようとするのだ。
 

早川書房「悲劇喜劇」時代、ハヤカワ演劇文庫でもお世話になった鹿児島有里さんが、編集を担当されている。

 

以下、白水社HPより。

リチャード・フラナガン著『奥のほそ道』(訳:渡辺佐智江 白水社)

ブッカー賞受賞!「傑作のなかの傑作」と絶賛 過酷な〈死の鉄道〉建設と、ある女性への思い

1943年、捕虜の軍医ドリゴは〈死の鉄道〉建設で地獄のような日々を闘っていた。そこへ一通の手紙が届き、すべてが変わってしまう……

1943年、タスマニア出身のドリゴは、オーストラリア軍の軍医として太平洋戦争に従軍するが、日本軍の捕虜となり、タイとビルマを結ぶ「泰緬鉄道」(「死の鉄路」)建設の過酷な重労働につく。そこへ一通の手紙が届き、すべてが変わってしまう……。
本書は、ドリゴの戦前・戦中・戦後の生涯を中心に、俳句を吟じ斬首する日本人将校たち、泥の海を這う骨と皮ばかりのオーストラリア人捕虜たち、戦争で人生の歯車を狂わされた者たち……かれらの生き様を鮮烈に描き、2014年度ブッカー賞を受賞した長篇だ。
作家は、「泰緬鉄道」から生還した父親の捕虜経験を題材にして、12年の歳月をかけて書き上げたという。東西の詩人の言葉を刻みながら、人間性の複雑さ、戦争や世界の多層性を織り上げていく。時と場所を交差させ、登場人物の心情を丹念にたどり、読者の胸に強く迫ってくる。
「戦争小説の最高傑作。コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』以来、こんなに心揺さぶられた作品はない」(『ワシントン・ポスト』)と、世界の主要メディアも「傑作のなかの傑作」と激賞している。

[著者略歴]
リチャード・フラナガン
オーストラリアのタスマニア州で生まれ育つ。高校中退後、リバーガイドなどさまざまな職業を経て、タスマニア大学、オックスフォード大学で文学を学ぶ。デビュー作Death of a River Guide(1994)で南オーストラリア州文芸祭文学賞をはじめ、オーストラリアの主要文学賞を受賞。3作目の『グールド魚類画帖:十二の魚をめぐる小説』の英連邦作家賞受賞(2002年度)で世界にその名を知らしめた。第二次世界大戦中に父親が生き延びた過酷な捕虜経験を元に12年の歳月をかけて書かれた本書は、2014年度ブッカー賞を受賞し、各国の書評子から「傑作のなかの傑作」と絶賛された。その他の作品に、The Sound of One Hand Clapping、『姿なきテロリスト』。(以上、邦訳はすべて渡辺佐智江訳、白水社)。 

[訳者略歴]
渡辺佐智江
英米文学翻訳家。キャシー・アッカー『血みどろ臓物ハイスクール』で翻訳家デビュー。1993年、同書の翻訳紹介によりBABEL国際翻訳大賞新人賞を受賞。リチャード・フラナガン『グールド魚類画帖』、ジム・クレイス『死んでいる』(以上、白水社)、アルフレッド・ベスター『ゴーレム[100]』(国書刊行会)、アーヴィン・ウェルシュ『フィルス』(パルコ)など訳書多数。


https://www.hakusuisha.co.jp/book/b357614.html

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